岸田首相は国会で、ウクライナで原発が攻撃されたことに関連して「原発を警備する警察の専従部隊を置くことも検討したい」と答弁しました。
山口原子力防災相は「原発を爆破するとチェルノブイリよりすさまじい被害が出る」といいました。こういう政治家のみなさんの頭の中では、原発と原爆がつながっているようにみえます。
Q1. 原爆と原発はちがうんですか?
原爆(原子爆弾)は原子核が一瞬のうちに分裂して核爆発を起こすもので、多くの人が亡くなります。死者は広島では約14万人、長崎では約7万人と推定されていますが、その死因はやけどです。放射能だけで亡くなった人は少ない(急性被曝で亡くなる人は爆発の瞬間に亡くなった)。
原発(原子力発電所)は核分裂をゆっくり起こして熱を出すもので、核爆発することはありません。昔は「原電」といったのですが、反対派が原爆とまぎらわしくするためにゲンパツということばを使い、それをマスコミが使うようになったのです。
Q2. 原発が攻撃されたらどうなるんですか?
今回ねらわれた中では、チェルノブイリ原発は20年前に運転が止まって使用ずみ核燃料も冷却されているので問題はありませんが、運転中のザポロジエ原発は危険です。爆弾で原子炉を破壊したら、放射性物質が大気中に飛び散ります。
Q3. どれぐらい被害が出るんでしょうか?
原発の中には多くの核物質があるので、それが大気中に出ると放射線を出し、それに被曝するとガンや白血病の原因になります。医学的には、それ以外の「原爆症」はなく、遺伝することもありません。
これは原爆の被爆によるやけどとはまったくちがいます。少なくとも福島第一原発事故ぐらいの被害は出るでしょうが、1986年のチェルノブイリ事故ほど大きな被害は出ないでしょう。
Q4. チェルノブイリ事故の被害はどれぐらいだったんですか?
チェルノブイリ事故の25年後に確認された死者は、急性障害で50人、ガンで9人が亡くなったというのが国連科学委員会やロシア政府の結論です。これ以外には発癌率の上昇はみられませんが、事故後80年でガンになる人が4000人ふえるというWHO(世界保健機構)の推定もあります。
Q5. 核爆発はおこらないんですか?
いまだにその区別ができない人がいますが、原発では核爆発はおこりません。福島では地震を感知して制御棒を入れ、核分裂反応は止めたのですが、その後も炉心から崩壊熱が出ます。その冷却水を循環させるポンプの電源が切れたため、水蒸気を格納容器の外に出し、それが建物の中にたまって水素爆発を起こしたのです。
Q6. チェルノブイリと福島はちがうんですか?
チェルノブイリでは原子炉の安全装置をはずしてわざわざ暴走させる非常識な実験をしたため、最大出力で核反応が続いている状態で炉心が溶け、原子炉本体(圧力容器)が爆発して、まわり数十kmに放射性物質がふりそそぎました。これがメルトダウンです。
これに対して福島では核反応が止まったので、メルトダウンは起こっていません。外気に出た放射性物質はチェルノブイリの1/1000以下だったので、原発事故で亡くなった人は1人もいません(避難先で別の原因で亡くなった人はいます)。今後の長期的な影響も考えられないというのが、国連科学委員会の結論です。
Q7. 戦争で日本の原発がねらわれる可能性はあるんですか?
可能性はゼロではありませんが、原発はミサイルの標的としては合理的ではありません。敵基地を破壊すれば戦力をそぐことができますが、原発を攻撃しても占領した土地が放射能で汚染されて使えなくなるだけです。
弾道ミサイルを原子炉にピンポイントで的中させるのはむずかしく、北朝鮮にそんな誘導技術はありません。今回のウクライナのように戦車で占拠するのは意味がなく、被害もありません。今回のロシア軍の目的は電源をおさえることだと思われます。
Q8. 原発を爆破すると、どんな被害が考えられますか?
運転している原発を爆破すると核反応は止まるので、核反応を暴走させたチェルノブイリほどの被害は出ません。破壊活動として使うなら、東京を爆撃したほうが被害ははるかに大きく、北朝鮮の核ミサイルが10発着弾すると、東京では最大100万人が死亡すると推定されています。
Q9. 原発を警備するってどういうことですか?
岸田さんの答弁では、福井県の置いている警察の部隊を全国の原発にも置くという話のようですが、今でも特重(特定重大事故等対処施設)という規制で安全設備が強化され、航空機の墜落ぐらいでは壊れません。しかしウクライナのように軍隊が攻撃して、原子炉を破壊した場合には、警察では対応できないでしょう。
Q10. 原発の最大の危険は何でしょうか?
風評被害です。チェルノブイリでは半径30kmの住民38万人が避難し、住居も職業も失いました。当時は社会主義だったので、食糧も十分になく、精神的ストレスで数千人が自殺したといわれています。
福島でも数万人が避難し、いまだに避難を続けている人がいます。実際には事故の起こった福島第一の周辺でも線量は下がり、普通に生活できるのですが、立入禁止の場所が多く、放射性物質を処理した水さえ流せない状態です。
このように戦争としては、原発の破壊は効率が悪いのです。でもマスコミが大々的に報道し、その後もずっと風評被害でエネルギーが供給できなくなるという点では、ダメージは大きいので、テロ活動としては原子炉の破壊は効果的です。その加害者はマスコミですが。