アノニマスによるウクライナへの援護射撃

「我々は通常の組織とは違う。入社試験もないし、資格審査もない。組織のトップとして、メンバーに命令する人もいない。基本的に誰でも参加できるし、皆がそれぞれ意見を出して、多くの支持を得られた場合、声明を出して皆で協力し合いながら活動、結果を出していく。基本的に自分のためではなく、世界のため、今回はウクライナのためだ」

グレッグ・ハーシュ。「匿名」という意味の謎のハッカー集団、アノニマス(Anonymous)、その創立メンバーの1人だ。

アノニマスと思われる人たち Wkipediaより(編集部)

1991年謎のカルト宗教団体「サイエントロジー」が設立された。俳優トム・クルーズ、ジョン・トラボルタ、ピアニストのチック・コリアなどの有名人も関係しているといわれて社会を騒がせた。いまだに詳細は不明だが公益を損なっているとされ、2008年1月この「サイエントロジー」に「アノニマス」が宣戦布告をした。グレッグは仮面を付けて登場した1人だ。いまだにFBIに逮捕される可能性もあるので、本人は絶対に認めない。笑って「刑務所は視野に入っているが、正義を貫くだけ」という。

「アノニマス」は「サイエントロジー」のウェブサイトに大量のデータを送りつける分散型DoS攻撃を実施、サーバーをダウンさせ、教義に関する文書などを世界に公開した。

グレッグ氏と筆者
筆者提供

「匿名は匿名、絶対に取材は不可能」と言われていたが、筆者は25年くらい前にグレッグに辿り着き、ボストンの自宅で長時間インタビューをした。世界的なスクープ報道だった。

最近、米国の有名なドキュメンタリーTV「History」 チャンネルが、調査報道技術を駆使して数々の障害を乗り越えてグレッグに辿り着いた。住まいが分からないように、ボストンのチャールズ川近くの屋外で、独占スクープ・インタビューをして放送し反響を呼んだことも記憶に新しい。

Historyチャンネルのインタビューをうけるグレッグ氏
筆者提供

その後「アノニマス」は、数々の世界的な動きに対処した。因果関係や詳細はいまだに不明だが、2010年「アラブの春」「ジャスミン革命」に関連してエジプトなど8つの政府、2013年はイルカ漁に抗議して和歌山県などを、さらに最近ミャンマーの軍事政権も攻撃した。

数々の米軍の蛮行を世界に明らかにした告発サイト「ウィキリークス」。これも筆者が創始者のアサンジに世界的な独占スクープ・インタビューをした。世界中から「ウィキリークス」への寄付が集まったが、米当局の圧力を受けて受付を停止した金融機関や、カード会社も「アノニマス」は攻撃した。当然アサンジは喜んだ。

基本的に、議論は各種あるが、アノニマスは「反体制」「環境保護」が目的で動いている。

そして今回はウクライナ。プーチンの暴挙に対抗して、2月にウクライナ政府によりIT軍が創設されて、世界中に同志が募られた。それに前後して「アノニマス」もロシアへの参戦を宣言。ロシア国営放送をハッキング、ウクライナ戦争の実態を短時間だが放送。他の組織も参加し、ロシアの銀行、動画サービス、TV配信チャンネル、通信衛星、ロシア軍を助けたベラルーシの鉄道網にも攻撃を仕掛けた。「アノニマス」や同種のハッカー集団の活動は、サイバーへのDDoS攻撃、SNSなどでロシア国内や世界の世論に影響を与えている。

ここ10年くらい注目を浴びている欧州・豪の調査報道組織「べリングキャット」(イソップ寓話”ネズミの相談 Belling the Cat”にちなむ)。約300人が亡くなった2014年のマレーシア航空機墜落事件でロシアが下手人ということを公開情報で暴いた。話が少しそれるが、実績をみた筆者は責任者ヒギンズ氏に「コロナの起源」の調査報道を一緒にやろうと持ちかけたが、いまだに返事がない。

この「べリングキャット」も、ウクライナ危機でかなり動いており、既にジュネーブ条約違反の「クラスター爆弾」使用を暴いている。さらなるロシアのウソと蛮行が暴かれる可能性大だ。

また米国のEV車大手テスラのマスク最高経営責任者(CEO)がウクライナに衛星によるネット接続サービスを提供するなど、ウクライナIT軍への支援は続く。IT関連多国籍企業にロシアをボイコットすることの呼びかけも始まっている。

一方、詳細は明かにされていないが、昨年末から、ウクライナ「IT軍」創設にもつながったといわれる米政府のサイバー部隊も、水面下でウクライナ支援を実施。やはり昨年末からそれ以前からの活動をさらに強化したロシア側からのサイバー攻撃に真正面から戦っているという。

その結果の1つが、普通では考えられないロシア軍高級将校の殺害につながったという説もある。

相対するロシア。北朝鮮もそうだが、10年以上前から、リアルの戦争との「両輪」で、昔の米と同じように天才を高給で集め、国家を挙げてIT戦争組織を作り上げてきた。筆者は米国防総省が天才ハッカーをリクルートするところを現場取材したことがある。当然、やはりCIAが雇用した天才ハッカー、エド・スノーデンも複数回直接取材した。

今回のプーチンの侵攻を予測してか、米国の連邦捜査局(FBI)と国家安全保障局(NSA)が、ロシア政府が支援するサイバー戦闘部隊FANCY BEAR が活動。マルウェア「Drovorub」を使って、軍などのネットワークへの潜入や機密情報のハッキングなどを行っていると、共同で発表した。

筆者が少し前にこの欄に書いた米側による地対空「ステインガー・ミサイル」、やはり歩兵1-2人で簡単に使えて戦車を破壊できる「ジャベリン」、特殊部隊などが使う「神風ドローン」と呼ばれる戦術的無人自爆航空システム、大きな成果を出している旧ソ連製のS300 防空システムも大活躍。米国は1000億円近い追加支援をしている。

これらハードだけでなく、ウクライナIT軍との協力で「アノニマス」らがやっているソフトの「サイバー援護射撃」。

最新の情報では、「アノニマス」は20日、ロシアで業務を継続する企業全てに「クレムリンの犯罪政権に税金を払うことを止め、48時間以内に撤退しろ。しない場合は全面攻撃する」とSNSで警告している。

世界はこの「両輪」援護を見守っている。