「日本マルクス主義」への五つの疑問

日本共産党HPより

第一の疑問

人工知能(「AI」)が将来価値生産の主流となった場合における、マルクス著「資本論」の「商品の価値は当該商品を生産するための社会的必要労働時間によって決まる」との「価値法則」「労働価値論」「搾取論」の有効性と再検討の必要性の有無の問題。

具体的には、例えば「手術」という医師の労働がすべて人工知能で代替される場合の「価値法則」「労働価値論」「搾取論」の有効性の有無。

人工知能を「過去の労働」とみなし「価値法則」「労働価値論」「搾取論」の正当性を主張することの是非と再検討の必要性の有無の問題。

「日本マルクス主義」はこの疑問にどう答えるのか。

第二の疑問

「プロレタリアート独裁」(「労働者階級独裁」)の永続化とその原因究明の問題。

社会主義革命後における「反革命勢力」の反抗を抑圧するための法律に基づかず暴力に立脚する厳重で無慈悲な「プロレタリアート独裁」(スターリン著「レーニン主義の基礎について」スターリン全集6巻129頁)は、本来は資本主義から共産主義への過渡期の政治形態(マルクス著「ゴーダ綱領批判」)である。

しかるに、社会主義革命後の非常事態における過渡的政治形態であるにもかかわらず、旧ソ連や中国等の「現存社会主義」で常態化永続化した問題とその原因の究明。

プロ独の永続化や大粛清を正当化するためのスターリンの「階級闘争激化論」や「敵対帝国主義勢力存在論」の妥当性の問題。金日成も「敵対帝国主義勢力存在論」を取る(金日成著「金日成著作集」)。

社会主義の本質論から見てプロ独が「過渡的」か「永続的」かは極めて重要であり根本的究明が必要ではないか。マルクス主義の「国家死滅論」の正当性にも影響する問題である。

「日本マルクス主義」はこの疑問にどう答えるのか。

第三の疑問

社会主義革命後の「国家管理社会主義」と「自主管理社会主義」の問題。

レーニン著「国家と革命」(「レーニン全集25巻」)の「労働者の選挙で選ばれた労働者の代表」には国有企業の経営管理能力がないため、実際は党官僚やノーメンクラツーラが全面的に生産手段を支配・管理する問題の是非(ボスレンスキー著「ノーメンクラツーラ」)。これは「国家管理社会主義」と言えよう。

しかし、これと異なるユーゴの「労働者自主管理社会主義」も、労働者が分配を重視したため資本蓄積ができず、技術革新が遅れた。また、中央集権でないため国家の統制が効かずインフレを招いた(小山洋司他著「ユーゴ社会主義の実像」)。したがって、「ユーゴ自主管理社会主義」の評価は必ずしも成功とは言えず、功罪相半ばと言えよう。

その意味では、マルクスが理想社会とする「アソシエーション」(「労働者の自発的な相互扶助」)にも重大な問題点があり、「国家死滅論」の正当性の問題にも波及し、プロ独の永続化を正当化する可能性がある。

「未来社会論」はマルクス主義の真価を左右する重要課題であり再検討と究明を要するのではないか。

「日本マルクス主義」はこの疑問にどう答えるのか。

第四の疑問

マルクス著「資本論」の「窮乏化法則」と日本共産党「先進国革命論」の理論的実践的な正当性の問題。

欧米・日本の先進資本主義諸国における「資本主義が発展すればするほど労働者階級は窮乏化する」とのマルクス著「資本論」の核心である「窮乏化法則」の妥当性の問題。

格差・貧困の問題は克服されていないとはいえ、労働者階級を含む国民全体が絶対的に窮乏化しつつあるかは精査の必要があるのではないか。

労働運動や社会主義政党の活動の成果として、最低賃金制・失業保険など各種社会保険・年金・医療・介護・労働基準法など労働者保護立法を含め、社会保障制度が整備され(「福祉国家」)、マイホーム・マイカー・海外旅行など、今や労働者階級が「鉄鎖のほかに失うものはない」(マルクス・エンゲルス著「共産党宣言」)状態とはもはや言えないのではないか。

蔵原惟人元日本共産党名誉幹部会委員も労働者階級の絶対的窮乏化を否定している(蔵原惟人著「蔵原惟人評論集9巻」187頁)。

そうすると、日本共産党の「先進国革命論」は、労働者階級の絶対的窮乏化を前提とする限り不可能となるのではないか(2020年5月4日掲載「破綻した日本共産党の先進国革命路線」参照)。

「日本マルクス主義」はこの疑問にどう答えるのか。

第五の疑問

「日本の安全保障」(「抑止力」)を軽視する「日本マルクス主義」の問題。

日本共産党は、対北朝鮮、対中国の「抑止力」としての日本の「ミサイル防衛」にも反対する。理由は、相手国は「ミサイル防衛」を打ち破る兵器を開発し、軍事対軍事の悪循環を招くからという。

しかし、共産党の言う通りに、仮に日本だけが「ミサイル防衛」を全廃しても、米国・欧州等が「ミサイル防衛」を技術的に整備強化すれば、相手国も当然技術的にこれに対応するから、取り残された日本だけが増々危険となり、日本一国だけの問題でないことは明らかではないか。

今回のロシアによるウクライナ侵略を見ても、同盟関係の有効性は別として、抑止力なき国は他国から侵略される危険性が常にあるのではないか(2022年3月15日掲載「ウクライナ侵略の教訓:抑止力なき国は侵略される」参照)。

日本共産党及び日本学術会議を含め、「安全保障」は「日本マルクス主義」の最大のアキレス腱ではないか(2019年10月26日掲載「日本学術会議は、軍事研究禁止方針を再検討せよ」参照)。

このように、日本共産党は「戦力不保持」の憲法9条順守の「外交」一辺倒であるが、「抑止力」のない「外交」だけで国を防衛できるならば、どの国も相当な経費を要する軍備を持たないはずではないか。

有史以来、外交と軍備は車の両輪であり、国を守るためにはいずれも必要不可欠ではないか。

「日本マルクス主義」はこの疑問にどう答えるのか。

以上、「日本マルクス主義」への五つの疑問に対する回答を待ちたい。