日本の「核」政策:もっと真剣に日本の防衛を議論せよ

Muhammet Camdereli/iStock

いままで過去30数年、何度も耳を疑うことがあった。日本政府と日本国民の「核」に関する政策と姿勢だ。

日本人にとって核は「悲惨」「絶対悪」だから「廃絶」・・・ここで「思考停止」。それ以上は、乱暴に言わせて頂けるならば「見ザル」「言わザル」「聞かザル」。

議論などしない。安倍元首相も言ったと思うが「タブー」なのだ。最近少し耳にするようになったものの、米国の核の傘により過去70数年の平和が保たれていることなど、殆ど認識しない。「平和主義」「9条」を唱えて、水戸黄門の「印籠」のように見せれば、どこの誰も「日本に侵攻しない」「戦争など避けられる」。それが多くの日本人の考え方だろう(この米国の傘が本当に雨漏りしないかの深い議論もあるが、それは別稿で)。

それが今回のプーチンの暴挙で、日本人が「私たちは平和主義です。侵略しないで。ミサイルなど撃ち込まないで。お願い」とか言っても「待った無し」ということが、少しは分かったと思う。

3月30日TV朝日「大下容子ワイドスクランブル」での河野前統合幕僚長の以下の発言に筆者は耳を疑った。

核抑止に関する協議には自分は参画したことはありません。ただやっているとは思います。(でも河野さんトップだったのですね?)私は軍人です。(米側とは)軍人同士。核抑止は政治ですから。政治の了解があれば、我々は具体的に決めます。だが米軍と核の抑止に関して話したことは一切ありません。

ご本人はプロ中のプロだから、世界を知っており、核の実態、運用のことは詳しいと思うし、日米条約の詳細と現実、日本が置かれた立場ももちろんご存じだと思う。

だが、有事の際、米国が例えば日本を守るために、シナリオはたくさん存在し「どこで」とかは簡単には言えないが、最終的に核を使うかもしれない。そんな時「政治のことだから」と、軍人がそれまでの議論を知らなくて良いのだろうか。もちろん、文民統制で軍人は従うのが基本だ。だが議論に参加しない。政治的に日米どのような議論をやっているか、知らないという。

おそらく彼の後任の現幕僚長も同じように、いまでも「ツンボ桟敷」だろう。議論に参加しなくてもよいのだろうか。これをみてもいかに日本は自国防衛を米に「おんぶに抱っこ」か理解できる。

日本憲法の生みの親、GHQケーディス中佐(右)
筆者提供

筆者は平和憲法を作ったGHQのケーディス中佐を、長時間インタビューした。また天皇を絞首刑にしないで、戦後統治に利用することを提言したボートン教授にも、長時間直接考えを聞いた。

彼らや当時の米国の意図は、軍事大国の日本に2度と戦争をやらせないこと。兵力を持たせると、また天皇を利用して他国侵略などなにをやるか分からない。だから、日本を丸裸にして、牙を剥かせない。できれば、非戦につながる国民主権、民主主義、言論・報道の自由を押し付け、米国の手下にしたい。それが主な動機で、9条を押し付けた。

その数年後、「ソ連の狂暴性」を認識するにつれ、米国は少々後悔することもあった。手下の日本も利用しようと自衛隊を作らせて、共産圏と一緒に戦うことに全力を尽くす方針になったが、もともとの考えは上述した通りだ。

原爆を2発も落とされた日本。その悲惨さから、日本人は生理的にも「核アレルギー」になった。「絶対悪」「廃絶」が、多分7-8割くらいの国民感情だろう。

だが日本政府は賢かった。米国の核抑止力を最大限利用しようと動いた。繊維交渉もあったが、沖縄県民の本土復帰の希望、ロシアと違って統治はするが「占領はしない」という政策で、米国は海兵隊約5000人の犠牲者を出した「沖縄を返還」した。

その時、日米政府は日本の国民感情を考慮して、緊急時の核持ち込みを日本国民に言わずに、米との密約で可能にした。米国民なら持ち込みは当然のこと。隠す必要など全くない。だが異常な核アレルギーの日本国民には内緒だ。

