(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
ロシアのウクライナ侵略が核兵器の国際的な拡散を促進するという見解が米国で広まってきた。
ウクライナが独立当初に核兵器を放棄したことが今回のロシアの侵略を招いたという指摘、そしてロシアのプーチン大統領がウクライナへの攻撃で核戦力の準備を指令したことが核の威力を改めて国際的に印象づけたとする指摘が、米国の識者らから発せられている。今後、世界の多くの国が国際紛争における核の効力を認識するようになるであろうという「核兵器拡散」傾向への警告である。
「ブダペスト覚書」を反故にしたロシア
ワシントンの安全保障研究機関「民主主義防衛財団」(Foundation for Defense of Democracies)の戦略政治研究部長ブラッドレー・ボウマン氏は、2月末に発表した「プーチンのウクライナ侵略は核兵器拡散をあおる」と題する論文で、ロシアのウクライナ侵略と核兵器との関連を指摘した。
ボウマン氏はこの論文で、ウクライナが1991年に旧ソ連から独立するまでは世界第3位の核兵器保有を続けてきたことを指摘し、94年のブダペスト覚書で合計1800基もの核弾頭やミサイルを放棄したことが今回のロシアの侵略の主要因の1つとなった、と分析していた。