世界的話題の超過死亡に関するLancet論文は理解に苦しむ

鈴村 泰

mkurtbas/iStock

Lancetで超過死亡に関する論文 が発表され話題を呼んでいます。日経メディカルによると、 この論文に対してのツイート数が非常に多く、 世界中の医療関係者が興味を持ったようです。発展途上国では、PCR検査の実施が不十分なため、本当のコロナ死亡数は報告されているコロナ死亡数より、遥かに多い可能性があります。そのため、超過死亡数を推定することにより、コロナパンデミックの影響を総括することには、大きな意義があります。

論文に記載されている一部の国のコロナ死亡数、超過死亡数、比率などの数値を抽出して、表にまとめてみました。期間は、2020年1月~2021年12月です。死亡率、超過死亡率は、10万人・1年間あたりの人数です。比率は、超過死亡率÷死亡率です。

理解に苦しむ点は、日本の比率が6.02倍と非常に高いことです。他のすべての先進国の比率は2倍未満であり、日本の比率の高さが際だっています。一方、発展途上国では比率の高い国から低い国まで様々です。比率の高い発展途上国では、PCR検査が不十分なため、隠れコロナ死が多いことが超過死亡数を押し上げ、その結果、比率が高くなったと推定されます。 日本の比率は、それらの発展途上国のそれと同等です。

そのため、日本の隠れコロナ死は、本当は発展途上国のように非常に多いのではないかという疑念を、この論文は他の国の医療関係者に与えてしまっています。日本では、病院で死亡した場合には、ほぼ全例にPCR検査が実施されていますので、隠れコロナ死が数万人いる可能性は極めて低いと考えられます。

日本の比率が高くなった原因は、超過死亡数が111,000人と不自然に多いことです。 国立感染症研究所のダッシュボード で調べると、2020年1月~2021年11月において、超過死亡数は11,955~76,215で、過少死亡数は6,746~64,792です。正味の超過死亡数は5,209~11,423ということになります。論文の日本の超過死亡数は、国立感染症研究所のそれと比べて非常に多いのです。

なぜ論文の超過死亡数は不自然に多くなってしまったのか?

これは、論文において独自の方法で超過死亡数を算出しているためです。超過死亡数を計算する時に、特定のアルゴリズムを用いて計算しなければならないといったルールは存在していません。各国、各Webサイト、各論文で、それぞれのアルゴリズムで算出しているのが現実なのです。したがって、計算方法により超過死亡数に差が生じてしまうことは、さほど不思議ではありません。ただ、今回の場合は、その差があまりにも大きい点が不可解なのです。

国立感染症研究所のデータOurWorld inData のデータを用いて2020年~2021年 の超過死亡数の推移をグラフで確認してみます。

【国立感染症研究所】
[超過死亡数](青色)       =[報告された死亡数]-[予測死亡数]
[超過死亡数(閾値)](オレンジ色)=[報告された死亡数]-[予測閾値上限]

予測死亡数はFarringtonアルゴリズムを用いて計算されています。

【OurWorld inData】
[超過死亡率](紫色) =( [報告された死亡数]-[予測死亡数] )÷[予測死亡数]

予測死亡数は、Human Mortality Database および World Mortality Dataset の数値を使用しています。

どちらのグラフでも、2020年の超過死亡数はマイナスであるのに対して、2021年の超過死亡数はプラスであることが分かります。超過死亡数は相殺されるため、論文のような11万人といった大きな数値となることは考えにくいのです。論文では、予測死亡数をかなり低く推定しています。 低く推定すればするほど、超過死亡数は大きくなります。

OurWorld inDataでは、The Economistが提供する超過死亡数の累積グラフも提示されています。計算方法は、独自の機械学習モデルによると記載されています。

このグラフでは、2年間の超過死亡数は、15,644です。国立感染症研究所の推定値5,209~11,423の上限値に近い数値です。

OurWorld inDataでは、更に「もう一つの超過死亡のグラフ」が提示されています。

予測死亡数が低く推定されているため、2020年の超過死亡数はプラス、2021年のそれは大幅プラスとなっています。このグラフで計算すれば、超過死亡数が11万人となる可能性があります。

このグラフでは、予測死亡数を、過去5年間の死亡数の単純平均としています。この計算方法の問題点は、日本のように少子高齢化のため年々死亡数が増加している場合は、予測死亡数が低くなり、自然増の死亡数が超過死亡数に含まれてしまうことです。死亡数の漸増を考慮して計算しなければ、正しい超過死亡数にはなりません。

論文の超過死亡数が不自然に大きくなった原因の一つとして、計算の際に死亡数の漸増を考慮しなかったことが考えられます。一方、論文の執筆者が、そのような初歩的ミスを犯すなどということが有り得るのだろうかという疑問もあります。ただ、他で公表されている超過死亡数と比べて、論文のそれは明らかに不自然であるため、 論文の執筆者が何らかの計算ミスを犯しているか、又は計算手法自体に問題がある可能性が高いと、私は推測しています。

Lancetのような権威のある雑誌にアクセプトされた論文でも、その内容を無条件で信用してはいけないことを、今回の件は示しています。

【補足】
超過死亡を理解するには、国立感染症研究所の解説を熟読するのが最適です。ただし、専門家向きに記述されていますので、少々理解し辛い部分があります。そのため、 初心者向けの「超過死亡のまとめ」 を作成してみました。興味のある方は、ご覧ください。