トマス・モーラー米統合参謀本部議長(右)
筆者提供

筆者は米国統合参謀本部長の長時間インタビューで、「おい、必要なら核は持ち込む、ソ連と戦う米国にとって当然のことだろう。日本は直接的にはあまり動かないから」などと、言われて、妙に納得した覚えがある。

50ー60年代くらいで、一部は日本には内緒で、米軍は当然のように(本土の米軍基地への持ち込みは不明だが)少なくとも米艦の寄港の時に日本に持ち込んでいた。筆者はその当事者のラロック海軍少将にも詳しく話を聞いた。

当時、日本人の核アレルギーを考慮して日本政府は核持ち込みは「事前協議の対象だ」と苦しい言い訳をしたが、米軍は事前に日本に言ったりはしない。いまでもそうだ。どこに核があるか否定も肯定もしないので、間違いないと言える。

日本が過去70年くらい安全保障を米国に丸投げ、経済・技術の発展に全力を尽くしている時、米国は日本を「不沈空母」として最大限利用した。

有事の時、日本は米国のために血を流さなくてよい。だが米国の若い男女は日本防衛で血を流す。安全保障は素人の「普通の人」トランプ元大統領が「おかしいだろう?」と指摘して、やはり普通の人から成る支持者は大拍手だった。米国がこんな片務条約を許しているのは、日本による基地提供と交換だからだ。

同時に米国が心配したことがある。筆者は40年前くらいからワシントンを継続取材し始めた。最初、耳を疑ったことは、米国は日本の「独自核武装」をかなり恐れていることだった。当時の筆者は(父は被ばく2世だが)普通の日本人。日本が核武装なんてあり得ないと「極楽トンボ」の筆者は、すぐに反応した。だが間違いだった。

日本が抱えるプルトニウムと核関連技術。日本が本気で製造しようと思えば、1-2年くらいで核兵器を作れる。米国はそれが可能だということを知っていた。議会が反対したが、日本に原発を持ち込んだ時の議論もある。だからそれを恐れ、日本の独自核武装には走らせないように、前述の片務条約も受け入れてきた。

安全保障の常識からいっても、日本が独自核武装に走ってもおかしくないことを、米国は知っていた(いまでもそうだが、日本が核武装に走るなら、米国は日米条約破棄、経済制裁などありとあらゆる方法で阻止する。昔の軍国主義の悪夢が蘇る。その一方で米国の属国だと思われないために、実際にやらないにせよ、独自核武装の可能性くらい、議論を通してチラつかせることも日本国益になる。安全保障の原則、あいつはなにをやるか分からない、これがある程度の抑止になるからだ)。

だが日本人の核アレルギーは、独自核武装を日本政府に許さず、現在に至っている。

筆者はジョセフ・ナイ、国務副長官を経験したデイック・アーミテージなど、米政府要人を複数回、長時間インタビューをした。彼らの考えからも、日本は通常兵力で米国と共同に戦う準備をするべきで、同盟国など関係なく独自核武装はさせないという決意を彼らから感じた。

いままで殆ど米国におんぶされ「極楽トンボ」をやってきた日本。今回のウクライナ危機で、まだまだ他人事、中国関連で明日は我が身なのだが、自国防衛のことをまだまだ真剣に考えていない。国際政治の冷徹な現実や核の役割など少しは理解しつつあると思うが、まだまだだろう。

同じような敗戦国で敵国条項など共通点があるドイツ。プーチンに「エネルギー依存」という人質を取られて、当初は侵略者プーチン対策に消極的だった。だが米国の対応などをみて、大きな方針転換をした。同盟条約があっても、同盟国の防衛力はあまり信用できない。「自分の国は自分で守らないと手遅れになる」と気が付いたのだ。そのことも、日本はあくまでも殆ど他人ごと、自分のこととして、真剣に比較検討しているようにはみえない。

