米3月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、引き続き堅調な伸びを記録しました。理由としては、以下の3つが考えられます。
1)3月8日のハワイ州を最後に、マスク着用義務化が解除→経済正常化が加速
2)貯蓄率の低下、インフレ加速
3)人手不足を受け、経済正常化でも一部で在宅勤務承認の流れ
失業率は前月からさらに低下し、2020年2月の3.5%に接近しました。しかも、潜在労働者はインフレ加速と貯蓄率の低下を受け潜在労働者が市場にカムバックしたとみられ、労働参加率は3ヵ月連続で改善し20年3月以来の水準へ切り返しています。さらに米失業保険給付上乗せが21年9月6日に終了した後、回復ペースが鈍かった長期失業者の割合も、引き続き低下しました。
平均時給は、1~2月に鈍化の兆しが見られたかと思いきや、労働参加率が改善しながら前年比で20年5月以来の高い伸びを記録。経済活動の再開が加速するに合わせ、需要拡大も重なり人手不足が一段と深刻化し、賃上げ圧力が再燃したようです。労働者確保を狙う企業の努力は週当たり労働時間にも現れ、在宅勤務や労働時間の柔軟化を進めた結果、短縮していました。
ウクライナ情勢の不透明化もあり、5月や6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での50bp利上げの可能性が高まると共に、保有資産の圧縮発表もパウエルFRB議長の発言通り5月FOMCが意識されます。
チャート:22年末までのFF金利織り込み度、毎回利上げと年2回の50bp利上げ以上を織り込んだFF金利2.5~2.75%以上の確率が前日の52.3%→73.6%へ急上昇(4月1日、NY時間午後12時時点)
今回の米3月雇用統計のポイントは、以下の通り。労働市場の質的な改善を確認する結果となった。
(労働市場にポジティブ)
・NFPの伸びは、堅調な伸びを維持
・過去2ヵ月分のNFPが上方修正
・平均時給が前月超え(インフレの側面ではポジティブ材料)
・失業率は、20年2月の3.5%に接近
・労働参加率が改善、2020年3月以来の水準へ改善
・就業率は改善、20年2月以来の60%乗せ
・不完全就業率は、コロナ前の20年1月以来の水準に低下
・長期失業者の割合は、20年9月以来の低水準
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・週当たり労働時間は、前月から短縮
米3月雇用統計の詳細は、以下の通り。
米3月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比43.1万人増となり、市場予想の49万人増を大きく上回った。前月の75.0万人増(67.8万人増から上方修正)に届かずとも。15ヵ月連続で増加した。
1月分の2.3万人の上方修正(48.1万人増→50.4万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で9.5万人の上方修正となった。1月~3月の3ヵ月平均は56.2万人増となった。2021年平均の56.2万人増に並ぶ。
就労者数は20年5月以降、今回で2,041万人の雇用を取り戻した。ただ、同年3~4月の記録的な減少(2,199万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと約158万人必要となる。
チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと約158万人増加する必要あり
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比42.6万人増と市場予想の48万人増を上回った。前月の73.9万人増(65.4万人増から上方修正)を含め、15ヵ月連続で増加した。民間サービス業は36.6万人増、前月の42.4万人増(54.9万人増から上方修正)を超えた。
チャート:NFPは15ヵ月連続で増加、失業率は20年2月以来の低水準
サービス部門のセクター別動向は、11業種中で前月と同じく9業種が増加した。今回最も雇用が増加した業種は4ヵ月連続で娯楽・宿泊、前月3位だった専門サービス、続いて前月2位だった教育・健康が入った。一方で、コロナ禍で需要拡大が際立った輸送・倉庫の他、公益は小幅に減少した。
(サービスの主な内訳)
―増加した業種
・娯楽/宿泊 11.2万人増、15ヵ月連続で増加<前月は15.4万人増、6ヵ月平均は15.4万人増(そのうち食品サービスは6.1万人増<前月は9.4万人増、6ヵ月平均は9.8万人増)
・専門サービス 10.2万人増、12ヵ月連続で増加<前月は10.5万人増、6ヵ月平均は12.2万人増(そのうち派遣は0.5万人増、12ヵ月連続で増加<前月は4.3万人増、6ヵ月平均は4.7万人増)
・教育/健康 5.3万人増、23ヵ月連続で増加<前月は11.7万人増、6ヵ月平均は6.8万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は3.3万人増、9ヵ月連続で増加<前月は9.7万人増、6ヵ月平均は4.3万人増)
・小売 4.9万人増、10カ月連続で増加<前月は11.0万人増、6ヵ月平均は6.4万人増
・情報 1.6万人増>前月は0.5万人減と16ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は0.9万人増
・金融 1.6万人増、9ヵ月連続で増加<前月は3.0万人増、6ヵ月平均は2.0万人増
・その他サービス 1.3万人増、15ヵ月連続で増加<前月は3.7万人増、6ヵ月平均は2.4万人増
・卸売 0.7万人増、14ヵ月連続で増加>前月は2.0万人増、6ヵ月平均は1.4万人増
・政府 0.5万人増、5ヵ月連続で増加<前月は1.1万人増、6ヵ月平均は1.0万人増
―横ばいの業種
なし
―減少した業種
・輸送/倉庫 4.8万人増、22ヵ月連続で増加<前月は5.1万人増、6ヵ月平均は4.1万人増
・公益 横ばい>前月は0.1万人増、6ヵ月平均は横ばい
