「短気は損気」ではなく「短『期』は損気」こそ正しい

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

「短気は損気」とは、よく知られた言葉である。一時の感情に任せ、衝動的な行動に出ると損をしてしまうという意味だ。

この言葉はよく知られている一方、本質的な意味合いについて実感を持った理解者は決して多くない。筆者は「短気は損気」の本質は「短『』は損気」で示すべきだと思っている。その根拠を本稿で述べていきたい。

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短期思考で人生の難易度が上がる

世の中のあらゆる挑戦において、短期的に勝負を決めようとすると損をする。挑戦の具体例としては、

・投資
・ビジネス
・英語学習
・人間関係

があげられるが、いずれも短期思考で挑むべきではないことを論理的に説明が可能だ。

まずは投資、投資においては短期的な取引…つまりは投資ではなく投機の性質が帯びるほど成功するための難易度が高まる。投機では、素人から機関投資家までが同じフィールドに身を置き、合法的に富を奪い合うゲームになる。その時間軸は極めて短期的で、Winner takes all(強者総取り)の様相を呈する。

一方、長期投資家は資金力の面で弱者である個人投資家が、時間を味方にすることができるトレード手法だ。短期的に勝ちを積み上げることは難易度が高くても、長期的に勝つことは想定的に易化する。

また、ビジネスや勉強においてもスピーディーな成功をするには、生まれ持っての才能など固定値としてのパラメータも影響する。たとえば英語力は時間を味方に、力のつく学習法を積み上げれば、理論上は全員が成功するイージーゲームだ。しかし、仮に「3ヶ月以内に成功せよ」など、時間的な制約下に置かれるとたちまち成功する人を選ぶゲームへと変貌するだろう。

人間関係も同じだ。相手との信頼関係を築くには、本来は時間をかけるべきである。出会ったその日に「夜ご飯でもどうですか?」などと言われれば、誰しも相手の下心を感じてしまうだろう。筆者は男性だが、女性からそう言われたとしたら「セールスなどの勧誘を受けるのでは?」と警戒する。人間関係の一般論としても、短期的に距離を詰めにいくと信頼構築ができる難易度が高まるのは明白だ。

このように短期思考はあらゆる挑戦の難易度を高めてしまう。「早く結果を得たい」と早る気持ちで自ら挑戦を難しくしているのだ。

世の中の多くが短期思考家なワケ

なぜ、世の中には短期思考家が多数派なのだろうか?その理由は「ストレス」で説明が可能だ。

人は「確実な痛み」以上に「不確実性の高さ」に対して、強いストレスを感じる機能性を有していることを、University College Londonの研究チームが電気ショックを用いた実験で明らかにした。

宝くじよりインデックス投資の方が勝算が高いにも関わらず、前者の利用者の方が多い理由は、テラ銭に対する理解度不足だけでなく、「長期投資における結果の不透明性を忌避したい」という姿勢による要素も否定できない。つまり、短期思考家は不確実性にストレスを受けることを嫌い、早く結果を欲しがることから来ていると言える。

だが、これは感情的な決断であり、その感情は理性でコントロールすることができる。人間は理性の動物だ。論理的に長期思考の方が利があるという本質を理解することで、感情に立脚する意思決定を排除することができる。詳細については、筆者の執筆した過去記事「人生を生きるのが楽になる魔法の言葉「長期は上」を参照してもらいたい。

世の中は変化が早くなり、パンデミックや戦争などの不透明性を増している。近年において職場で感じるストレス値は高まっているというデータもあるが、これには先行き不透明性も要因の一つだろう。

だが良くも悪くも、人生は先がわからないから生きる価値がある。自分の死のタイミングや命運がわからないからこそ、今を真剣に生きようという気概が生まれる。そこを考えると、先行き不透明性こそが人生のゲーム性を高め、生きることの面白さの源泉なのではないだろうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。