明暗分かれる与野党
先日公表された世論調査の結果によれば、有権者が関心を示す事項として外交・安保と応える人々が29%を占めた。これは1月と比べて7%の上昇である。よく政治の世界では外交・安保は票にならないと言われている。だが、ロシア・ウクライナ戦争への関心の高まりもあってその票にならないイシューが参院選で問われる重要課題として注目され始めている。
しかし、外交・安保の選挙での位置づけが上がるにつれて、それは与党にとって追い風となり、野党にとっては向かい風となりかねない。岸田政権の今回の戦争への対応は概ね好評である。岸田政権はロシアの行動を「侵略」と認定し、対ロ制裁も欧米に遅れを取らずに協調姿勢を取っている。また、それまで領土交渉への影響を懸念してトーンダウンしていた北方領土についてのレトリックも以前のような強い表現を使用するようになり、ロシアからの平和条約交渉打ち切りを受け駐ロ大使の召喚を発表している。そして、これまでの対応は世論から67%の支持を得ており、岸田政権の政権支持率より高い。
日本の国益と照らし合わせれば、国際秩序を揺るがす行為に対し断固たる態度を取ることが求められるが、一方で野党の言動は心もとない。社民党、れいわ新選組は今回の戦争が「どっちもどっち」であるという見解を示しており、一方的な侵略行為に乗り出したロシアの非を相対化しようとしている。
さらに、日本維新の会の鈴木議員に至っては紛争の原因はゼレンスキー大統領にあるとし、2014年のクリミア併合という遠因がそもそもの出発点ではないかのような発言をしている。また、鈴木氏の発言はロシアメディアの宣伝工作として利用されており、維新の党首として紹介されている。松井共同代表は鈴木氏の発言を党の公式見解として否定はしている。しかし、党の見解とは一見して反する鈴木氏のメディアでの露出を黙認しているように伺えることから、維新の立場が見えにくい。そして、立憲民主党の議員の中では陰謀論まがいの主張をしている議員もいる。
だが、野党勢力がこのような状況の中でロシアによる侵攻への反対を党として旗幟鮮明にしているのが国民民主党と共産党だ。
核抑止は無力か?
国民民主党の玉木代表はロシアの侵略戦争を止めようとしている国際社会に誤ったメッセージを送りかねないロシア経済協力担当大臣の役職の廃止をいち早く求めている。
ロシアが軍事侵攻したのに、いまだに岸田内閣は「ロシア経済分野協力担当大臣」を設置したままだ。どう考えてもおかしいだろう。明日の閣議で即刻廃止すべきだ。 https://t.co/jzsQ8XWDjn
— 玉木雄一郎(国民民主党代表) (@tamakiyuichiro) February 24, 2022
また、共産党は繰り返しロシアの侵略行為を批判しており、大義の無い戦争には迎合しないという戦前からの一貫性を示しているとも言える。
私たちの先輩は、例えば、ベトナム戦争のとき、ベトナムに戦車を送るな!と、米軍の軍港の近くの交差点で座り込み、とめるなど、アメリカのベトナム侵略に反対してたたかってきました。その頃、「アメリカとベトナムどちらの側にもたつべきではない」という議論があったのでしょうか。
— 宮本徹 (@miyamototooru) March 24, 2022
しかし、共産党が認識している今回の紛争の教訓に対して筆者は納得ができない。BS番組「プライムニュース」で共産党の小池党幹事長は今回の戦争の教訓のひとつに核抑止論の破綻をあげている。以下がそれについての言及である。
『抑止力』の名のもとで力の論理でひたすら軍事力で対抗すれば危険な衝突になる」と厳しく批判。プーチン大統領は核の先制使用をいとわない立場を公言していると指摘。「『核抑止力』論の前提は崩れつつあり、核戦争の危機を取り除くためには、核兵器をすみやかになくすしかない。
小池氏の発言から推測するに核抑止の失敗が今回の戦争の引き金につながったと読み取れる。しかし、筆者は今回の事態から核抑止は顕在であるという真逆の教訓を得た。
そもそも、ウクライナが侵略されたのは核による抑止を享受できなかったからだ。ウクライナはNATOに加盟していないことからアメリカの核の傘に入ることができず、侵攻直前においてもアメリカは明確に拡大抑止を提供することを拒否した。それが今回の侵攻につながる機会の窓を開いた。
一方、西側がロシアの核によって抑止されている現状は核抑止の有効性を証明している。現にロシアの核の恫喝が効いていることをアメリカをはじめとした西側諸国のウクライナの積極的な支援に消極的な姿勢が物語っている。
核による抑止力をもたないウクライナが侵攻され、逆に核抑止力を保有しているロシアが西側の介入を防いでいる現実は、核抑止論が未だに顕在であることを証明している。
与党への近道は外交・安保の現実路線
日本の戦後政治において野党が政権を維持又は獲得するのが難しかった一因は現実的な外交・安保政策の不在であった。自民党は黒い霧事件やロッキード事件などで汚職が深刻化しながらも、有権者は冷戦真っただ中で非武装中立、日米安保の破棄を訴える社会党に政権を明け渡すことなどしなかった。また、民主党政権のつまずきも鳩山首相の基地問題、菅政権の漁船衝突事件の後始末に原因があったことを考慮すれば、外交・安保政策が野党の与党化を阻害している傾向が継続しているとも言える。
世論の動向からも示唆されるように国際環境は厳しさを増しており、それに呼応するかのように大国間競争の復活に対応した現実的な外交・安保政策を求める声が大きくなっている。そして、歴史がこれまで証明してきたように、その声に野党が応えない限りは政権を奪取することは困難である。