ウクライナ侵略の教訓:抑止力なき国は侵略される

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ロシアによるウクライナ侵略

ロシアは、ウクライナのNATO加盟阻止やウクライナ東部地域でのロシア系住民「虐殺」等を名目として、2月24日ウクライナ全土に軍事侵攻した。このため、ウクライナ各地で激しい戦闘が行われ、ロシア軍の病院や住宅等に対する無差別爆撃によりウクライナ市民の犠牲者も多数にのぼっている。

国連総会は3月2日の緊急特別会合で、ロシア軍のウクライナ侵攻を「侵略」とみなし、ロシア軍のウクライナからの即時撤退を141か国の賛成多数で決議した。しかし、その後もロシア軍は撤退せず、首都キエフの陥落を狙い、さらに激しい攻撃を加えている。

ロシアに対する欧米諸国の対応

戦況が芳しくないと見たロシアのプーチン大統領は、主として米国やNATO諸国に対し、軍事介入、軍事支援、経済制裁を宣戦布告とみなし、核攻撃を排除しない旨の「核恫喝」を行っている(3月4日掲載「ロシアの「核恫喝」を許すな」参照)。

こうしたプーチン大統領による「核恫喝」が功を奏し、米国のバイデン大統領やNATO諸国は、「第三次世界大戦」を恐れ、ウクライナに対する軍事介入や軍事支援を躊躇している状況である。米国は1994年の「ブタペスト覚書」でウクライナの核放棄に対し、同国の主権と安全を保障したにもかかわらず、ロシアの「核恫喝」を恐れるあまり、ウクライナをいわば「見殺し」にしている状態である。

このことは日本にとっても決して他人事ではない。なぜなら、将来、もし日本の尖閣諸島や沖縄本島が中国に侵略された場合に、中国が米国に対してプーチン大統領と同様に、米国が軍事介入をすれば米国に対して核攻撃を排除しない旨の「核恫喝」を行った場合には、米国世論の動向次第では、米国が中国との「核戦争」を恐れるあまり、日本を支援せずに「見殺し」にする可能性も排除できないからである。

米国は「核保有国」に対する戦争はしない

もともと、米国は、ロシアに限らず、核保有国に対する戦争は決してしないし、できないのである。このことは、核保有国である中国や北朝鮮に対しても全く同じである。なぜなら、核保有国に対する戦争は核攻撃を受ける危険性が否定できないからである。米国政府には、他の核保有国と本気で核戦争をするつもりはない。

その証左に、米国のキッシンジャー元国務長官は、「超大国は同盟国に対する核の傘を保障するため自殺行為をするわけはない」と述べ、ターナー元CIA長官・元海軍大将も、「もしロシアが日本に核ミサイルを撃ち込んでも、米国がロシアに報復の核攻撃をかけるはずがない」と述べている(伊藤貫著「中国の核戦力に日本は屈服する」2011年小学館306頁参照)。米国にとっては、米国の国益と米国国民の生命財産の安全が最優先であって、自国の国益と国民を犠牲にしてまで、日本と「心中」はできないのであり、米国の立場からすれば当然のことであろう。

したがって、日本としては「核抑止力」を含め、日本の安全保障をすべて米国に依存することは危険であり、最終的には「自分の国は自分で守る」覚悟と英知が必要なのである。今後も急速に核・ミサイル開発を進めるであろう中国、北朝鮮など東アジアの情勢によっては、日本が核攻撃を抑止し生き延びるために、自衛のための「核保有」の選択肢を排除すべきではない。

核不拡散条約第10条は異常な事態が発生し自国の存立が危機に陥った場合の「脱退」を認めている。今後、日本がいかに危機的な安全保障環境のもとにおいても、国是とされる「非核三原則」だけは何が何でも死守した結果、肝心の国が滅びれば、元も子もなく本末転倒も甚だしい。

共産党・志位委員長の無責任な「憲法9条信仰」

今回のロシアによるウクライナ侵略に関して、共産党・志位委員長は、他国に侵略しないように指導者を縛る条項が憲法9条だとツイッターに投稿したとされる(3月13日付「産経新聞」参照)。

それによれば、憲法9条の「戦力不保持・侵略戦争禁止条項」は、侵略する側には有効かもしれないが、侵略された側には有効でないことは明らかである。なぜなら、侵略された側は、「戦力不保持」の憲法9条だけでは到底国と国民を守れず、無条件降伏する以外にないからである。国の安全保障(「抑止力」)を完全に無視した極めて無責任な「憲法9条信仰」と言うほかない。

ロシアによるウクライナ侵略の教訓

今回のロシアによるウクライナ侵略の教訓は、戦争「抑止力」なき国は他国から侵略される危険性が常にあるということである。ウクライナは旧ソ連崩壊により独立し、米国、ロシアに次ぐ世界第3位の「核保有国」となったが、1994年の米国・ロシア等による主権と安全を保障する「ブタペスト覚書」を信頼して核兵器をすべて放棄した。

このため、ウクライナはロシアに対する「核抑止力」を完全に失った。そのうえ、ウクライナアはNATOの未加盟国で、通常戦力においても「抑止力」が十分ではなく、ロシア軍の攻撃には到底対抗できないとロシア側が判断したため今回の侵略を誘発したことは明らかである。すなわち、ロシア側はウクライナについて「力の空白」と判断したのである。

したがって、もしもウクライナが、今も一定の「核抑止力」を保有し、通常戦力においても一定の「抑止力」を保有していたならば、「力の空白」はないから、今回のロシアによる侵略はなかったと考えるのが合理的である。日本はこの国際社会の厳しい現実を最大の教訓とし、「抑止力」の重要性を肝に銘じ、「力の空白」を作らないために、常に戦争「抑止力」の強化向上を怠ってはならないのである。