ウクライナのゼレンスキー大統領は2月28日、「ウクライナ国際防衛軍団」の結成を発表し、世界の人々にロシアの侵略に対する戦いへの参加を呼び掛けた。ウクライナへの旅行者に向けた情報ポータル『Visit Ukraine Today(VUT)』が7日、その「軍団」への入隊案内を掲載している。
同案内によれば、3月1日にゼレンスキーが発した大統領令により、「軍団」に参加意思のある外国人市民(侵略国の市民を除く)に、ウクライナ入国にビザが要らない体制が導入された。参加希望者が自国のウクライナ大使館に申請し、駐在武官の面接に合格すれば、必要な書類や装備などが示される。
その後、所定の方法でウクライナに渡航するが、ウクライナ公館などが道中をサポートし、参加者の国のウクライナ大使館に連絡先が提供される。現地の集積地に到着後、契約書に署名して「軍団」に加わり、世界各国からの戦闘員やウクライナ兵と共にロシアの占領軍と交戦するということ。
生命を賭す行動にしては淡々としているが、却って事の深刻さを表しているようにも感じられる。
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一方、11日の英紙『ガーディアン』は、プーチンが同じ日、中東から来た最大1万6千人の義勇兵(volunteers)がウクライナで戦うロシア支持の軍と共に展開することを許可したことを報じた。ロシア国防省は義勇兵がドンバス地域に配備されると述べている。
同紙は、それら義勇兵がシリア軍兵士であり、月額3千ドル(シリアの50倍)が支払われるとし、プーチンは以前、シリア兵に報酬が支払われることを否定していたが、今回は「ドンバスの人々を助けるために、金のためではなく、自分の意志で来るつもりの人がいるのなら、望むものを与え、紛争地域に行くのを助ける必要がある」と述べたとしている。
またプーチンによる、外国人戦闘員がウクライナに流入したからロシアも外国軍を歓迎するのだとの言い分と、西側諸国がウクライナへの外国人戦闘員の渡航を奨励したとの主張を報じ、併せて外国兵の流入増は戦争が地域紛争に発展する恐れがあり、欧州諸国と米国はこれを避けてきたとの同紙の見解を述べる。
『ガーディアン』の記事は、プーチンが過去7年間シリアに派遣したロシア軍のお陰で救われたアサドからの見返りを未だ受け取っていないところへ、ウクライナを短期に占領する目論見が外れたため、ゼレンスキーの国際軍団募集を機に、シリア軍の徴募に至ったと読める論調だ。
12日の『AP』は、ロシアの民間請負業者ワグネル・グループの数千人の傭兵(mercenaries)がシリアに配備されていて、「シリア経済の悲惨さを考えれば、わずかな物質的利益のために命を懸けることをいとわない戦闘に慣れた軍人の数は不足しないだろう」との識者の言を報じている。
その識者によれば、シリア兵が海外の紛争に動員されるのは今回が初めてではなく、例えばトルコは自国の戦闘員を強化するためにシリア傭兵を採用したし、アゼルバイジャンやリビアには、シリア、スーダン、トルコを含む数千人の外国人戦闘員が存在し、和平への大きな障害となっているという。
他方、別のシリア専門家は、シリアなど中東からの傭兵が、言葉も通じず、地形や厳しい気象条件にも慣れていないウクライナで役に立つかどうか、疑問を呈しつつも、戦争が長引いて、ロシア軍の戦闘が泥沼化すれば、外国人戦闘員はより魅力的な選択肢になるだろうと述べる。
その『AP』記事は、シリア軍最大級の第4機甲師団の兵士のための非公開のFacebookグループに11日、ウクライナでの「戦闘任務」の広告が掲載されたことも報じている。トランプやコロナやワクチンの番組をBanする「Meta」が、戦争に加担する広告を容認するとは「御里が知れる」ではないか。
