プーチンの誤算と停戦合意の行方

こんにちは。いくつか本ブログにウクライナ情勢について書いていますが、前回から3週間経ち、今や戦局は膠着し、停戦合意が本格化するのではというところにきたと思いますので、アップデートさせて頂きます。

Nastco/iStock

今日の切り口は、プーチン大統領の大誤算と停戦合意の行方です。まず、子供や女性達の避難所、しかも空からもわかるように大きく表示している避難所をロシアが爆破するなど許せない非人道的行為であり断固非難します。

1.プーチンの動機と誤算

プーチンはなぜウクライナ侵攻することにしたのか。ロシア国境線上にNATOという敵対的組織への加盟国は許さないという地政学的欲求に加え、特にウクライナについてはスラブ世界を構成するロシアの一部とも言うべき存在であり「西側世界」に倒れるのを何としても阻止したいというのがウクライナ侵略の動機でしょう。これはウクライナからのただの「口約束」ではだめで法的に担保したい(=中立化)ということです。

ところが、プーチン大統領の大誤算だと思いますが、数日と終わると思っていたウクライナ侵略は、既に3週間たってもまだキエフ陥落に至らない状況です。

誤算は、① ウクライナ人の抵抗はさほどではないだろう(何ならゼレンスキーは圧迫すれば亡命するのではないか)、② ロシアのエネルギーに依存するNATO諸国の対応はバラバラで結束しないに違いない、③ 西側の経済制裁はクリミアやジョージアの時と比べれば厳しいがそう大したものではないだろうといったものです。

前回ブログにも書きましたが、ジョージア侵攻、クリミア侵攻が意外と簡単に成功したという過去の「成功体験」に基づくものでしょう。また、ウクライナの能力を軽んじていたためかどうか、正直いって、ロシアの今回の軍事オペレーションはかなり杜撰な気がします。

ところが、現実は、① ゼレンスキー大統領は国内にとどまり、有事のリーダーとして国民の士気を高め、ウクライナ軍、ウクライナ人は勇敢に戦っている結果、数日での攻略どころか3週間たってもキエフ攻略も終わらない。一言でいえば、軍事的に成功していない。② マクロン自身が「死に体」と言っていた米・NATO諸国は結束し、国際社会の多くが一致して前例のない厳しいロシア制裁を行い又は政治的非難を行い、ロシアは孤立し、経済的にかつてないダメージを被りつつあります。

2.戦略的失敗の確定

その結果、ロシアにとっては、戦術的に成功があったとしても、戦略的には失敗に終わることはほぼ確定しました。

① 自国国境線上または国境付近にロシアに敵対的な国家を次々と出現させ、ロシアの安全保障環境を悪化させています。ウクライナにとってロシアは永遠の敵国になりましたし、NATO加盟をあきらめ「中立国」となったとしてもウクライナの西側志向は決定的となりました。中立国のフィンランドやスウェーデンまでNATO加盟を真剣に検討しています。

② ドル資産凍結やSWIFT排除でロシア経済が低迷するだけでなく、外国企業はロシアから撤退し、また、各国がロシアへのエネルギー依存を下げようと努力している結果、仮に今回の戦争が終わったとしても、ロシアは長期にわたり外国からの投資減やエネルギーによる収入減で、劇的に経済状況の悪い国となっていくことでしょう。

主たる貿易投資相手が中国のみということになれば、まるで巨大な北朝鮮です。まだ、今すぐ停戦合意から本格的外交交渉に移行すれば、経済的ダメージも少なくすみます。ロシア自身のためにも早くゼレンスキー大統領とプーチン大統領の直接会談が行われることを強く望みます。

3.停戦合意の行方

まだ交戦中の中での停戦交渉でありますが、すでに、本格的外交交渉となる場合の柱となる方向性が少しずつ見えてきたと感じます。何より戦局が膠着状態になりつつあることから、私は、これから受け入れ停戦交渉から実際の停戦、本格的外交交渉に移行に進むものと思います(期待もこめて)。

ロシアが化学兵器や小型核を使って戦局を一気に変えようとの暴挙にでるのではないか、との見方もありますが、そのようなことをすれば、欧米における国民世論が急変することもあり得、その結果、NATOが軍事介入可能性もゼロではなくなるでしょう。焦ったプーチン大統領がまたもやの間違った判断をすることもあり得ますが、ロシア自身にとっても愚策です。

さらに、昨晩の米中首脳会談で米国から中国は相当ねじをまかれ、中国からの軍事支援を得られる見込みは相当下がったのではないでしょうか。実際問題、国際的に孤立化し非難の対象となっているロシアに兵器供与をして西側から敵国扱いされ、国際的非難や二次制裁の対象となることは中国にとって合理的ではないと思います。となれば、ロシアが「時間稼ぎをして軍を立て直す」といのも無理そうです。

