日本学術会議は、軍事研究禁止方針を再検討せよ

日本の科学者の権威ある代表機関である日本学術会議は、2017年3月24日「軍事的安全保障研究禁止」(「軍事研究禁止」)の方針を決定した。

これを受けて、その後、全国の各大学では、左翼系学者らによる「軍学共同」反対運動や「軍事研究」抗議活動が活発化した。その結果、国の防衛関連技術や、転用可能民生技術についても、京都大学や名古屋大学をはじめ全国の多くの大学で、上記研究への教員の応募を禁止する動きが続出したため、これらの研究に従事する研究者は全国の大学で大きく減少し、現在に至っている。

東京・六本木に事務局がある日本学術会議(Wikipedia)

「ミサイル防衛」にも反対する左翼系学者

「軍学共同」反対運動や「軍事研究」抗議活動を行う左翼系学者らは、弾道ミサイル攻撃から日本国民の命を守るための「ミサイル防衛」にも反対し、性能向上のための研究に反対している。彼らは、「飛んでくるピストルの弾をピストルで撃ち落とすことは、ほとんど不可能だ」と主張し、その迎撃能力や抑止力を否定する(注1)

しかし、もしも、ミサイル防衛に迎撃能力がなければ、中国が韓国に配備されたミサイル防衛システム「THAAD」に激しく反対し、ロシアがルーマニアとポーランドに配備されたミサイル防衛システム「イージス・アショア」に強く反対する理由が無い。やはり、両国はミサイル防衛による迎撃能力を認め、弾道ミサイル攻撃の無力化を警戒するからである。

旧態依然たる「非武装平和主義」

「軍学共同」反対運動や「軍事研究」抗議活動を行う左翼系学者らの主張には、日本は憲法9条によって戦争を放棄したのであるから、「丸腰の非武装」によってこそ平和がもたらされるという、旧日本社会党の「非武装平和主義」や「空想的平和主義」のイデオロギーがいまだに根強く残っている(2019年8月8日付け「アゴラ」掲載拙稿「安全保障の根幹を否定する安保関連法反対学者の会」参照)。

軍学共同反対連絡会共同代表の、池内了名古屋大学名誉教授は、2017年5月13日大阪で開催された「軍学共同反対シンポジュウム」で講演し、次のように述べた(太字は筆者注)。

「防衛のためなら軍事研究は構わないとか、日本が占領されてもいいのか、軍事研究が必要ではないか、という人もいます。私自身は、憲法9条の精神で一切の軍備を持たず、丸腰外交に徹するべきだと考えています。日本は全く軍備を持たずに、韓国、北朝鮮、中国などに平和的に働きかけることが重要です。もし、北朝鮮が核攻撃などすれば、自滅することは明らかです。私自身はミサイル防衛などナンセンスだと考えています。日本は丸腰でトコトン平和路線を追求すること以外に、被害を最小に抑える方法はないと考えています。」(注2)

まさに、上記の旧日本社会党の「非武装平和主義」そのものである。しかし、「非武装」を主張しながら、一方で、「北朝鮮が自滅する」というのは、明らかに米国による大量報復核攻撃を前提としており、結局は、米国の強大な核戦力に依存し、日米同盟の核抑止力を暗黙の裡に認めているからであり、論旨は明らかに矛盾している。

国民の命を守る「ミサイル防衛」強化は喫緊の課題

ハワイのイージス・アショア・サイトでの発射訓練(防衛省サイトより)

現在の情勢では、「米朝交渉」による、北朝鮮の核・弾道ミサイルの全面放棄が不可能とみられること、さらに、核保有国である中国の急速な軍拡と軍事的覇権拡大を考えると、少なくとも、弾道ミサイル攻撃から国民の命を守るための「ミサイル防衛」の強化は、日本の安全保障上の喫緊の課題である(2019年10月15日付け「アゴラ」掲載拙稿「日本防衛に不可欠なイージス・アショア」参照)。

日本学術会議は「軍事研究禁止」方針を再検討せよ

このような、国民の命を守る「ミサイル防衛」の性能向上のための研究についてさえ、「軍事研究禁止」を名目に反対する日本学術会議の方針は、日本の防衛技術の完全な米国依存と防衛技術水準の著しい低下をもたらし、国民の命を守るべき日本の安全保障を根底から弱体化させる極めて危険で深刻な問題である。

よって、2017年に「軍事研究禁止」方針を決定した日本学術会議に対しては、1憶2000万国民の命を守るための「ミサイル防衛研究」など、日本国民にとって真に必要不可欠な研究内容に限り、上記方針の早急な再検討を強く求めるものである。

(注1)2017年5月13日大阪開催「軍学共同いらない/市民と科学者の集い」報告/発言集15頁(同年6月「市民と科学者の会」発行)。
(注2) 同上報告/発言集8頁。15頁。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。