イギリスのメディアでは常にトップニュースなのが王室の話題である。
しかしここ最近は「非常にまとも」なウイリアム王子と妻のケイトは話題になることが少ない。彼らがかなりまともでスキャンダルも特にないからである。話題になるのは王子の頭髪とケイトの白髪やお洋服を使いまわしたこと、写真のを撮るのがうまいといった、恐ろしくつまらない話題だ。
そんな平凡かつ品行方正な兄夫婦と違って、イギリスメディアを延々と賑わせているのが、ヘンリー王子とメーガン夫妻である。
この夫婦をめぐるあれこれは、私が2021年12月に出版した「世界のニュースを日本人は何も知らない3 – 大変革期にやりたい放題の海外事情」という本や、このシリーズの1と2でも暴露している。
彼らをめぐるあれこれは、日本でイギリス王室を意識高い系セレブ扱いしている様なファッション誌を愛読している人にとっては驚くような事実ばかりだ。
彼らはコロナ禍が相変わらずひどかった2021年の3月には王室を揺るがすような事件を起こしている。
彼らはアメリカの人気司会者であるオプラのトーク番組に出演し
「イギリス王室は人種差別主義者で、子供であるアーチを差別しており、 心理的なダメージを受けた」
ということを思いっきり述べてしまったのだ。
そもそもイギリス王室のメンバーは、イギリス国内でもワイドショーには登場しないし、この様なインタビューはめったに受けない。特にエリザベス女王はインタビューは一度受けたことがないし、私的なことは話さないのだ。
このインタビューは、王室を「人種差別主義者」とはっきり言ってしまったので、大きな反響を呼んだ。しかしそれ以上に問題になったのが、ヘンリー王子とメーガンのイギリスメディアに対する対応であったのだ。
このインタビューを見たイギリスの民放のITVの「Good Morning Britain」という朝のニュース番組の司会者をやっていたピアーズ・モルガン氏は「僕はメーガンのことはば全く信じないね」と番組内で述べた。
この人は普段から歯に衣を着せないはっきりとした言い方で有名であり、保守系の王室支持派なので、ヘンリー王子とメーガンには大変批判的だ。
そのキャラがアメリカでも人気となり、最近ではアメリカのテレビ番組でもレギュラー枠を持つほどになっている。
ただしもともと週刊誌の編集長でジャーナリストであるので、その発言は日本のワイドショーのタレントやお笑い芸人とは異なり、単なる暴言ではなく、裏付けや論理があるものだ。
また弱者や高齢者擁護には熱心で、政府のコロナ対応の問題や政治家のスキャンダルも厳しく追求してきた。
この発言に対し、メーガン本人を含め各方面からイギリスの通信庁へ合計5万7千件の苦情が送られ、ITVの社長から謝罪するか番組から降板しろと言われるのである。
モルガン氏は、メーガンの人種や人格を否定したわけではなく、単に自分の見解を述べただけなのに謝罪を要求され、降板まで要求されたことに呆れて番組を辞任してしまったのだ。
この番組は非常に辛口な時事評論や有名人への厳しい質問で知られている報道番組で、これまで有名人に厳しい意見を述べることが当たり前であったし、政治家を朝から捕まえて徹底的に追求するということも当たり前だった。
モルガン氏は特に単刀直入な物言いで知られている。この番組もそれが売りだったので、番組のポリシー自体を否定することになった。
さらにイギリスは表現の自由に関する意識が日本より非常に高く、これまではこのぐらいの発言ではテレビの降板を言い渡されるようなことはなかったので、これは大変な驚きをもって迎えられた。
チャールズ皇太子やアンドリュー王子とその元妻や子供達、ウイリアム王子の妻であるケイトやその家族、ダイアナ妃に対してはもっと厳しい批判や報道がされてきたからである。
そのためモルガン氏だけではなく、保守系のコラムニストや評論家はメーガンのこのような行動は、はっきり言って言論の弾圧で、なぜ彼女だけがこんなに保護されるのかということを疑問視しているのである。
2021年の9月になってイギリス通信庁は、このモルガン氏に対する苦情は正当性が無く、表現の自由を侵すものであって、行動の正当性に含まれるという決断を公開した。
通信庁の回答はを非常にお役所文書で、長々としたものであったが、つまりイギリス政府は、公式に「メーガンによる 苦情がはっきりと言ってやりすぎで、ITVの社長がモルガン氏に降板を言い渡したのはジャーナリズムの正当性を損なうものだ」と明言したのである。
モルガン氏が番組を降板した後に、オプラのインタビューは検証され、 ハリーとメーガンが主張していた王室の問題は17個もの嘘があったことが判明している。しかし彼らはこれに関して全く謝罪していないのである。
こういった検証内容はイギリスではテレビや新聞で広く報道され、この夫婦の発言がいかにいい加減なものであるかといったことが裏づけになっている。
表現の自由を侵すということはイギリスにとって社会の根幹的なことを犯す行動であり、メーガンが王室関係者という立場を使ってテレビ局に圧力をかけていたことは大変な批判をされている。
彼らが意識高いキラキラ系セレブであるという報道ばかりする日本ではなかなか報道されない実態だ。