魔物に魅了された鈴木宗男議員とオリバー・ストーン監督

衛藤 幹子

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ロシアによる攻撃が激しさを増している。激しい戦禍に苦しむウクライナの人びとを前に言葉を失い、侵略の張本人への抑えようのない怒りが爆発する。厳しい経済制裁以外にどのような手があるのだろう。

3月10日の参議院予算委員会で立憲民主党の白眞勲議員が、「日本独自の外交として、安倍元総理などを特使として派遣しては」と間の抜けた提案をしていた(立憲民主党ニュース)。この提案、以前ネットでジョークのように拡散されていた気がする。白議員も冗談がきつい、いやまさか本気!?

3月1日、衆議院本会議にかけられた「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」にれいわ新選組が賛成しなかったのも、子ども染みた茶番にみえる。れいわによると、賛同しなかったのは「形式だけの決議は必要ない、意味がない」からだという(れいわ新選組)。ロシアに対抗するうえで欠かせないのがG7を中心とした国際社会の結束である。国民の代表である国会の決議は、国際社会向けて日本人の意思を表明するものだ。能弁な山本太郎代表なら「言葉の力」、さらには「沈黙は共犯」という考え方を認識しているはずだと思うが。いや、決議不参加は目立つためのパフォーマンスだったのかも。

こうしたなかで、独自の見解を示すのが鈴木宗男議員である。

「『ゴルバチョフ氏の愚は繰り返さぬ』鈴木宗男氏が語るプーチン大統領の論理」(AERA dot.)というインタビュー記事の中で、同氏は「『ウクライナが善、ロシアが悪』という構図」に異議を唱える。ミンスク合意を履行せず、ロシアとの緊張を高めたゼレンスキー大統領の「過ち」に加え、アメリカが「今年に入って『ロシアは明日にも侵攻する』といった情報を世界に流し続け」て、ロシアを「挑発」した。そして、「ロシアが侵攻に踏み切ったのは、〈中略〉ゼレンスキー氏がミンスク合意を履行しないことが明らかになったからだ」と分析する。

ミンスク合意をめぐるゼレンスキー大統領の「失策」は、鈴木議員に限らずロシア研究者の大方の見解であろう。しかし、約束を反故にするのはプーチンの得意技ではなかったか。ロシアではなくNATOをパートナーにしたいというウクライナ政府の決定を武力で覆そうとする行為は、絶対に容認できないし、ジェノサイドの危機が迫るような戦況下で、ロシア寄りの発言には全く説得力がない。

鈴木氏はさらに、プーチンのウクライナの中立化とはNATO非加盟にとどまらず、「スイスやオーストリアのようなイメージ」ではないかと指摘する。現実離れも甚だしいが、記事を読み進めると、この身びいきともみえる発言の理由がわかる。鈴木議員はプーチンに4回会ったことがあり、その印象を「強面と言われますが、人情家だと思います」と語っている。ナンダ、同氏はプーチンファンクラブの会員だったのか。

ファンクラブのメンバーはアメリカにもいる。アカデミー賞を始め幾多の受賞歴を持つオリバー・ストーン監督だ。

ストーン監督は2015年から2年間にわたってプーチンに密着取材をし、2017年にはドキュメンター映画として公開した。「オリバー・ストーン オン プーチン」というタイトルで日本語字幕版が出されている。

私は、NHK BSの世界のドキュメンターという番組で見たが、この映像の中のプーチンは知的で、活力に溢れたチャーミングな人物、鈴木議員の言葉のように「強面」のイメージを一変させるものであった。が、他方でプーチンに魅入られ、まるで恋に落ちたような監督の姿にショックを受けた。

ロシア侵攻前の2月11日のインタビュー記事の中で、ストーン監督も鈴木議員と同じような考えを述べていた。ロシアの軍事演習や部隊配備はアメリカやNATOの挑発に対する防衛的な軍備であり、彼らはウクライナを「えさ」にロシアに脅威を与えている(Oliver Stone: American Exceptionalism Is on Deadly Display in Ukraine, SCHEERPOST)。つまり、非は欧米やウクライナにあるという見解だ。なお、監督は、その後考えを軌道修正、3月8日の自身のフェイスブックにロシア侵略への非難をアップした。

得てして悪人は善人よりも魅力がある。悪魔のような人物が優しかったり、気さくだったりすると、ギャップが大きいだけに、恐怖が一瞬にして親しみや好意に変わるのはよくあることだ。けれども、熟練の政治家や名監督が本質を見誤り、挙句に取り込まれてしまうのは極めて残念だ。

ところで、白議員さん、特使の派遣をお望みなら、鈴木議員にお願い、あるいは渡米してストーン監督に懇願するという手もあると思うが、いかがであろう。