再エネ共存社会に向けて必要なこと:再エネの出力抑制とは

竹内 純子

DiyanaDimitrova/iStock

再エネの出力抑制についてはかなり理解されておらず、毎年春・秋の気候が穏やかな(=電力使用量が少なくなる)季節の休日などには、出力抑制に対し「モッタイナイ」、「再エネの電気を捨てるな」という批判がSNSに溢れます。そこでちょっと解説を。

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「貯める」「使う」には何が必要か

電気は瞬時瞬時で使う量と作る量をぴったりとあわせる必要があります。今皆さんが使っている電気は、いま発電されてほぼ光の速さでそこに届いています。在庫を(大量には)もてない、「究極の生鮮品」なわけです。ですので、発電量を抑制しないためには、貯めるか、使うかしかありません。

貯めるには蓄電池(数時間からせいぜい数日レベルの時間差)か、水素(数か月程度の時間差もカバー可能)ですが、いずれもまだとてもコストが高い。

使う量を増やすことは有効です。ただ、晴れて電気が余りがちな休日に「電気使って」と言っても家庭では洗濯くらいでしょうか。工場などの大規模ユーザーに、こういう時に電気を使うインセンティブを与える制度(ネガティブ・プライスといって、廃棄物を引き取るのと同様、電気が余っているときに使うとお金がもらえる)を設ける必要があります。先日の需給逼迫では「足りないから電気使わないで」でしたが、今度は「余るから電気使って」であり、それぞれその行動を促す制度設計が必要です。

「余るから電気使って」だと、「明日は電気が余りそうだから休日出勤して」となる方もおられるかもしれませんが、AIやロボット化による自動化がもっと進んで、再生可能エネルギーの電気があまって電気代が安い(あるいはもらえる)時に、自動的に需要が創出されるような、生産計画と電力コスト情報のリンクなどの進歩が期待されます。ただこれはまだ将来の話。

端的に言うと、現在は「余ったら捨てる(抑制する)のが最も経済合理的」なんです。

太陽光や風力のように、変動性があり平均設備稼働率(設備が働く割合)が低い(太陽光は平均で12%くらい)発電設備については、その設備がフルで発電したときにあわせて送電設備や蓄電池(先日の需給ひっ迫で活躍した揚水発電を含む)を作ってしまうと、送電設備や蓄電池の稼働率が低くなってしまいます。

特に、再エネが余った時に水素に貯めるというのは、水素変換器の稼働率が低くなるので、コストが高くなってどうしようもありません。再エネの電気は、電気のまま使うのをベースとして、もし余るタイミングが出たらそれは仕方ないこととして捨てるのが賢い。

例えば野菜も季節的に採れる量が変動しますが、ピークの時にあわせてその野菜の輸送能力を確保してしまえば、オフシーズンにはトラックや運転手が全く働かない無駄な状態になってしまいますよね。

“余ったら捨てる”なんてもったいない、と思われるでしょうが、再エネの場合、別に燃料を使うわけではないので、何かを無駄にしているわけではない訳です。

既に行われている火力発電の抑制

ちなみに、「火力を抑制しろ」という声も多いのですが、優先給電ルールというのがあって、既に火力はギリギリまで出力を絞っています(出力を50%以下にするとされていましたが、それをさらに20%くらいまで引き下げる議論が経産省でされていたはず)。リンク先の【優先給電ルールに基づく対応】をご覧ください。上から順に実施することになっています。

送電線の空き容量が無いので再エネの導入ができない、といった批判に応えて、送れないときには抑制してもらうことを前提に再エネの導入を進めてきたわけですから、抑制を減らすための工夫も徐々に進んではいるものの、こうした時期の抑制は今後も増えていきます。

なお、火力発電はギリギリまで出力を絞っていると書きました。なぜ止めないのか。それは、雲が出て太陽光の出力が急落したときにちゃんとカバーできるようにスタンバイ、クルマで例えるならエンジンをかけた状態でいてもらわねばならないからです(=最低出力運転と言います)。

こうした運転では燃料や人件費などは食いますが、十分に稼ぐことができませんので、火力発電の廃止に拍車をかけているところ(それが、先日の需給ひっ迫の背景の一つである火力発電の余力の減少です)。

ちなみに、原子力も抑制すべきと考えるかたが多いでしょう。ただ、原子力については、火加減を調節する運転は何かトラブルがありそうで怖い、という地元のご意見があることから、日本では(フランスなど諸外国では行っていますが)認められていないのです。

電気が同時同量という制約において、再エネという変動性ある手法を拡大しようと思えば、どんどん再エネ発電設備は導入するが、必要な時には抑制する、という時期があることは仕方のないことだと考えるべきでしょう。

再エネと共存する社会に向けて

再エネと共存する社会というのは、徹底的に省エネルギーを進めた上で、バックアップ電源が必要となる需要ピーク(特に冷暖房など)は極力抑えて、春秋などに需要を創出する社会になるのではないかと思います。

私たちU3イノベーションズ合同会社は八ヶ岳でいま、完全オフグリッドの拠点を設けて実証していますが、こうした実証からいろいろなことが分かってくると期待しています。

ただ当面、年間を通したベース電源(原子力など)や、いざというときの火力(いずれはアンモニア?)、電気を貯める蓄電池や揚水発電所などは必要ですので、それらをどうやって維持するかという議論は必要です。

再エネだけ議論していれば、再エネ大量導入社会はやってこないことをまず認める必要があるでしょう。


編集部より:この記事は、国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏のnote 2022年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。