憲法改正と国連改革:切迫している国際情勢に正面から向き合え(屋山 太郎)

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会長・政治評論家 屋山 太郎

弱肉強食の世界が正当化されようとしている。ロシアがウクライナを屈服させれば、次はバルト三国に侵略の手が及ぶかもしれない。プーチン大統領の野望は、旧ソ連圏全部を再び掌中にすることにあるらしい。この欲望がまかり通れば、中国が台湾を獲ろうとしているのを正当化してしまう。

プーチンがウクライナに触手を伸ばし始めた動機は、94年ブダペストで開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)会議だ。冷戦中、ウクライナには、核弾頭1,240発、大陸間弾道弾176基が置かれ、世界第三の核保有国だった。しかしこの会議で米英露三国に国境の不可侵を保証され、ウクライナは核を放棄した。ところがウクライナの国境は結局、米英露の誰も保証してくれなかった。

今ロシアがやっていることは国連の存立意義を揺るがす事態だ。病院の攻撃はジュネーブ条約で厳格に禁止されている(第1追加議定書第12条)。民間人の攻撃(同第51条)や原発の攻撃(同第56条)も同様だ。また燃料帰化爆弾の使用(ハーグ陸戦条約)、クラスター弾の使用(オスロ条約)、ウクライナ侵攻(国連憲章違反)なども国際法違反だ。

しかしこれまでの事例から類推すると、ロシアは全ての違反を否定し、戦争犯罪は何ら咎めを受けないことになるだろう。

これは安保理常任理事国5ヵ国が拒否権を持つ、という組織の誤りを示している。新しい国連をつくる発想で、国連再生を図るべきだ。あるいは現在、貿易や金融面で行われているように、違法国家を自動的に締め出す仕組みは考えられないか。国連憲章を厳守する約束をした国のみが加盟するとしてもよい。

こういう正義の大仕事を仕掛ける前に日本に不可欠なのは、国際的に「普通」の憲法を持つということである。日本の憲法は今でも「非武装・中立」と、解釈する者がいる。有効な国防とするために“解釈改憲”が行われたが、これでは半人前の力しか発揮できない。

共産党が言うように憲法を解釈すると、反米になるという。現実問題として今、米国を離れて日本の独立が守れるとはとても思えない。米国一国でも中国と張り合えない様相だ。日本が本来の力を発揮できるよう、ここは憲法改正が不可欠だ。

ロシアの動向を見ていると核の脅しは普通の行為。これに対抗するには日本も米国の核使用の権限を併せ持つという、核共有の考え方が必要だ。核拡散防止条約からの脱退はできるが、核兵器製造までは長すぎる道のりだ。今の日本はそういうチンタラした路線は取っていられない。その位、国際情勢は切迫しているのである。

今の“戦争”は日本が起こしたものではない。目の前に展開してきた国際情勢なのだ。現行の憲法が全く想像しない現実に直面していることは、国民全員が気付いているだろう。そんな中でも岸田首相は「核共有」は考えていないという。こういう政治音痴に国を預けておいて大丈夫か。

(令和4年3月16日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。