プーチンの暴挙があってもなくとも、東アジアの状況は憲法9条が押し付けられた40年代から過去70年くらい激変している。

もちろん米国の問題も激変している。トランプ誕生で進む分裂、国内経済と新型コロナ、クリントン政権辺りから進む弱体化と国際社会における求心力低下、もともとあった内向き傾向の促進、アフガン撤退失敗のトラウマ、中国の台頭での2正面が難しいことなど。

今回の戦争でますます顕著になった相手国(今回はプーチン)の核兵器の抑止力、過去20年くらい何度も何度も言われた米軍との協力における日本独自努力の必要性と欠如。

だが、米国が望んでいる日本の防衛費増額、中距離ミサイル配備、中国の侵攻がある時に、まずは警察の延長である海上保安庁、そして自衛隊と切れ目がない反撃ができない、すぐに自衛隊出動が難しい現状、その防衛関連法整備、敵基地攻撃などなど、議論が進んでいるようにはみえない。(内政干渉なので明言は絶対にしないが、米のプラスになる形での改憲も、米国の多くは望んでいる)

今回のウクライナ侵攻でやっと登場した「核共有」。しかしこれも岸田総理は「議論をしない」と言った。さらに「自分はヒロシマ出身の総理だから、核廃絶に前進する」的なことも言った。

「持ち込ませない」が虚偽であることが分かっているのに、非核3原則を拝む。自民党内では静かに始まったが、総理発言を気にしてか大きな議論をしない。一体なんだろうか。やはり核アレルギー、思考停止のため、あまり騒がない国民も含めて、目が点になる。

欧州とは違う形の可能性がある。殆どの日本人が知らなかったこと。まずは事実を知る、そしてしっかり議論して、日本国民が不要と決めるなら、それはそれで当然問題ないのだが、話もしない、議論もしないということが、国益を損なうという考えには至らないのはなぜか?

筆者は数日前に書いた。その通りのことが先ほど正式発表になった。バイデン政権は核の威力、威嚇力を弱める方針を日本などの希望で止めた。日本は廃絶どころか、米国に核の威力、抑止力を誇示するように煽っているのだ。

これと似たようなことが過去にあった。オバマ政権の時、核廃絶への道の1つだった。やはり核先制不使用、トマホーク核弾頭搭載中止などで、核の利用、威力を弱める計画があった。だが日本などが「自国防衛で米の核抑止力が必要だから、そんなことをしないでくれ、日本には米国の強力な核の抑止力が必要」などとお願いした。他にも理由はあったが、米国は計画を中止した。

ウィリアム・ペリー元国防長官(右)
筆者提供

もういい加減にしろと筆者の友人、本物の核廃絶論者ペリー元国防長官が「これ以上、米国の核運用で、核縮小を検討する時、日本はそれに反対するようなことは言わないでくれ」ということを、日本政府に伝えている。

これらのことを極楽トンボの日本国民は知らない。相変わらず、「平和主義、9条、唯一の被ばく国なので、悪魔の兵器、核は廃絶しましょう。ヒロシマ出身の岸田総理がやってくれるだろう」で、思考停止。なにかというと「外交で・・・」という。まるで中学生だ。外交で解決努力は、当たり前のこと。一丁目一番地だ。だが外交で戦争が止められたら、過去数千年の戦争はなぜあったのだろうか。

一番重要なことは、外交が効力を発揮するのはその背景に軍事力があることだ。こんな基本的なことさえ知らない。

筆者は30年くらい前から核拡散防止NPTが崩壊していうことを指摘してきた。米国が廃絶を謳うのは核テロ、核拡散を防止のためが中心だ。

今回、米も核戦争を恐れて、プーチンの暴挙に対して動けない。つまり中国や北朝鮮が本気で使うぞと脅した時、日本防衛に本腰を入れられなくなる可能性がある。ドイツと同じように自分の身は自分で守ることも少し考えるべきだろう。

そろそろ本気で現実を知って、日本の防衛に関して真剣に議論をしたらどうだろうか。