円がドルに対してほぼ20年ぶりの円安水準となりました。本件についてはこのブログでこのところ何度か取り上げ、今回は「悪い円安」で今までの状態とは違うので125円を抜けると135円、145円といったところまで抜けることもあると指摘させて頂きました。当初その話題を振った時は誰も注目せず、気にしないというトーンのコメントが多勢で「底抜け」するなど誰も信じていなかったと思います。
相場はチャートで読める時と読めない時があります。この違いが分かるようになるには相当の「授業料」を払わないと習得できないし、経験も積み上げる必要があります。私は為替は輸出入事業にかかる為替実務だけで投資対象としてはやっていません。だた、どういうときにチャート上、ブレイクするのかは株式市場で見てきていますのでそこは理解しているつもりです。
今回の円安は何が起きたのか、概念的に言えば円安、というより円の魅力の剥離が猛烈なエネルギーと共に訪れたとみています。そのトリガーは何か、といえば黒田総裁の頑固というほどの強力な金融緩和姿勢です。もう少し大きなピクチャーで見ると岸田総理が着任した当時のドル円は110円ぐらいでそこから円安傾向が明白に出ています。併せて日本の場合、日経平均が岸田氏になってから下落基調にあった点も重要なポイントです。
何が起きているか、といえば私の認識は日本の発信力欠如ではないかと考えます。岸田氏は国内では一定の支持率がありますが、世界の中ではスポットが当たっていません。それは本人の実力とは無縁のところもありますが、東アジアの安定に於いて日本がリーダーシップをとっている様子も見られず、むしろ「鎖国政策」をとったことがいまだにボディブローのように効いているのが実情です。
そこに日銀の強力な金融緩和維持方針がでたため欧米の金融政策との差が明白になります。かつては円は主要通貨として着目を浴び、欧米と歩調を合わせる意味がありました。今回、アメリカの大統領も金融当局も特段、着目しておらず放置プレーなので円は重要度がないということでしょう。故に「底抜け」してしまうのです。
このブログを長年お読みの方はご存知かもしれませんが、私は黒田総裁の政策には当初から違和感を持っていました。いや、黒田氏というより日銀そのものがバブル以降、日本経済を低迷させた主犯説もあり得ると思っています。私はバブルつぶしの三重野元総裁の話をしているのではなく、この20数年の金融緩和後の政策についてしっくりこないのです。
日銀はなぜ、利上げできないのか、今から20年以上前に正論として言われていたことを覚えていますか?それは、バブル崩壊後で病み上がりの企業の財務体質に鞭を打てず、低金利で購入した住宅ローンが行き詰まる個人も放置できない、でありました。つまり、日銀は政府への忖度を含め金融引き締めに極度の恐怖症に陥ったのです。それは利上げという実弾のみならず、長期国債の利回りなどにも触手を伸ばします。
例えば住宅購入の促進とそこから生じるインフレバイアスは金融政策ではなく、国交省と財務省の政策、つまり、償却年数の見直しで激変させることが可能なのですが、それには一切手を付けず、日銀に押し付けたとも言えます。
では企業はどうか、と言えば低金利を超長期間維持することで企業経営者はそれが当たり前になります。するとほとんど金利がない社会ですから消費者向けの価格をとことん下げる原資ができるのです。非正規雇用や外国人労働者で人件費も下がる傾向だったのでデフレ要因を促進する好材料となったわけです。
黒田総裁が着任以来2%物価上昇にこだわるのにそれが達成できないのはいつまでも病人扱いで退院させない病院と同じ現象が起きていると考えています。よって金利が低いことが廻りまわってデフレないし、ディスインフレ要因を作ったわけです。
日本銀行悪玉論はこのところの円安で噴出しはじめた感がありますが、私はずっと昔から変わっていません。悪玉です。黒田氏は財務官や日銀経験が長くて、数値や統計資料、金融のテクニック論に精通しているものの実社会の流れと隔離していないだろうかと感じています。もう一つは大企業の動きを日本経済の羅針盤としたかもしれません。バブルの頃まではそれでもよかったけれど、今はそれではかじ取りを間違えます。
日銀や政府が心しなくはいけないことはたった一つです。アメと共にムチがいるのです。つまり、甘い汁は本当に苦しい時だけにすること、それを中毒のように吸わせ続けると二度と立ち上がれなくなるのに世論からのバッシングが怖くて誰も何もできなかった、それだけの話です。
「打たれ強い日本経済」とは何でしょうか?打たれてもへこたれない強靭な体質作りです。それは金融面ではなく、経営そのものです。経営する父に厳しく育てられても母親である金融が「おまえ、お金、大変なんだろう」といってそっとへそくりから融通しているようなものです。日本の政策担当者は優しすぎます。倒産件数が増えたら従業員も経営者も必死になって自分を磨くことに努力することがようやくわかるでしょう。このまででは日本は本当に沈没してしまいます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月15日の記事より転載させていただきました。