世の中に早口な人が増えたことで起きている問題

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

「世の中には早口の人が増えている」という持論を持っている。この主張を裏付ける信頼のおける統計データはあいにく発見することは出来なかったが、現代人の置かれた環境を見るとその状況証拠は豊富に存在するように思える。

世の中の情報量は月日の経過とともに肥大化し、情報を処理する人間の脳は高速化を余儀なくされている。情報量が増えても、一日は24時間しかないので、必然的に脳の情報処理は高速化せざるを得ない。その結果、インプットの情報処理が高速化し、同時にアウトプットも高速化しているのではないだろうか。

この仮説が正しければ、それによって困った事が起きていることになる。結論を言えば「世代間でコミュニケーション齟齬」が発生しているのだ。

sekulicn/iStock

3倍速でも「普通」と感じる

周囲を見渡してみれば、YouTubeやオーディオブックなどのメディアでは、倍速再生機能の実装がスタンダードになっている。現代は「倍速情報」の時代なのだ。そのような環境に置かれた現代人は早口になるのは必然と言っていい。

筆者は日々、かなりの分量の情報を咀嚼する立場に身をおいている。仕事でも休憩でもずっと活字や音声からの情報処理をしている。動画や音声を聞く際、2倍速ではなくツールを使って3倍速…時には4倍速で視聴している。

このスタイルがすっかり板についてしまったことで、今や3倍速以上が「普通の速度」に感じるようになってしまった。2倍速だとかなりゆっくりに感じ、1倍速再生(等速)だともはやスローモーションのように聞こえてしまう。だから2倍速までしかスピードコントロールできないスマホでは、まどろっこしく感じてしまうため、長編のビジネスセミナー動画を見る時などは常にPCでの視聴をするようにしているくらいである。

それに伴い、活字を読むのも早くなった。仕事をする上で同じPC画面を見ながら問題点について議論することがあるのだが、先日は「まだ3分の1も読めてない。もう少し待ってほしい」と相手から指摘されお詫びをしたことがあった。「限られた時間の制約下で大量の情報を咀嚼する」という環境が、情報処理を速くしたと推測される。

よくいえば頭の回転が速くなったと言えそうだが、それによるコミュニケーションの齟齬というデメリットも無視できない。

年配とのコミュニケーションが難化する

このような環境に身を置いた結果、知らないうちに自身が猛烈な早口になってしまったのだ。日常生活でもYouTube動画などでも「あなたは早口だ」と相手から指摘を受けてしまうことがある。特に相手が年配の相手からそのような指摘を受ける事が多いと感じる。慌てて自分で動画を見直しても、3倍速が「普通の速度」に感じ、等速で見直すとやはり「スローモーション」のように感じる。

最近では「あなたの英語は早口だ」と外国人からも指摘を受けるようになってしまった。こうなってしまうと、もはや自分自身では早口であることに気づけない。今後は他者の話し方も参考にし、できるだけ改善の努力をしたいと思っている。

これと同じ状況は他の場所でも起きているのではないか?と筆者は予想する。特に時短目的で倍速情報に慣れきった若い世代と、分量の多くなった情報環境で育っていない年配世代がコミュニケーションをする時には、「若者は早口」と感じるケースが多いのではないだろうか(倍速情報化については、過去記事「映画・ドラマを早送りで視聴するのは「作品への冒涜」なのか?」を参考に)

早口はアウトプットできる情報量にも依存する

そして早口さを決める要素は他にもある。「自分がアウトプットできる情報量」にも影響されていると推測する。

つまり、その分野において知識が多い人ほど伝達したい情報量が多い状況が、早口をつくっているということだ。「早口だとオタクっぽい」という印象を持つ人も多いと思うが、これはオタクな人ほど自分が好きな作品について語る時に情報過多であるために、饒舌に話す過程で早口になるのだろう。自分がその分野についてよく知っているが、相手はあまり知らない。このような情報力の非対称性が起きる時、話を聞く側は「相手の話し方は速い」と感じてしまう要素もあるだろう。

コミュニケーションをする上では、「言っていることがわからない」と思わせるのは致命的な欠点である。件の通り、筆者は治療の必要性を感じているのだが、もしかしたら後世世代は、現代人以上に速くなっていることが予想される。しかし、そう考えるともはや治療の必要性の程度がわからなくなってしまう。

いずれにせよ、時短目的であまりに速い音声に慣れてしまうと、思わぬ弊害が起きうるという問題提起をしたい。

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