ウクライナ情勢から見る「近くて遠い中露関係」(岩崎 州吾)

グローバル・インテリジェンス・ユニット アナリスト 岩崎 州吾

去る2022年2月4日(北京時間)、氷点下の冷気が「鳥の巣」と呼ばれる国家体育場と選手らを包む中、2大国のトップによる「新時代の幕明け」を象徴するかのように握手が交わされた。ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席である。

この2大国により共同で声明が発せられたことは歴史上大きな意味を持ち、プーチン大統領も、「世界中で比べられない程一番強固な関係である(“a relationship that probably cannot be compared with anything in the world.”)」と発言した(参考)。

握手を交わす中国の習近平国家主席(左)ロシアのプーチン大統領(右)
出典:GlogalResearch

実際中国とロシアは首脳会談で、西側諸国の安全保障の枠組み「AUKUS」や北大西洋条約機構(NATO)から我が国の東京電力福島第一原子力発電所に係る処理水の海洋放出についてなど包括的に話し合ったという(参考)。

では、この2か国が共同声明で示した通り、中露の蜜月という単純な「新時代」の構図を見せるのだろうか。昨今のウクライナ情勢も踏まえつつ、今後の国際秩序について考えてみたい。

まず中露関係だが、これまで幾度となく蜜月な関係を対外的に示してきた。例えば、米中貿易関係が激化した去る2019年6月5日、習近平国家主席がクレムリンに足を運びプーチン大統領と首脳会談を行った。会談では、習近平国家主席がプーチン大統領を「親友」と呼ぶなど、中露関係の良好さを対外的に示している(参考)。

また、この蜜月関係は民間の研究にも及んでおり、特に宇宙開発はその最たる例であろう。ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスは去る2021年3月9日に、宇宙開発の分野で互いの連携を強調し、米国が主導する有人月探査「アルテミス計画」に対抗する構えを打ち出した(参考)。

しかし、こうして定期的に中国とロシアの友好的な関係を発信しつつも、実際にシリア内戦などで事態が推移すると両国とも表面上は単独行動を見せ、安保理決議で反対表明をするとき以外は単独行動が目立っていた。こうした両国の関係性から、単に米国の秩序に挑戦する蜜月の関係というわけではないのではないかという疑問が生じる。

カーネギー・モスクワ・センターのアレクサンドル=ガブ-エフ上席研究員によると、中露関係の築く重要なファクターとして、「国境の安定化」と「経済的な依存」、それから「特異な統治体制」を提示している(参考)。

国境については、両国とも広大な国土を有していることから接する国境線も長く、かつて冷戦時代には、ダマンスキー島で武力衝突にまで至っている。経済的依存については、ロシアが世界有数の資源大国であり、中国はその主な輸出相手国となっている。そして、言及するまでもなく特異な統治としては、西側諸国に対抗する構図で両国の正統性を確立している。

ダマンスキー島に侵入している様子
出典:RUSSIA BEYOND

こうしてみると中国とロシアにとって蜜月関係でいることで関係の安定化を図っており、中露間の対立要素を可能な限り払拭するためには米国の存在が不可欠であるということがわかる。

しかし、緊迫しているウクライナ情勢を契機に、中露の単独行動にも変化が見え始めている。例えば、去る2022年2月16日(北京時間)、ウクライナ情勢を巡り米国とロシアが対立を見せている中、中国外務省は米国が軍事的脅威を“演出”し、緊張を作りだしていると批判して、ロシア側に立った(参考)。

またロシアがウクライナ侵攻後も、中国外務省はイギリスやEU諸国と会談し、ロシアの安全保障に関する訴えは重視され、適切に解決されるべきだと、対外的にロシアの主張に理解を示す内容が発表されている(参考)。

ウクライナ問題を巡り関係国に交渉再開を求める王毅中国国務委員兼外相
出典:日本経済新聞

ウクライナ情勢における中国の介入は、確かに今後発生しうる台湾問題を想定したものと捉えられるかもしれない。

しかしここで重要となるのは、今回ロシアが引き起こしている問題のウクライナは中国にとって一帯一路の重要なハブであるということである。中国にとってウクライナは中国とヨーロッパを繋ぐ重要な拠点となっており、一帯一路への参加表明をいち早く表明した国であることも忘れてはならない。すなわち今回中国とロシアとの利権が重なりあう場所がウクライナであり、今後の展開次第では中国とロシアの関係の死角となり得るファクターとして重要なのである。

このことから米中露関係、とりわけ中国とロシアとの関係の歪みを呈する契機となるのがウクライナ情勢である可能性が高く、ロシアのウクライナ侵攻には中露関係の死角を突いた米国の思惑も見え隠れするのである。

グローバル社会においてヴォラティリティ―を繰り返し生んできた米中露の3か国だが、「グローバル共同ガヴァナンス」も変容しつつあり、この意味でウクライナ情勢とその先の展開から目が離せない。

中国とロシアとの関係に影を落とす皮肉な“新時代”となってしまうのか、ポスト・ウクライナ危機へ向けた国際秩序形成とその先の展開に注視すべき展開である。

岩崎 州吾(グローバル・インテリジェンス・ユニット アナリスト)
株式会社 原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
University of Kent (Master of Arts in European and Global Governance) 修了。証券会社にて為替取引やM&A分野における提案資料の作成などを担当した後、2021年11月より現職。