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「ウクライナ国際防衛軍団」に戻れば、11日の『Epoch Times』が、ゼレンスキーの呼び掛けでロシアと戦うウクライナ軍への参加を許可された約2万人の外国人のうち、約100人の米国市民が加わることが明らかになったと、米国での徴募事情を詳報している。
応募者を、『VUT』の入隊案内にある通り面接している、ワシントンのウクライナ大使館軍事アタッシェ(駐在武官)のボリス・クレメネツキー将軍は、6千人の問い合わせがあり、必要な軍隊経験がない、犯罪歴がある、年齢などの理由で適さない約半数が、即不合格になったと述べる。
記事には、『VUT』の記述と異なり、合格者はポーランドまで自力で行き、指定された地点で持参した装備をまとい、武器が支給されることになるとあり、また彼らは、ウクライナの領土防衛のための国際外人部隊として、無給で奉仕する契約に署名することが要求されると書いてある。
また記事は、ウクライナの法律では、外国人が任意でウクライナ軍に参加でき、その際、外国人だけで構成された軍隊内部の集団である国際軍団に加入するとあり、そうするとウクライナの市民権を得られるなどのインセンティブが受けられるという。
記事は、安全保障担当の元国防次官補でペンシルベニア州立大学国際問題学部のメアリー・ベス・ロング教授の、「参加する米国人が、国際ルールや戦争犯罪を犯しておらず、ウクライナの法律を守っていれば、法的問題は避けられるはずだ」との言も載せている。
同教授はまた、米国の法律では、米国人はウクライナ人が他で入手できない技術や技能をウクライナに輸出することは避ける必要があるとし、一方、退役軍人は他国のために戦うことは想定されていないが、第三者を通じて支払いを受けることで、戦闘参加による悪影響を避けられる、と述べている。
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筆者の「傭兵」「義勇兵」「志願兵」のイメージといえば、前二つには「外国人」の、三つ目には「徴兵」との対照で「自国民」の印象がある。英語にすれば後の二つは同じ「volunteer」で、手弁当で馳せ参じるイメージだが、「傭兵」は金のための戦う感じを強く受ける。
ロング教授の言にある様に「武力紛争における国際法」(戦争が合法だった時代には「戦時国際法」と称された)では、「戦闘員」と「文民」とでその権利と義務に大きな隔たりがある。根底にあるのは、国は私人の行為について国際責任を負わないとの概念だ。
平たく言えば、戦闘員には戦争に参加する権利があり、敵の戦闘員を合法的に攻撃できる。敵に捕まっても捕虜としての待遇を受ける権利がある。他方、文民には戦争に参加する権利はないが、敵からも攻撃されない国際法上の保護を受ける。ロシア軍による民間人攻撃が国際法に違反する所以だ。
ゆえに戦闘員には「自己と文民たる住民を区別する」義務がある。自衛隊九条明記論の理由のひとつもこれだ。我が国の憲法上、自衛隊は軍(戦闘員)ではないので、国際法に照らせば戦場で「文民」扱いされかねない。また80年前の南京の虚構も、基は軍服を脱ぎ捨て市民に紛れた中国兵にある。
そこで「傭兵」や「義勇兵」の扱いだが、ウクライナの国際軍団のように軍の外人部隊であるなら、国家に身分を保証される軍人として扱われる。他方、国軍に編入されない、民間の「傭兵」などの「非合法戦闘員」は、捕虜となっても国際法上の保護が受けられないだろう。
筆者は「傭兵」の事例を知らないが、「義勇兵」なら、米国の「フライングタイガース」や朝鮮戦争の「中国義勇兵」、そしてスペイン内乱の「国際旅団」をかつて少し調べた。前二つには「志願」を騙る実質的な正規軍の、「国際旅団」にはソ連のスパイ養成機関の一面があったと思う。
何れにせよ、如何に戦争とはいえ「傭兵」が「義勇兵」と戦う図は異様の極みだ。分けても、ゼレンスキーが先にやったからなどと子供もしないような言い訳を弄して、シリア兵を金で雇って戦わせるプーチンの行為は、この戦いの正当性を自ら否定しているに等しい。