北朝鮮の「核恫喝」による 韓国武力統一の可能性

北朝鮮の新型ICBM発射の戦略目的

北朝鮮は、3月24日新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を首都平壌付近から日本海に向けて発射し、北海道西150キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。飛行距離約1100キロ、最高高度約6200キロで、過去最長となる71分間飛行した。

北朝鮮によるミサイル発射は今年に入って11回目である。今回の大陸間弾道ミサイルは、発射角度を変えた場合は米国東海岸に到達できる可能性があるから、米国東海岸も射程圏内となる。核弾頭の搭載も可能とみられる。

視察をする金正恩氏の近影 北朝鮮公式HPより

第一の戦略目的は米国の核攻撃への核抑止力強化

今回の北朝鮮によるICBM発射の戦略目的は二つある。第一は米国からの核攻撃を含む軍事攻撃の抑止のための核抑止力の強化である。第二は「韓国武力統一」のための核戦力の強化である。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、従来から米国の核戦力を含む圧倒的な軍事力を恐れており、今回のICBM発射の第一の戦略目的は、金正恩政権の維持のため、米国からの軍事攻撃を抑止する「核抑止力」の強化にあると考えられる。米国はこれまでに核保有国に対して軍事攻撃をしたことはないから、北朝鮮は米国からの核攻撃を含む軍事攻撃を抑止するため、ICBM発射による「核抑止力」を強化しているのである。

第二の戦略目的は「韓国武力統一」への核戦力強化

しかし、今回のICBM発射による北朝鮮の戦略目的はそれだけではない。第二の戦略目的は「韓国武力統一」である、と筆者は考える。北朝鮮建国の父とされる故金日成主席は、「祖国統一は朝鮮民族最大の悲願であり、この歴史的偉業を実現するためには、南朝鮮(韓国)からアメリカ帝国主義侵略軍を追い出して祖国を統一することができる」(金日成著「金日成著作集29巻」494頁1987年朝鮮平壌外国文出版社発行参照)と述べている。

同書において金日成主席は、「武力による統一ではなく平和的方法で統一ができる」(同書491頁参照)とも述べている。武力統一に失敗し、悲惨な朝鮮戦争を経験したことが同主席の念頭にあると思われる。しかし、現在に至るも朝鮮半島の「平和的統一」は実現していないし、近い将来実現する見込みもない。しかも、この数十年における韓国の経済発展は目覚ましく、南北の経済格差は50対1にも達している。経済力からすれば「平和的統一」は韓国による北朝鮮の吸収合併になりかねない(2019年8月18日掲載「統一朝鮮が実現しない本当の理由」参照)。

そのため、北朝鮮の金正恩政権も「平和的統一」の困難さを認識しているに違いない。そうだとすれば、あとは「韓国武力統一」の選択肢しか残っていない。「韓国武力統一」で決定的に重要なのは言うまでもなく「核戦力」である。韓国は核を保有していないから、北朝鮮は「核戦力」において圧倒的に優位である。

さらに、近年における米国の軍事力を含む影響力の低下は、今回の「ウクライナ侵略」で露呈された。米国の影響力の低下は北朝鮮にとって千載一遇のチャンスであり、中国による「台湾武力統一」を睨み、北朝鮮も「韓国武力統一」を狙うであろう。したがって、今回のICBM発射の第二の戦略目的は「韓国武力統一」のための「核戦力」の強化であると考えるべきである。

北朝鮮の「核恫喝」による韓国武力統一の可能性

「韓国武力統一」の方法は北朝鮮による「核恫喝」であろう。韓国大統領府に対して、「統一」に同意しなければ「核攻撃」を行う用意があると恫喝するのである。韓国大統領府は最終的にはこれに屈服する可能性が高い。なぜなら、今回のロシア・プーチン大統領の「核恫喝」に対し、米国およびNATO諸国が「核戦争」を恐れるあまり、いかに無力であるかが証明されたからである。米国は核保有国の北朝鮮に対しても核保有国のロシアと同様に「核戦争」を恐れ、軍事攻撃ができないことが明らかになったと言えよう。

北朝鮮の「核恫喝」に対する韓国の対応策としては、独自の「核武装」か、米国からの「核持ち込み」、米国との「核共有」が考えられる。しかし、独自の核武装には米国は容認しないから、「核持ち込み」「核共有」が現実的であろう。ただ、「核軍縮」に熱心なバイデン政権が北朝鮮との「核戦争」を恐れ、「核持ち込み」や「核共有」ですら容認しない可能性がある。そうなれば北朝鮮の「核恫喝」による「韓国武力統一」がますます現実味を帯びてくる。

核を保有した「統一朝鮮」の日本への影響と日本の覚悟

核を保有した北朝鮮による「韓国武力統一」は、地政学的に日本の安全保障に甚大な影響を及ぼすであろう。今回の「ウクライナ侵略」に伴うプーチン大統領の「核恫喝」により、国際社会において「核戦力」の重要性が格段に向上した。プーチン大統領の「核恫喝」に対し有効な対応策がないことが誰の目にも明らかになったからである。

とりわけ、「平和憲法」と「非核三原則」を金科玉条とし、核を保有しない日本にとっては、核を保有した「統一朝鮮」の出現は有史以来の最大の脅威であり、核を保有しない日本は、将来、核を保有した「統一朝鮮」による「核恫喝」に屈服する可能性が高い。もちろん、中国、ロシアによる「核恫喝」に対しても同様である。

なぜなら、現在の核爆弾の威力は広島・長崎型原爆の1500倍以上にも達しており、僅か数発で日本列島が焦土と化すからである。ミサイル防衛による迎撃は不可能に近い。今回の「ウクライナ侵略」により「核脅威」が現実化した。日本は、広島・長崎の悲劇を二度と繰り返さず、1億2000万人の日本国民の命を守るため、自衛のための「核抑止力」の構築からいつまでも逃げまわることはできないのである。核を抑止するには核しかないからである。