ロシアによるウクライナ侵攻によってもたらされた資源エネルギー、食料価格の高騰に加え、最近の円安により輸入物価が上がり、一部の企業や家計には悪影響を及ぼす恐れが出てきました。
一方で、足元の消費者物価は生鮮食料品をのぞいたコア指数でみると、欧米に比べて低い水準のままですし、今後、携帯電話料金の押し下げ効果もなくなり、食料品価格の上昇が一段落すれば、本年の所定内給与の上昇が1%程度である(春闘の2%上昇は定昇を含む)ため物価の継続的な上昇にはつながらない。民間エコノミストの予想も2023年度の消費者物価は2%に届かない状況です。
政府が今回のインフレ対策を金融政策でなく、補助金等の財政政策で行うのは、物価上昇が一過性のものであるとの認識だからであると考えられます。
インフレ対策において、補助金で価格に調節介入する方法はオーソドックスではありません。
たとえば、第1次オイルショック時には「石油節約運動」として、国民には、日曜ドライブの自粛、高速道路での低速運転、暖房の設定温度調整などを呼びかけ、いわゆる省エネルギーに関する施策を推進し、その結果、日本経済の強靭さをもたらました。本来、価格の効果をそのように生かすべきではないでしょうか。
第2次オイルショック時の物価対策は、金融政策における通貨供給管理の重視に加え、為替レートの低下が物価に及ぼす悪影響を重視し、為替レートの安定が図られました。財政政策面では引締めないし中立的スタンスが保たれ、デフレ効果が現われてからもビルトインスタビライザーを活用。エネルギー価格の高騰に対して、価格介入ではなく価格メカニズムを生かした対策が取られています。
省エネの技術開発では、1978年に策定された「ムーンライト計画」に基づき、エネルギー転換効率の向上、未利用エネルギーの回収・利用技術の開発などが進められた。この結果、日本の産業は世界でも最高水準のエネルギー消費効率を達成しました。
一方、石油以外のエネルギーへの転換も促されました。1973年にスタートした「サンシャイン計画」は、太陽、地熱、石炭、水素エネルギーという石油代替エネルギー技術にスポットを当て、重点的に研究開発を進めるものでした。1980年には新エネルギー総合開発機構も設立され、技術開発が推進されました。
今回の資源エネルギー価格の上昇に対して、困窮者対策や中小零細企業への支援を行うことは当然としても、価格メカニズムによる省エネ効果などを重視するべきではないでしょうか。
2030年までに46%もの炭素排出量の減少を目指すカーボンニュートラルの政策から見た場合、直接価格を抑え込む政策との矛盾点はなかなか説明がつきません。
緊急避難的に、トリガー条項を発動したり、補助金を上乗せすることはやむを得ないとしても、次のステップとして、価格への直接介入から困窮者支援への移行や脱炭素のエネルギー需給構造への転換のために財政資金を使うべきだと考えます。
現行の補助制度では、毎月2500億円もの資金が必要になります。この金額をカーボンニュートラルの推進に使うことが賢い支出(ワイズ・スペンディング)につながります。
4月13日にこのような議論を財務金融委員会で行いましたが、質問の準備の段階で、経済政策を担当する内閣府に物価担当の部局が無いことがわかりました。
1973年7月1日、経済企画庁に物価局が新設されて以来、官庁エコノミストが物価の分析をし経済政策に活かしてきましたが、今は消費者庁が物価を担当しています。
デフレ経済も物価の観点から深く分析、研究出来てこなかった理由がそこにあるとしたら残念なことです。省庁再編によってできた内閣府は間口が大きすぎます。官庁エコノミストを輩出した経済企画庁の復活が必要ではないかとも思います。
編集部より:このブログは衆議院議員、岸本周平氏(和歌山1区、国民民主党)の公式ブログ、2022年4月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、岸本氏のブログをご覧ください。