アメリカの利上げと新興国リスク

トロントの証券マン氏から「お前はアメリカとカナダの利上げを今後どう見てるのだ?」と聞かれたので「アメリカの次回FOMCが5月3-4日。日程的に着目点はインフレ率と共に1-3月の企業決算見込みだろう。障害がなければ0.50%上げるかもしれないね。カナダはアメリカより余力がありそうだけどアメリカのような踏み込み方はしないから0.25%を着実にあげるんじゃないかな?」と答えました。

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以前、このブログで申し上げたように私はアメリカのアグレッシブな利上げ計画には反対です。そもそもコストプッシュ型のインフレを利上げで対処するのにはやや無理があると考えていました。その中で最近、日経のある記事にふと目が留まりました。「FRB、『失業率引き上げ』が新たな使命に(NY特急便)」で、内容をかいつまんで言うと自然失業率(=どういう状況下でも必ず存在する失業率)がコロナ前の4.0-4.5%から5.9%程度に上昇しているにもかかわらず、FRBは失業率改善を求めすぎ、3.6%(22年3月)まで行ったのはやり過ぎたのではないか、という内容です。

自然失業率が上昇した理由はいくつかあると思います。コロナでアーリーリタイアメントの人の背中を押した、いまだに仕事に戻りたくない、ワクチンを受けていない、お金に困っていないなどの理由で労働市場に戻らないのです。また、賃金が急上昇したため、働く側が仕事を選ぶようになり、労働配分のインバランスが起きたことは本ブログでも時々触れてきたと思います。

好む好まざるにかかわらず、失業率が下がり過ぎた、インフレはいまだに沈静化せず、となれば利上げのペースが緩やかになることはあまり期待できません。これはとりもなおさず、ドルに対する需要が高まり、他の通貨は売られやすい傾向が出ます。最近の対ドルの円安も同じことで円が買われる特段の理由がない限り円安傾向は変わりなく、一部専門家の見方のように135円が次の節目になってくるかもしれません。

が、通貨安で悩んでいるのは日本だけではなく、他国はもっとシリアスで1997年のアジア通貨危機の二の舞が起きてもおかしくない、そんなかつての嫌な記憶が蘇る状況も想定しなくてはいけなくなってきました。

ことの発端は3月21日のエジプトにおける対ドルでの14%通貨切り下げと金利の引き上げでした。同国はロシアやウクライナからの小麦の輸入に全面的に頼っていたため、それが直接的な引き金ですが、本質的には2年にわたるコロナで観光収入が激減して国家としての体力が落ちていたことが原因です。同国はIMF支援を依頼するのではないかとみられています。

4月2日の産経には「親中スリランカで非常事態宣言 経済危機」とあります。スリランカもコロナによる観光収入の激減があり外貨準備高が2800億円しかない状況になっており、状況はエジプトより厳しいとみら、やはり、IMFへの支援を要請する見込みです。

仮にアメリカが利上げを継続的かつアグレッシブに行えばコロナで傷んだ新興国の経済は更に窮するのは目に見えており、今後、同様の急激な経済状況の悪化が見られる国がパラパラと出てくると見ています。特に要注意の一つはトルコでエルドアン大統領の独特の経済政策への思想で意図的な通貨安による輸出拡大については成功したように見えましたが、輸入物価がそれを上回る急騰となっており、非常に不安定と言わざるを得ません。

韓国は国内経済は厳しいと思いますが、外貨準備など体力がついたので以前のような危機にはすぐにはならないでしょう。ただ、政治経験ゼロの大統領に変わることで5月以降の政治経済の行方が全く予想できないという懸念はあります。

2年にわたるコロナで世界各国の財政状況は疲弊しており、スリランカのように無計画な減税が引き起こした経済危機とされる問題は何処の国でも似たり寄ったりな状況だろうとみています。そこに持ってきて今回の戦争による影響は通常の資源や食糧の物価高のみならず、世界の流通市場が崩壊しつつある点を市場はまだ十分織り込んでいないとみています。

ロシアとの経済的交流が激減すれば北海道の一部の産業は窮地に陥るし、そのために一部の金融機関には影響が出るという話もあります。日経ビジネスにはロシアとのビジネスが多い地域の地銀関係者の声として「『ロシアとの貿易が完全にストップすれば我々は吹っ飛ぶだろう』と本音を漏らす」とあります。地銀がすっ飛ぶことはないと思いますが、企業ベースでは相当の影響も出るわけで岸田総理もロシアとの厳しい関係を貫くと表明した以上、関連企業への経済支援策は施さねばならないでしょう。

世界経済は強くリンクしています。しかし、このリンクは思った以上に脆く、うまくいく時は素晴らしい成果を生みますが、今回のようにコロナ、戦争というダブルパンチになると体力勝負であることを改めて見せつけられたということでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月4日の記事より転載させていただきました。