会社はどうしたら成長できるのだろう?

会社の成長は事業を行う私にとって最大のテーマです。どうしたら成長し続けられるのか、チャレンジと失敗の連続ですが、それを怖がらずに突き進むことが全てだと思います。

パナソニックの社長に昨年4月就いた楠見雄規氏が日経のインタビューに出ていました。その中で気に留まったのがこの発言です。「パナソニックは30年間成長していない」と。理由について「10年先の未来を描こう、というと『10年先にどういう業界で競争力を持ってお役立ちしている』という話になる。ただ、『自分たちがどういう社会を実現するか』というところまでは描けていない」と答えています。

企業が大組織になると社員一人ひとりの立ち位置は埋もれがちです。パナソニックのように事業数が多くなるとトップと一般社員の間の温度差は大きいものになります。社員にハッパをかければ「部長、こんな新製品、どうでしょうか?」「うーん、悪くないね」で役員会にかけて担当外の人がいろいろケチをつけて最終的には可もなく不可もなくの新製品が生まれます。

これはパナソニックに限ったことではなく、概ねどこも似たようなものでしょう。

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2週間前の日経ビジネスの特集はキーエンスでした。日本企業の時価総額においてトヨタ、ソニーに次いで第3位、営業利益率は55%、社員の平均年収1751万円とすべてが圧倒しています。ある製品に関してそれまでのパナソニックとの取引からキーエンスに乗り換えた事例が掲載されていました。特集全編から読み取れるその強みは営業力とそのスピード感、更に社員の極めて高い闘争心のように見えます。

正直、私は感動はしませんでした。これだけで企業の強みとなるのか、もっとアピールするものがないのだろうか、と思ったのです。言い換えればこの会社は社員の能力が会社としての強みで、パナソニックが学ばねばならない点ではあります。しかし、この会社にはストーリーがないように感じました。これほどマスコミに出てこない会社も珍しく、粛々と自分の仕事をこなし、別世界を築いているかもしれませんが、損をしている部分もある気がします。

会社の成長を考えるうえでパナの楠見社長の自分たちの10年後が描けないと吐露した苦悩は日本企業が行き詰まっている本質を言い当てている気がします。

あなたは何のために会社に行くのか、何のために非正規から社員を目指すのか、何のためにサービス残業も厭わないのか、と聞いた時、建前はともかく本音は「お金」と「安定」だと思います。もっとたくさん、そしてもっと安定的に、です。

北米は転職が非常に頻繁に繰り返されます。それは従業員一人ひとりに自意識が高く、「俺の能力はこんなものではない」「私のやるべきことが他の会社ならもっとあるかもしれない」という前向きの転職が多いと感じます。お金ではなく、自分が何ができるか、です。しかし、日本の転職は「とりあえず安定を」からスタートします。

北米では社会人を数年間やり、自分の能力が社会と差があると感じた時、どうやったら秀でることができるか必死に考え、勇気ある人は2度目の大学や大学院に戻ったり資格取得に専念します。今週号の日経ビジネスに紹介されているサンリオエンタテイメント社の小巻亜矢社長は51歳にして東大大学院に進学しています。生涯学習、安泰を求めるべからず、です。

私がカナダ政府に移民申請をした際、その自己アピールのレターに「私がカナダに移民すればカナダ経済や社会にどれだけ貢献できるか」を書かされました。今でも同じはずです。私ごときがカナダにどれだけ貢献できるか、これまたずいぶんな大げさな内容ですが、そういう見方や考え方が世の中には必要なのです。

私はカナダで事業を展開する中で何らかの社会貢献を考えています。かつてコーヒーショップを経営すると決めた時、「サンダル履きで近所の人が集まれるコミュニティの場」を作りたいと始めました。デベロッパーはコンクリートの箱を作るのが商売ではない、という反逆でした。8年間経営したのち、今は別の方がやっていますが、今でもコミュニティから愛されるコーヒーショップとして繁盛しています。

商業スペースの大家事業でもポリシーがあります。家賃を払ってくれるならだれでもいいわけではないのです。その場所に必要な商店を迎え入れることが最も重要なことです。昨年秋、パンデミックで一店舗空きが出ました。私は不動産屋を一切介さず、独自に募集を募るのですが、2週間で10数件の問い合わせがありました。その中で私が最も着目したのは業種と事業者の熱意です。

そして私が選んだのはヘアサロンです。なぜなら周りになく、近隣の人は皆、遠くまで行かねばならないからです。ところがその方は今回初めて独立する人でいろいろな面で一般的な審査は通らない方です。私はこの人と何度も話をした結果、いざとなればこの人のビジネスを支えるという決断を下し、相場より安いリース料からスタートし、毎年上昇させるリース料で提供することにしたのです。

大家とは何か、といえばテナントと一心同体になり、その距離感を縮めることにあります。そして店舗を通じて近隣住民への利便性を通じた社会貢献をすることなのです。

では社会貢献だけで事業は成り立つのか、と思う方もいるでしょう。私の本業のマリーナ事業は申し訳ないですが、キーエンスの営業利益よりもっとはるかに上を行きます。それでも契約更新時期を終えた今、全ての顧客から「お前のところが一番だ」と言ってくださり、空き待ちリストは5年以上になっています。それは顧客を大事にする、そして常に寄り添う気持ちがあるからです。クレームがあれば改善するまでお金をかけてでも直ちに行動するのです。

私が支援している介護事業にしても国際運輸事業にしてもトップがとても熱意があり、自らが顧客と直接やりとりしてコミュニケーションをしています。顧客の事情は100人100様です。それに対して持てる知見やノウハウを駆使してどうやったらうまくいくか、を考え、行動し続けるからこそ、この厳しい時代でも成長できるのだと思っています。

待っていても客は来ません。客が今、望んでいることは何か、そしてこの先、事業環境がどう変わるのか、それはトップ自らが現場の空気を知ることでしかわかりえないものだと思います。日本では顧客の声は担当ベースに留まり、本当の声はトップには聞こえません。だから私は顧客一人ひとりと直接やりとりします。仮に一年に一度でもやり取りするからこそ、顧客は安心してくれるのです。

大きい会社はなかなかこんなことできないでしょう。小さい会社でもここまでパッションをもって仕事に当たる人は少ないかもしれません。泥臭い仕事だと思います。しかし、便利で効率主義になった時代だからこそ、へとへとになるまで人間関係を構築する努力をする必要があるのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月10日の記事より転載させていただきました。