ロシアの「核恫喝」を許すな

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ロシア側に誤算の可能性

ロシア・プーチン大統領の指令により、ロシア軍は2月24日、ウクライナ全土に対して国際法違反の軍事侵攻を開始した。しかし、その後、ウクライナ軍の抵抗が予想以上に強く、ロシア側の被害が拡大し、進軍の速度が当初の計画よりも遅れているとの海外情報も流れている。

現に、2月27日ウクライナ国防省高官は、ロシア軍がウクライナ侵攻時の戦闘などで、兵士約4300人を失い、戦車146両、航空機27機、ヘリコプター26機を失ったと主張している(2月27日「ロイター通信」)。これが事実だとすれば、ロシア側に誤算の可能性がある。

プーチン大統領の常套手段「核恫喝」

そのためであろう、プーチン大統領は、2月27日ショイグ国防相、軍参謀総長と協議し、核戦力を含むロシア軍の戦力を特別態勢にするよう命令した。これはNATO(「北大西洋条約機構」)のロシアに対する経済制裁を含む攻撃的な姿勢に対抗するためとしているが、「核戦力」をちらつかせることで、制裁を強めた欧米をけん制する狙いが明らかであり、「核恫喝」と言えよう。

プーチン大統領による「核恫喝」は何も今に始まったことではない。その最大の理由は、通常戦力においてロシア軍は、米軍やNATO軍に比べて著しく劣るからである。

ロシア軍は2008年の「グルジア侵攻」で、欧米から提供された装備に比べ著しく劣っている事実が露呈した。そのため、ロシアは、米国とほぼ対等なのは核兵器だけなので、同分野の優位性を死守し誇示することに躍起となり、「核恫喝」を常套手段としているのである。

米国・NATOは「核報復」の決意を示せ

ロシアの常套手段である「核恫喝」を恐れるがあまり、これに屈服し、ロシアの要求を受け入れることは、ロシア側の思うツボである。そのことは正義と秩序と国際法の死滅を意味する。したがって、米国およびNATOは、ロシアの「核恫喝」に対しては、恐れずに「核報復」の決意を明示すべきである。

その理由は、ロシアがNATOのみならず、非核保有国のウクライナに対しても「核恫喝」を行っているからである。しかし、核保有国による非核保有国に対する「核恫喝」がまかり通るならば、国際秩序に与える影響は甚大である。それは非核保有国に深刻な動揺を与え、NPT体制(「核不拡散条約体制」)を根底から揺るがし、北朝鮮、イランなど、「核拡散」の流れは止められなくなる。

したがって、万一、ロシアがウクライナ領内やNATOに対して核兵器を使用すれば、米国およびNATOは、即座に「核報復」を行う決意であることをプーチン大統領に対して直接伝えるべきなのである。これが「核抑止」にもつながるからである。

ロシアの「核恫喝」を許すな

そのためにも、自由・民主主義陣営のトップ・リーダーである米国には「強い指導者」が求められる。1994年の「ブタペスト覚書」で、ロシアとともに、ウクライナの安全・独立・主権を保障して核を放棄させたのは外でもない米国である。にもかかわらず、米国のバイデン大統領は、ロシアに対しては最初から金融制裁のみであり軍事介入しないことを早々に明言した。ロシアのプーチン大統領に安心感を与え、「足元」を見られた可能性が高い。

このような弱腰のバイデン大統領ではなく、「何をするかわからない」トランプ前大統領のような強い指導者ならば、ロシアの「核恫喝」を許さず、「核恫喝」には「核報復」の決意の明示で対抗できるのである。トランプ前大統領自身が述べているように、トランプならば今回のウクライナ侵攻を抑止できた可能性が極めて高いと筆者は考える。

現に、米国ハーバード大学の米国政治研究センターなどが米国人に対して実施した最新の世論調査によれば、米国大統領がトランプ氏だったらロシアのプーチン大統領はウクライナに侵攻しなかったとの回答が62%に上った。また、プーチン氏が侵攻を決断したのはバイデン大統領の弱さが見透かされたからだとの回答も59%に上っているのである(3月1日付け「西日本新聞」参照)。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は、核を含む安全保障を米国に全面的に依存する日本にとっても決して他人事ではないのである。「核抑止力」を含め、いつまでも米国に頼り切らず、最終的には「自分の国は自分で守る」気概と覚悟と英知が求められよう。