したがって、プーチン大統領の合理的選択は、ロシアにとり戦局が不利にならないうちに(現在のところ一応ロシア側が勝っている)できるだけ早く停戦合意、外交交渉に切り替え、できる限りロシアの要求をウクライナに飲ませるよう取り組むということになるはずです。

もっとも停戦合意をできるだけ有利に進めるために、ロシア、ウクライナ双方とも、交渉で譲れないを得るまで交戦を続ける可能性は高いと思います。

4.飲めるものと飲めないもの

それでは、停戦合意(ひいては外交交渉による解決策)の中身はどうなるか、ここで勝手に予想してみます。

まず、プーチンの5項目要求は、① 中立化、② 非武装化、③ 非ナチ化(ゼレンスキー政権打倒、親ロ派への政権交代)、④ ロシアのクリミア併合承認、⑤ ドネツク、ルガンスク共和国の独立承認ですが、おそらくゼレンスキー大統領他ウクライナ側の言動(「NATO加盟は無理だとわかっている」)から見るに、① 中立化と② 非武装化は受け入れ可能だろうと思います。

中立化とはすなわち、法的に、ウクライナがNATO加盟しないことと外国駐留軍を置かないことを担保するものとなります。非武装化については、本当に武装しないということをウクライナが受け入れることはあり得ないしさすがにそれはロシアもわかっているので、どの程度の兵器を置くかという条件闘争的な世界の話となると思います。

③の非ナチ化は既にロシアは諦めていると思います。いくら親ロ派に大統領を無理くりすげかえたところで、既にロシアを敵視するウクライナ国民との関係で傀儡大統領を維持し続けることは困難だと思っているでしょう。

④ クリミア併合承認と⑤ 両「共和国」の独立承認は、ハードルが高いです。中立化や非武装化というのはいってみれば国としての安全保障政策の変更であって、領土に影響があるものではありませんが、④と⑤はまさに、ウクライナにとっては、軍事侵略に負けて、領土割譲、国境線の変更を意味するからです。

日本としても、国際社会としても、軍事力行使によって国境線が変わる(領土割譲とは19世紀か?)ことは許容できないところです。しかし、実際に、戦争というのは領土を奪い合うために行われてきたことも事実であり、当事国間で合意がなされるのであれば、それは国際法上有効に成立し得ることも事実です。ロシアからすれば、「コソボ紛争と何が違うのか」と強弁することでしょう(コソボは結局独立承認)。

但しその中でも、より難しいのは⑤の方でしょう。ロシアが戦争継続可能な状況のまま交渉を始めればクリミア半島のロシア併合を認めさせることは、戦局次第では不可能ではないかもしれません。もともとクリミアは、1954年にフルシチョフがウクライナの歓心を買うために「友好の証」としてロシアがウクライナに渡した場所であり、「ロシアにとっては」、もともとはロシア領という意識がありますし、長らくロシア軍が駐留していたこともあり、いわば、現状を法的に肯定することであるという側面もあります。

5.中国ファクター

ロシアの経済制裁の抜け道となりうるのは中国ですが、今頃、習近平国家主席は、こんなはずじゃなかったと思っているのではないでしょうか。プーチンがここまで大規模侵攻をしてしかも短期間で終わらず、世界中から非難を浴びている状況では、ロシアと一緒くたになって国際的非難を浴びるのは余り得策ではないと判断していることと思います。

中国がロシアに軍事供与するとの情報もありましたが、米中電話首脳会議で相当厳しくねじをまかれたようです。経済的な支援を行うことと軍事支援を行うことはレベルが違います。中国が仮に愚かにも軍事支援など行おうものなら、中国に対する二次制裁が始まることは確実でしょう。

同時に、習近平国家主席は、今、プーチンが何をしたらどういう反応を米国他の国々が行うのかつぶさに観察していることだろうと推察します。中国が台湾に軍事侵攻した場合のことを想定して。

したがって、中国に台湾軍事侵攻をやりやすいと思わせないためにも、ロシアによるウクライナ侵略の決着はロシアが得した、と思うようなものとなってはならない。とはいえ、最終的な停戦合意、その先の外交的解決の内容は、戦争がどういう形で終わるか(ロシアがどの程度負けるか勝か)に大きくよるものと思います。

6.日本としてやるべきこと

可能な限りの制裁とウクライナに対する人道支援、そして、日本として有効な外交的支援です。ちょうど岸田総理がインドを訪問し、首脳会談を行ったところですが、ロシアを非難する側に回っていないインドに対し、協力を要請したものと思いますが、これはQUADの立役者であり長らくの良好な日印関係を持つ日本としてやるべき良い外交的支援だと思います。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2021年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。