バイデン外交政策は成功なのか、試練なのか?

ウクライナ問題に対してバイデン大統領が同盟国と共にロシアへの厳しい経済制裁を科すことでロシアを締め上げています。また、EUがウクライナの民間人遺体発見を受けて制裁強化を検討すると報じられています。

バイデン大統領 MarsYu/iStock

一方、最近チラチラ見られるのが、厳しい経済制裁は果たして本当に正しい政策なのだろうか、という声です。この意見はロシアをどの観点から見るのかによって評価は変わってくるでしょう。対ロシア政府か、ロシア全国民向けか、欧米目線か、であります。

対ロシア政府に的を絞った場合、例えば政権の責任者個人の対外金融資産の凍結は意味があります。しかし、以前香港問題に絡み、アメリカが中国高官にそれを科したものの本人が「対外資産なんて一つもないから何の意味もない」と発言していたのも印象的でした。

では、より汎用性の高い経済制裁で一般市民にまで影響が及ぶ締め上げが良いのか、と言えばこれも一長一短です。必ずしも政権に賛同していない人までも巻き込む短所がある一方、国内世論に反戦や政府批判を醸成させ、ある時期に政府転覆を図りやすくする土台作りになるという期待感はあるでしょう。しかし、経済制裁の結果、イランにしろ、北朝鮮にしろ、アメリカへの反発がより強くなったのが実態です。

最後に欧米目線ですが、これは制裁万歳に近いのですが、私はここにも大きな落とし穴があるとみています。

日本の戦国時代、戦には一定の戦い方がありました。それは相手がとん走するルートを必ず残しておくことです。当時の戦いは農民に突然、槍を持たせるぐらいの急造型の戦力展開も多く、敵を見ただけで逃げ帰るという話も小説ではよく出てきます。戦に燃え、刀を振り回し、先陣を切って敵地に乗り込むというのは全体の中ではごく一部の武勇伝で実際には2:6:2の原理が働いていたのではないか、と思います。

つまり、血気盛んに前に向かう人が2割、前に続いてフォローする戦力が6割、そしていやいやでチャンスがあれば逃げようと思っている人が2割です。

今の欧米のロシア包囲網はロシアの逃げ道を少しずつ絞り上げていくスタイルで四方八方塞がれつつあるように見えます。一般的にはロシアは逃げ道を必死で探すでしょう。現代社会では逃げ道を完全にふさぐのはほとんど無理ではないかと思います。

ロシアとしては今後、国家運営をするのに①戦局の支配、②国内世論のコントロール、③経済的安定の維持に注力するとみています。その中で国内世論と経済的安定についてはある意味同根に近いものがあり、例えば食糧不足となれば大きな反政府体制が生まれるでしょう。そうならないために経済をとにかく維持するのが重要になります。

さて、昨日も申しあげたようにアメリカは否が応でも利上げを推進するため、一部の新興国の経済的危機感がより高まってくるのは目に見えています。そうなると新興国も背に腹は代えられないとなります。私はロシアには個別のディールが相当押し寄せるとみています。例えばパキスタンも経済危機に陥っている国の一つですが、どうもロシアとの取引を求めそうな気配です。インドもそう、エジプトもそうなる気がします。イランとも良好な関係だし、シリアとは言わずと知れています。トルコも要注目です。とすれば南アジア諸国を中心にロシアが関係を築くというシナリオが出てきます。

中印関係も中国は対クアッド包囲網を受けて必ずインドに言い寄ると予想しています。一番の可能性は長年決着のつかない中印国境の策定ではないかとみています。仮に決着すればインドと中国の関係は劇的に改善します。アジアの最貧国の一つで、人口1.6億人のバングラディッシュは日本が今、注目している国ですが、それ以上に中国は既に国家を上げての抱き込み体制を敷いています。

つまり、欧米経済制裁は中国の漁夫の利どころか、中国ロシアに想定外の好展開すら予想可能になってしまいます。これではロシア弱体化どころの話ではありません。

もう一つはハンガリーで議会選挙がこの週末に行われ、オルバン政権が再度、安定多数となりました。ハンガリーはEUに加盟している一方、旧東欧諸国としてロシアには近い歴史的関係があります。オルバン首相は極右に近いのですが、プーチン氏とつながっており、地政学的にもEUの一体感にも足元がそろわない原因の一つとなっています。

では、バイデン氏の外交です。アメリカでは一連のウクライナ問題についてアメリカ国民が政権と一体感を持って支持しているという雰囲気ではない気がしています。アメリカ国内で盛り上がるロシア批判、ウクライナ擁護はあくまでも市民レベルの人道的ボイスに見えるのです。アメリカの外交政策として評価した声には聞こえません。むしろ、今後、より厳しい判断を迫られる事態が次々と生じるかもしれません。

今後、戦後交渉がいつになるかわからないですが、アメリカの秋の中間選挙がさほど遠い時期ではない中、バイデン氏の外交の失点となれば選挙後のレームダック化はアメリカそのものの指導力低下を加速させることになります。同じころ、中国では習近平氏が3期目を決めるのです。

私はこの戦局を厳しい目で予想し始めています。西側諸国は戦争に直接的に手を出していないのにネガティブな影響が出るとすればそれは外交戦略失敗であり、アメリカの威信の低下と評されるのは避けられません。

ここに来てトランプ氏の名前が時々取りざたされますが、私はそれも現実的ではない気がしています。24年の大統領選の時には77歳です。バイデン氏と対して変わりません。アメリカはもっと若くバイタリティがある国家ですが、殻から抜け出せない、そんな具合に見えてならないのです。

私には長い試練、そんな気がします。これを踏まえたうえで日本は外交戦略を考え直さねばならないと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月5日の記事より転載させていただきました。