不合理なエネルギー政策が大規模停電を招く

池田 信夫

これは今年1月7日の動画だが、基本的な問題がわかってない人が多いので再掲しておく。いま問題になっている大規模停電の原因は、直接には福島沖地震の影響で複数の火力発電所が停止したことだが、もともと予備率(電力需要に対する供給の余裕率)が3%しかなかったので、供給能力が3%以上落ちると停電が起こることはわかっていた。

今は揚水発電で不足分を供給しているが、20時ごろにはそれも停止するので、絶対的な電力不足になると、計画停電が避けられない。

ゆがんだ電力自由化で供給能力が激減した

こうなった根本原因は電力自由化である。もともと発送電分離は、規模の経済の大きい送電部門とそうでもない発電部門を分離し、発電部門を市場原理にゆだねるものだから、停電のリスクは増える。どこの国でも、自由化した直後には大停電が起こった。

しかし日本の電力自由化は、民主党政権によって原発の全面停止と同時に行われたため、市場原理が大きくゆがめられた。原発の停止で、電力供給の20%が失われ、それを高価なスポット価格のLNGで埋めたため、電気料金は1.5倍になった。

おまけに再エネ最優先で、40円/kWhという世界最高の価格でFIT(固定価格買い取り)を義務づけたため、太陽光発電に業者が殺到し、電力会社はそれを全量買い取るため、火力の稼働率が落ち、採算が取れなくなった。

「石炭火力を100基減らせ」という経産省の政策

さらに脱炭素化のため、経産省は石炭火力の新設を制限し、2030年までに非効率な石炭火力を100基減らせと電力会社に指示したため、古い石炭火力が廃止された。これは全国に150基ある石炭火力の7割をなくせということで、ざっくりいうと日本の発電能力の20%が失われる。

日本経済新聞より

特に(採算の悪化と規制による)石炭火力の廃止が、供給不足の最大の原因である。再エネの使えない時間に供給するベースロード電源が不足したのだ。今ごろになって、エネ庁はあわてて「石炭火力を廃止するときは事前に役所に報告しろ」と朝令暮改の行政指導をしているが、電力会社がそれに従う義務はない。

電力自由化した今は、発電会社に供給責任はない。昼間に高い価格で買い取ってもらい、夜になったら供給できない太陽光の尻ぬぐいをする義務はないのだ。これは市場原理で電力を供給した当然の結果である。

このゆがみを是正するベストの対策は、原発の再稼動である。原子力規制委員会が設置変更許可しても運転していない原発が7基ある。これを動かすだけで、予備率は大幅に向上する。

もう一つの対策は、現在のエネルギー規制を見直すことだ。特に100年後の地球の平均気温を1℃下げるために現在の生活を危険にさらす脱炭素規制には合理的根拠がない。これを機会に、エネルギー基本計画を始めとする日本の不合理なエネルギー政策を抜本的に見直すべきだ。