オリガルヒの一角、米欧の制裁を恐れスーパーヨットを移動

米欧がロシアのSWIFT排除に踏み切ったほか、同国のオリガルヒ(新興財閥)を対象とした制裁措置を決定しました。資産凍結の包囲網が張り巡らされるなか、ロシア人富裕層の一部は、ウクライナ侵攻からスーパーヨットや自家用ジェットを移動させています。

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CNBCがマリン・トラフィックを基に報じたところ、ロシア国営のルクオイルのヴァギト・アレクペロフ社長(総資産216億ドル)のスーパーヨットは、欧州連合(EU)加盟国のスペインを離れ、数日でモンテネグロに到着する予定です。ただし、モンテネグロは2月28日にEU加盟の方針を堅持し、米欧の制裁を順守する意思を表明済しました。一連の発言を受け、アレクペロフ氏が目的地を変更してもおかしくありません。

アレクペロフ氏自慢の大型ヨット”ギャラクティカ・スーパーノバ”は全長約70mで、エレベーターはもちろん、滝が流れるガラス底のプールやヘリポートまで備え付けた豪華仕様ですからね。気になるお値段は、約8,400万ドル(約97億円)也。

その他、少なくとも3隻のヨットはインド洋に浮かぶモルジブを目指しているといいます。モルジブと言えば、ここ数年でロシア富裕層のリゾート地として人気を呼んでいましたね。2021年6月末時点で、モルジブへの国別の旅行者でロシア人は堂々1位の12万4,651人と全体の4分の1を占め、2020年比で331%増、2019年比でも190%増と急増していたのです。これまで中国やドイツが上位でしたが、コロナ禍の影響で特にロシア勢の躍進が目立ちました。

チャート:モルジブへの入国者数、ロシア人が押し上げ2021年は前年比130%増の約130万人まで回復

(作成:My Big Apple NY)

サッカー・ファンにしてみれば、実業家ロマン・アブラモビッチ氏がオーナーを務める英プレミア・リーグの強豪チェルシーをめぐる処遇が気掛かりだったはずです。執筆時点の3月1日時点でアブラモビッチ氏は制裁対象ではありませんが、米欧が一枚岩でロシアのSWIFT排除を決断した2月26日、クラブの経営をクラブの慈善団体に移管すると発表しました。

そのアブラモビッチ氏は、プーチン大統領がドンバス地方の軍事作戦を発表し事実上のウクライナ侵攻を開始した2月24日、プーチン氏主催のオリガルヒとの会談に参加するにあたって、自家用ジェット”ボーイング787-8ドリームライナー”で飛んできました。

その他、化学肥料大手ウラルカリのドミトリー・マゼピン会長は”ガルフストリーム G650”でセーシェルから、鉄鋼最大手セベルスターリのアレクセイ・モルダショフ会長は”ボンバルディア・グローバル 6000”でNYからモスクワ入りしたのだとか。ロシア1位の富豪であるモルダショフ氏の自家用機は、そのままセーシェルへ戻っていきましたが、そこには5億ドル相当のスーパーヨットが停泊中とされています。

ちなみに、ロシアの億万長者ランキングは2021年6月時点のフォーブス誌によれば、以下の通り。トップ10でニュージーランドのGDPに相当しますから、まさに恐ロシア・・・。

チャート:フォーブス誌、2021年4月時点でのロシア版長者番付

(作成:My Big Apple NY)

米欧が制裁対象としたオリガルヒには、長者番付1位で鉄鋼大手セベルスターリのアレクセイ・モルダショフ会長に加え、6位で天然ガス大手ノバテクの大株主ゲンナジー・ティムチェンコ氏、7位で複数の企業のオーナーを務めるアリシェル・ウスマノフ氏が並びました。トップ10圏外では、石油大手ロスネフチのイゴール・セチンCEOが入っていますが、一部では十分ではないとの批判が聞かれています。ただ、米欧としては戦況次第で段階的に対象を広げていくに違いありません。

プーチン氏の金庫番であるオリガルヒの資産凍結と差し押さえは、政権を揺るがしかねず、米欧はウクライナ侵攻が続く限り、包囲の網の目を緩めることはないでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年3月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。