為替政策に発想転換を:円だけが無防備状態

アメリカの2月度のインフレ率が発表になりました。事前予想通りの昨年同月比7.9%上昇で引き続き40年ぶりの記録となっています。問題は来週開催されるFOMCでの利上げの決定がどのような内容になるのか、そしてフォワードガイダンスをどうみるかという点に注目が移ってきています。

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その中で私が気になるのは円ドルの為替相場です。アメリカのインフレ率が高めに出た→FOMCがタカ派的な金融政策を発表するだろう→ドル買い円売りの流れが強まる公算→チャート的には116円台を飛び越えて118円から120円に向かう展開があり得るかもしれません。

116円台は今年1月、2月とも一時的につけていたのですが、その後、円高に振れる展開でした。今回着目しているのは2月11日に116円台をつけた後、ウクライナ問題で一昔前なら「有事の円買い」だったものがさして円買いにならず、114円台後半でとどまったのち、この数日間、着実に円安への展開となっている点です。今起きているのは、有事の円買いが起きず、資源国通貨買いと中国元買いになっていることです。

中国元は対ドルで2020年5月に1ドル7元越えだったものがその後、多少の上下はあるもののトレンドとしてほぼ一貫して元高に推移し、現在は6.3元程度まで元高ドル安になっています。一方、中国元/円も1中国元が2020年5月頃に15円程度だったものが現在は18円半ばまで円安となっています。特に気になるのは対米ドルではウクライナ問題が出始めたころから元高の傾向がより強く出ている点です。

このブログで為替の話題を時折振ってきました。ご意見には円はドル、ユーロというトップグループの次につけており、中国元なんてローカルカレンシーだという声も頂きました。しかし、そういう見方をしているといつの間にか、時代に取り残されるとみています。誰も中国の急進的な近代化や急速な世界への影響力を予想していませんでした。いや、それを口にするのすら憚れる、そんな状況だったと思います。

中国製品は嫌だ、と言いながら今や、日本でもカナダでもアメリカでも中国製品がない家庭はないはずです。それも繊維や100均グッズだけではなく、家電やITガジェットなど着実に高機能あるいは頭脳集積型の商品に代わってきています。あと5-6年もすれば中国の車が日本を堂々と走っているかもしれませんが、これを言うと嫌な気持ちになるし、強いご批判もありますが、それは避けられない事態とみています。

私はこのブログを書き始めたころから円高主義者でした。しかし、日本の経営者も国内投資家も「円安がお好き」で私はかなり異端児でありました。なぜ、自国通貨が強くあるべきかはアメリカがわざわざ教えてくれたのです。

簡単に述べると国家が十分に成熟すると国内産業は第一次産業から第二次産業、そして第三次産業にシフトします。理由は単に一国内で経済成長に伴い、産業転換が進むだけではなく、国内就労者がより付加価値の高い業種への就業を望むからです。アメリカでもカナダでもエントリーレベルの仕事をするのは移民です。その代わり、案外、社会貢献的なごみ収集とかバスの運転手といった仕事はローカルの人がやり、一種のすみわけが出来ています。

アメリカはそれがわかっていました。故に膨大な貿易赤字は与件となり、それを取り戻すために外国への投資が事業のコアになるわけです。そのために重要なのは常にドル高政策だという点です。一時的にドル安を放置した時もありましたが、傾向としてはドルが高くないと困るのです。海外企業のM&Aをするのに為替次第で価格が倍半分になるとしたらどうでしょう?

我々が生き残るには海外直接投資、ないし間接投資をして海外からの上がりで国内を賄う、そんな構図は企業レベルではとっくの昔にできています。だからこそ円高政策が必要なのです。日本は資源もない、食糧も輸入に頼るならなおさら円高が良いに決まっています。

今年、アメリカは数次にわたって利上げをするでしょう。政策金利は1%から1.5%ぐらいまで向かっていくと思います。カナダもそれに追随します。EUは量的緩和を今年の7-9月期に終える方針が固まりました。つまり、世界中主要国は自国通貨が魅力的であるような政策に切り替えています。新興国はなお更それを強めないと急速な対ドル安となり自国通貨の大幅安、ひいては輸入品の高騰で国内経済に大きな支障が出ます。

こう見ると円だけが無防備状態になってしまうのです。

為替のことは為替に聞け、というように私の言うことは外すかもしれません。正直、私は株式はまだ読めますが、為替はいくら読んでも難しくてついていけません。事業に貿易業務があるので為替は当然、重要な着目点ですが、数日単位はある程度予想できますが、半年単位ではほぼ誰にも解読できないものです。ただ、世界の中で日本の地盤はどんどん下がっていることは確かで、影響力がないとなれば海外において円や円建て資産を持つ意味は変わってくるのです。

「円はアジアのローカルカレンシーだろう」と言われたくはありません。私はこれを非常に恐れているのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月11日の記事より転載させていただきました。