米国がメキシコからのアボガドの輸入を一時停止した理由

米国の動植物検疫官が脅迫を受けた

世界で生産されているアボガドの30%がメキシコで生産されている。そしてメキシコではミチョアカン州が同国の生産量の4分の3を担っている。そして、その生産量の85%が米国向けだ。それは輸出金額にして35億ドル。また日本も輸入相手国となっている。

ところが米国政府は2月11日、メキシコからのアボガドの輸入を停止させた。理由は出荷を前に米国から派遣されている動植物検疫局(APHIS)の職員のひとりが携帯電話で脅迫された、というのが理由だった。その後、1週間が経過して輸出が再開されたのであるが、今回の輸出停止となった事情を以下に説明したい。

現在メキシコには米国から派遣された職員30名が出荷の為の検査をしている。出荷されるアボガドに害虫が寄生していないかといったことを検査するのであるが、最近問題になっているのは、プエブラ州で生産されているアボガドがミチョアカン州のものとして混入されて米国向けに輸出されていたということである。というのも、米国に輸出できるアボガドはミチョアカン州で生産されているものだけに限定されているからである。そしてその輸出が認可されている企業は72社。

メキシコ政府はミチョアカン州以外の他の自治州で生産されているアボガドも輸出ができるように米国政府に働きかけているが、その場合は交換条件として米国産の農作物のメキシコへの輸出解禁を要求していることから両国の間でこれまで合意に至っていない。

刑務所から脅迫電話

米国最大のスペイン語放送「ウニビシオン」が2月14日付のデジタル紙で明らかにしいているのは、問題の脅迫はメキシコ州エカテペック市の刑務所から同検査官の携帯に掛けられたものだとしている。尚、脅迫の内容は明らかにされていない。しかし、それが麻薬組織カルテルが絡んでいるというのは確かである。ミチョアカン州のアボガドの輸出は複数のカルテルの争いが錯綜している中で輸出が実施されているというのは公知の事実だからだ。

米国の動植物検疫官が脅迫を受けたのは今回が初めてではない。2019年8月にも1件あった。それはミチョアカン州ウルアパン市で数人の検査官が移動していたトラックをギャングが銃を突き付けて襲い彼らのトラックを盗んだという事件だ。(2月12日付「インフォバエ」から引用)。

麻薬組織にとってアボガドも収入源となっている

アボガドが儲けになるとしてカルテルが目を付けたのは2013年頃であるという 。アボガドの生産業者を脅し、生産を妨害されたくないのであれば1ヘクタール当たり5万ペソ(28万円)を要求し始めたのである。それを拒否する農家に対しては彼らのアボガドの畑を燃やしたり家族を誘拐して殺害するといった行為に出ていた。

当初、ミチョアカンを支配していたカルテルはロス・カバリェロス・テンプラリオスだった。それが翌年2014年になるとそれに対抗して新たにカルテルのラ・ファミリア・ミチョアカンが登場してこの2つが縄張り争いをしていた。

2020年にはさらに2つのカルテルがそれに加わった。ロス・ビアグラとハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンである。特に、ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンは狂暴なカルテルとして知られており、その成長は著しく、今ではメキシコでシナロアとテリトリーを2分するまでになっている。ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンのリーダーエル・メンチョはミチョアカン出身で小さい頃に家庭の生計を助けるのにアボガドの農園で働いていたということでアボガドには詳しい人物だ。

アボガドの生産農家は自衛団を結成

カルテルから利益を搾取されることに不満を持っている農家は自警団を形成するようになった。農園主の中には家族をカルテルによって殺害された人もいる。彼らは機関銃や防弾チョッキに身を包み、彼らの農園にカルテルのメンバーが入れないようにしている。その為にも国道の重要な拠点には見張りを置き、20人から60人がグループになって彼らの農園の周囲を巡回して監視している。

自警団が警戒を緩めると、その隙間をぬってカルテルがまた侵入するといったことが繰り替えされている。

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領(以後、アムロ)は自警団の形成には反対している。彼らも守るのは警察や軍隊であるというのが理由だ。ところが、実際にはアムロが大統領に就任してカルテルとの平和的な解決を求めて寛大な対処をして来たものだから、それが逆にカルテルにとって勢力拡大の良い機会だと捉えて犯罪が過激化するようになっている。

1週間の輸出停止は5000万ドルの損出

ミチョアカン州から米国に向けアボガドの出荷は25年前から始められた。現在30万人の雇用が維持されている。今回は僅か1週間の輸出停止であったが、新鮮な果物だ。輸出が急遽停止されても他の市場を直ぐに探し見つけることはほぼ不可能である。ということで、仮に市場が見つかっても特価で販売するような状況に追い込まれた。そのようなことから今回の損出額は5000万ドルまでにのぼるとされている。