米民間人工衛星が撮影したウクライナ南東部のマリウポリ市(Mariupol)の写真を見ると、市内はほぼ壊滅状況だ。ロシア軍の侵攻前は約43万人の都市だったが、ロシア軍の攻撃が開始され1カ月後、市の風景は完全に一変し、破壊された建物だらけだ。ロシア軍は住居から病院まで全て破壊した。水道、電気は不通で、食糧は不足している。同市民の一部はロシア側に強制連行されたというニュースが流れている。
ウクライナでは、マリウポリほどロシア軍に激しく攻撃されている都市はない。マリウポリの状況はチェチェンのグロズヌイやシリアのアレッポを思い出させる。いずれもロシア軍が完全に破壊した街だ。マリウポリ市から市民を避難させるために人道回廊が設置されたと聞いたが、ロシア軍は避難する市民に向け発砲するなど、実際は人道回廊は機能していない。同市から避難できた市民は車を持っている人だけで、車のない市民はロシア軍に包囲された市内に身を隠す以外にない。
3月16日、ロシア軍は1000人以上の市民が避難していた劇場に空爆した。同市当局は25日、「300人以上が亡くなった」と発表したばかりだ。
プーチン大統領はウクライナを兄弟国というが、その国の人々にどうして残忍な攻撃を繰り返すのか。なぜマリウポリ市に執拗に空爆し、攻撃を繰り返すのか。考えられる点は、マリウポリの東には親ロシアの分離主義者によって支配されているルガンスクとドネツクの「人民共和国」があり、西にはクリミアがある。マリウポリ市はドネツクとクリミア半島の間の陸橋を可能にするからだ。マリウポリは、ウクライナで最も重要な輸出港の1つだ。国の最も重要な輸出品の鉄鋼や穀物はここから輸送される。マリウポリを失えば、ウクライナはアゾフ海にアクセスできなくなるわけだ。
欧州対外関係評議会(ECFR)の上級政策フェローのグスタフ・グレッセル氏は22日、ドイツ民間放送NTVとのインタビューの中で、「マリウポリ市は象徴的に重要な都市だ。2014年に親ロシアの分離主義者の手に渡ったが、ウクライナ政府軍がその後、再び奪い返した都市だ。それ以来、同市はウクライナとロシアの最前線の都市であり、ドネツク州の代替首都でもあった。2014年以降、ジョン・マケイン米上院議員など外国の著名な人物が好んで訪ねてきた都市だ。マリウポリはウクライナの抵抗の象徴的な都市だからだ」と説明している。
マリウポリを占領したとしても街全体を壊滅すれば、街の機能はなくなる。グレッセル氏は、「被害者(ウクライナ人)が犯人(ロシア人)を愛しておらず、被害者に自分を愛することを強要できないのを知った性犯罪人のような心理状態と比較できる。犯人はもはや合理的に思考できず、復讐に満ちた残忍さで被害者を襲い、殺害する。プーチン自身がウクライナについて言及するときにロシアのマフィア映画のフレーズを使用していたことを聞くと、このレイプ犯のイメージと重なる」と説明している。ロシア軍が侵攻した時、マリウポリ市が直ぐに降参しなかったことで、プーチン氏のプライドは傷つき、復讐劇が始まったというわけだ。独週刊誌シュピーゲル(2022年3月19日号)は「マリウポリの地獄」という見出しで同市の現状を報告していたほどだ。
プーチン氏やロシア軍指導部はウクライナに侵攻したら、ウクライナ国民はロシア軍兵士を花束で歓迎してくれるだろうと想像していたが、ウクライナ国民の国防士気は高く、簡単に終結する予想は大きく外れた。マリウポリへの執拗な攻撃と破壊はロシア側の強い失望の反映ともいえるかもしれない。もちろん、マリウポリ市を集中的に破壊することで、敵の戦闘意欲を失わせ、病院や学校を攻撃することで、病棟、女性、子供すら守ることができないことを敵側に知らせる狙いがあるはずだ。ロシア軍はそれをシリア内戦でも行い、現在ウクライナでも繰り返しているわけだ。
ロシア空軍は侵攻直後、迅速な空爆を実施できる準備がなかったが、ここにきて1日あたり300回の空爆を行ってきた。2機の飛行機で構成された300ユニットが、毎日離陸し、空爆を行っている。グレッセル氏は、「ロシア側は戦略を変えてくるだろう。4月1日はロシアで新しい徴兵が募られる日だ。これまでの徴兵は去り、新しい徴兵のもとスタートする。ロシア軍はウクライナに派遣できる契約兵士を可能な限り広く徴兵する予定だ。だから、ロシアは4月中旬には新たな攻撃を開始できる体制が整うわけだ。それまではマリウポリとドンバスでの行動を除けば、ロシア軍は地盤を固め、再編成し、ロジスティクスを管理しようとするだろう」と予想している。
ウクライナへの軍事支援を拒否するハンガリーのオルバン首相に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「マリウポリで何が起きているのか知っているのか」と厳しく糾弾したという。ロシア軍に包囲されているマリウポリには、水、食糧、電気のない状況下で暗い地下などで身を隠している市民がまだ多数いる。ああマリウポリ、マリウポリよ!!
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。