東日本大震災発生から11年目です。随分当時の経験も風化し始めていると思います。
既に何度もご案内のように、震災では自衛隊の弱点が多く露呈しました。ですが、多くのメディアはその組織的な欠陥を検証しようとせずに、現場の自衛官のガンバリズムだけを書き散らかしました。このため世間では「無敵皇軍自衛隊」的なイメージだけが定着しました。ですが自衛隊のシステムや装備には大変な問題があり、それを現場のガンバリズムだけで補ってきました。
まるで無謀な作戦指導で、南方戦線で補給もなく、絶望的な戦いを強いられて玉砕=全滅した現場の部隊を、よくぞ戦ったと褒め称えるようなものです。その同じ間違いを繰り返すことで日本は負けました。
平成になっても同じことをやっているわけです。日本人は何度痛い目にあっても変わらないようです。当時ぼくは独自のルートから被災現場の自衛隊の実情を与野党の政治家に伝えましたが、政権に近い民主党議員ほど防衛省の「問題ありません」というレクチャーを鵜呑みにしていました。
そして問題点は内部で一応は検証されましたが、「敵=納税者に手の内をさらさない」という防衛省、自衛隊の悪しき組織防衛文化のために、納税者は殆ど知ることができませんでした。無論現場の隊員が頑張ったのは事実です。ですが、彼らを支えるシステムや装備が欠如していました。これらがあれば、より多くの被災者も救えた可能性があります。
ぼくは陸自のヘリ型無人機FFOS、FFRSが一度も飛ばなかったことを報道しました。これは後に国会でも追求され防衛省も信頼性が低かったからだと認めましたが。ですが、FFRSは配備後1年も経っていないことを言い訳にしていましたが、その後の九州の震災や豪雨でも飛びませんでした。
そのFFRSは防衛省の事業評価で「NBC環境下、大規模災害での偵察に必要」であり、「開発は大成功」と自画自賛していました。
流石にFFRSは問題ということで、後継UAV、スキャンイーグルの調達が決まりましたが、それが始めて調達されたが10年過ぎてからです。陸幕には「時間」という概念がありません。
そして欠陥品であるFFOSやFFRSが廃棄もされていません。当事者能力が欠如しています。
空自は阪神大震災時でも博物館アイテムだった偵察機RF-4Jが避難されました。帰投してから現像しないと偵察結果が分からない。ところが東日本大震災でもRF-4Jを使い続けていました。偵察ポッドを購入してF-15Jに搭載すればいい。こんな簡単なことができずに、僅かな調達薄の偵察ポッドを国産化しようとして、失敗しました。
その責任は空幕にありますが、メーカーである東芝に責任をなすりつけて裁判沙汰になりました。
陸自のOH-1にしても、値段だけは他国の偵察ヘリの何倍もするのに、リアルタイムで画像を遅れるシステムがなく、データは帰投してVHSに落とさないとみることができません。リアルタイムで政府が状況を把握していたらもっと多くの被災者が助かったはずです。
そして給食能力が低く、野戦調理システムは露天で、中隊規模のものだけです。トルコなど途上国ですら装備しているコンテナ式の移動キッチンも存在しません。結果被災者は温かい食事を取る反面、現場の自衛官たちは冷たい缶詰の飯を食っておりました。
これを「自称愛国者」やら「国士様」らは、自衛官が温かい飯を食べると左翼から攻撃されるからだといておりました。ですが、これは全くのお門違いです。
単に自衛隊に十分な給食能力がないだけの話です。被災者に温かい飯を与えて、自衛官が冷たい飯を食うという「美談」の愛国オナニーに過ぎません。仮に一部の左翼がそのようなことを言ったとしても、国民の自衛隊に対する支持率は極めて高いわけです。そのような「ヤクザの言いがかり」は放置すればいいだけの話です。
そして未だにコンテナ式のキッチンは導入されていません。
こういう現場の隊員に過度の期待をして不要な自己犠牲を強いることは決して健全ではありません。きちんと現場の自衛官こそきちんと食事をとり、テントで雑魚寝ではなく屋根のあるところで眠り睡眠を取り、洗濯したユニフォームを着て作業をすべきです。
最低の状況で最高の働きをしろというのは無責任です。
こういう「美談」大好きな日本人の感覚が現場の自衛官の待遇の向上や、自衛隊の問題点の解決に水を刺しています。
偵察用バイクも老朽化、稼働率の低下が激しく3割程度の稼働率でした。しかも陸自が装備の稼働率の調査をはじめたのは、内局から尻を叩かれて震災後からでした。
無線は何世代も混在して、また周波数帯が軍用無線に適していなかったので、不通、混信だらけでした。ところがその頃開発中の広域多目的無線機は何の変更もなされず、通じない無線機として有名です。多額の費用をかけて改修して、多少マシになりましたが、使用周波数帯を変えない限りだめでしょう。しかも今どき、データや画像送信もできない低性能です。これを陸幕は列国並みのソフトウェア無線機と胸をはっています。河野太郎大臣時代この問題を指摘ましたが、河野大臣は陸自に検証デモをさせました。
それで問題ないと胸を張っていました。ですが、検証デモは単に小隊レベルの通信だけであり、連隊基幹システムを通じて試験はなし。これをやるとつながらないのがバレてしまうからです。
また他国の無線機との比較もありませんでした。陸自が問題なし、ということをアピールするための条件を自分たちでつくったものでした。本来は第三者にやらせるべきでした。
ところが、河野大臣はこれで満足してしまいました。
これにより広域多目的無線機の改良あるいはリプレイスの機会は失われました。
また当時の衛生部隊の装備の劣悪でした。医官やメデックの充足率も低い。これがまともだったらもっと助かった命はあったのではないでしょうか。それは今も変わっていません。
これだけ深刻な「戦訓」を得たのに「無敵皇軍自衛隊」は誤りを侵さず、と改善するつもりはありません。
当時市ヶ谷で働いていたジュニアオフィサーたちは上層部にあれこれ進言したら、そういう人たちは次の移動で飛ばされました。
防衛省、自衛隊の問題は得てして政治の問題です。政治家にまともな軍事的な見識がなく、防衛省や自衛隊のレクチャーを鵜呑みにするから「無敵皇軍自衛隊」を信じ、問題点の改善がなされません。
【本日の市ヶ谷の噂】
桑田成雄空自首席衛生官は、血液内科の医局に入局したが、20年もの間診療をしていない。非常に評判が悪い医官で将の器にあらずと言われているが、硬直化した人事のために次の空将昇任、防衛医大副校長昇任との噂。
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European Security & Defence誌 2月号に寄稿しました。(Japan’s Defence Budget –an Issue of TransparencyP68~69)
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。