財生産業は、前月比6.0万人増だった。前月の10.2万人増(修正値)を大幅に下回ったとはいえ、と11ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が11ヵ月連続で増加したほか、建設も9ヵ月連続で増加した。油価がウクライナ情勢悪化で一時2008年以来の125ドル台に乗せるなか、鉱業・伐採も13ヵ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・製造業 3.8万人増、11ヵ月連続で増加=前月は3.8万人増、6ヵ月平均は4.1万人増
・建設 1.9万人増、9ヵ月連続で増加>前月は5.7万人増、6ヵ月平均は3.4万人増
・鉱業/伐採 0.3万人増(石油・ガス採掘は400人減)、13ヵ月連続で増加<前月は0.7万人増、6ヵ月平均は0.4万人増
チャート:3月のセクター別、就労者の増減
チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の0.9%減→0.6%減と下げ幅を縮小させた。11業種中で当時の水準を上回るのは民間サービスを含め5業種で変わらず。小売、輸送・倉庫、情報、専門サービス、金融となる。財部門は前月の1.3%減→1.0%減だった。しかし、今回初めて建設が0.1%増とプラス圏を回復した。
平均時給は前月比0.4%上昇の31.73ドル(約3,840円)と、市場予想と一致しつつ前月の0.1%(0.6%から下方修正)を上回り、14カ月連続で上昇した。前年比は5.6%上昇し、市場予想の5.5%並びに前月の5.2%(5.1%から上方修正)を超え、20年5月以来の高い伸びだった。
チャート:平均時給は、管理職などを含む全体は20年5月以来の高い伸び
週当たりの平均労働時間は34.6時間となり、市場予想の前月の34.7時間を下回った。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を13ヵ月連続で下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.1時間と、コロナ禍で最高となった21年9月に並んだ前月の40.4時間を下回った。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.6時間と、前月の33.7時間を下回り、②006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月を下回る伸びだった上、週当たり労働時間が小幅ながら短縮したため、前月比で若干の増加にとどまった。一方で、平均時給は伸びが加速した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.5%増だった。
失業率は3.6%と、市場予想の3.7%と前月の3.8%を下回った。コロナ直前にあたる2020年2月の3.5%にまた一歩、近づいた。失業者は31.8万人減少、離職者数も減少したため失業率を押し上げることはなかった。
労働参加率は62.4%と、前月の62.3%を上回り20年3月(62.7%)以来の高水準となった。コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である。労働力人口は前月比41.8万人増と増加トレンドを維持した。
就業率は60.1%と、前月の59.9%を上回りコロナ感染拡大の20年2月の61.2%に近づいた。
コロナ禍を理由に在宅勤務を行ったとする労働者の割合は10.0%と、新型コロナウイルス感染者の減少を受けて前月の13.0%を下回り、パンデミック下で最低を更新した。
コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は3月に87.4万人と、前月の123.1万人から減少しコロナ禍で最低を更新。つれて、労働参加率は上昇した。
チャート:職探しをしなかった労働者は減少トレンドへ戻し、労働参加率は2ヵ月連続で改善
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.7%増(91.2万人増)の1億3,181万人だった。パートタイムは同0.4%増(1.0.1万人増)の2,590万人と、増加に転じた。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は6.8%と、2020年1月以来の低水準となった。
チャート:労働参加率は2ヵ月連続で上昇し、就業率も右肩上がり
2)長期失業者 採点-〇
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均値は24.2週と前月の26.6週以下となっただけでなく、20年12月以来の水準となった。失業期間の中央値も7.5週と、前月の9.6週を下回り、20年5月以来の低水準となった。27週以上にわたる失業者の割合は25.9%と、前月の26.7%を下回り、1回目の失業保険給付上乗せが終了した2020年9月以来の低水準に並んだ。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は2月に上昇も、小幅にとどまる
3)労働参加率 採点-〇
労働参加率は62.4%と前月の62.3%を超え、2020年3月以来(62.7%)の水準を回復した。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。
4)賃金 採点-〇
今回は前月比0.4%上昇し、上方修正された前月と合わせ14カ月連続で上昇した。前年比は5.6%と、20年5月以来の高い伸びを記録。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.4%、前年比は6.7%の上昇と、3ヵ月連続で20年5月以来の高い伸びを保った。前年比の伸びは、管理職を含めた全体を13ヵ月連続で上回った。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年4月1日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。