厚労省「超過死亡とワクチン接種数との関係についての見解」に対する疑問

国立感染症研究所
厚生労働省HPより

厚労省が、「超過死亡とワクチン接種数との関係は説明が難しい」という見解の資料を公開しました。厚生科学審議会からの要望に応じて、国立感染症研究所の鈴木氏が資料を作成したようです。

私は、この見解には大きな疑問を抱いています。一つ目は、関係の説明が難しいとするロジックに問題があることです。二つ目は、グラフの超過死亡数が不自然であることです。

まず、資料が提示しているグラフを見てみます。資料よりグラフの一部を引用します。

厚労省の見解は次のようなものです。

  1. 超過死亡数のピークは5月である。
  2. 1回目のワクチン接種数のピークは6月である。
  3. 超過死亡数のピークの1か月後にワクチン接種数のピークがあるため、超過死亡をワクチン接種との関係で説明することは難しい。原因が結果より先行することは有り得ない。

3.は、明らかに論理の飛躍です。3.を論理的に正しく書けば次のようになります。

  1. 超過死亡数のピークの1か月後にワクチン接種数のピークがあるため、5月の超過死亡をワクチン接種との関係で説明することは難しい。原因が結果より先行することは有り得ない。

「ワクチン接種と5月の超過死亡の関係」を、「ワクチン接種と超過死亡の関係」に、すり替えてしまっているのです。5月の時点で高齢者の接種者は少ないので、5月の超過死亡数のピークに対するワクチン接種の関与は軽度と考えられます。ワクチン接種と超過死亡の関係を調べるのであれば、ワクチン接種数のピークの後、つまり6月以降の超過死亡数の推移を分析しなければなりません。資料では、不思議なことに6月以降の推移について全く言及されていません。

5月の超過死亡数のピークは、主にコロナ死と医療逼迫死によるものであり、ワクチン接種の関与は軽度と考えられます。そして、その1か月後にワクチン接種数のピークがあったということです。初期の1か月のずれというのは、それだけの話です。資料で使用されているロジックは、原因が複数ある時には使えません。

次に、グラフの数値の不自然さについて考察してみます。

グラフの超過死亡の数値が極めて不自然なのです。グラフでは、4月の第1週の超過死亡数が「-2000」となっています。一方、公開されている国立感染症研究所のダッシュボードで調べると「0~359」です。前者は65歳以上の超過死亡数なのに対して、後者は全年齢の超過死亡数です。したがって、多少の差は有り得ますが、ダッシュボードの数値と比べますと、「-2000」という数値は極めて不自然に小さい値です。

何故、このような不自然な数値になってしまったのか?

この謎を解く鍵は、超過死亡数を計算する時の、特別ルールにあると私は考えています。グラフは、「観測死亡数-閾値上限値」を超過死亡数として作成されています。閾値上限値・下限値を用いた超過死亡数の計算は少し特殊なのです。

理解しやすいように図解してみました。

観測死亡数により、a、b、cの3つのパターンが存在します。aの場合は、超過死亡数はプラスであり、bの場合はマイナスとなります。問題は、cの場合です。感染研の解説では、cの場合は超過死亡数をゼロとすると記述されています。

資料のグラフでは、ダッシュボードの数値を用いてグラフ化したのではなく、ダッシュボードの元となっている数値を再集計してグラフを作成したと考えられます。そして、パターンcの時に超過死亡数をゼロにせず、マイナスの数値のままで集計してしまったのです。その結果、不自然に小さい数値となってしなったわけです。再集計の計算方法が不適切と言わざるを得ません。

ネット上では、超過死亡について様々な議論がなされています。厚労省には、丁寧な説明が求められています。今回の見解では、不十分と私は考えます。厚労省は、接種数ピークの6月以降の超過死亡の推移についても分析して説明するべきです。データは、ダッシュボードで公開されている数値を用いるべきです。そして、「観測死亡数-閾値上限値」の超過死亡数だけでなく、「観測死亡数-予測死亡数」の超過死亡数についての分析も行うべきです。