もはや「長生き」はネガティブな言葉になった

日本のみならず、世界は長寿化を続け、平均寿命は伸び続けている。とりわけ高齢化を最も推し進めた最大のファクターは「乳児死亡率」が極端に減少したことだ。「七五三」はめでたい行事であるが、かつてはその年齢まで生存した事実をお祝いするくらいに、幼児は命を落としていた。現代社会では、もはや本来の意味合いは薄れたたと言っていい。つまりほとんどの人は死ななくなり、結果長生きになったのだ。

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理由はどうあれ、我々現代人は「100歳まで生きる」という前提で人生戦略を練る必要が生まれた。そして「長生き」は本当にめでたいことか?という意味を問われる局面に来ている。

本稿は筆者の完全なる独断と偏見による意見である。

「長生き」は自己投資をジャマする

人生100年生きることを想定すると、悪いことが起きると思っている。その1つは「若い貴重な時期を老後の備え」に消費してしまいかねないということだ。若い年代…20代の有効なお金の使い道をあげるとすれば、経験とスキルアップなどの「自己投資」に尽きると思っている。だが長生きを考慮することで、自己投資の代わりに「老後に備えた蓄財」にまわされてしまいかねないリスクが生まれてしまう。

20代の若い感受性と吸収力でこそ、得られるものは少なくない。だから若い時期は自己投資をするべきだ。筆者は20代で英語と会計学、海外への大学留学や東京の会社で働く経験をした。こうした経験は、その気になれば今の年齢から挑戦できなくはない。勉強して行動すれば、今からでも学べないことなど何もないと思っている。しかし、人格に影響を与えるほどの大きな変化は、圧倒的に20代の若い時期のほうが効果が高いと認めざるをえない。

たとえば、海外の大学に留学する経験についていえば、20代で行っておけば現地の文化や考え方、思考などはとても強い影響を受ける。筆者の知人は16歳でアメリカに渡り、30歳で日本に戻ってきたが彼のパーソナリティはまさしく現地のアメリカ人そのものである。これは若い時期に渡米したことが大きい。だが、同じことは40代で渡米した人物には起きにくくなる。人生で色々と経験を経て、確固たる自我を確立した後では受ける影響度は小さく歩留まりするためだ。また、シンプルに若い時期にスキルを取得した方が、その後の人生で長く使えるという理由もある。

こうした理由から、若い時期は少々の蓄財より、自己投資にまわすべきだと考えている。自己投資を経てスキルをつければ、蓄財も自然に促進される。本来は「自己投資→蓄財」という流れが望ましいと思うが、長生きはそれを阻害しかねないのだ。

「長生き」は人生の濃度を薄める

人生は長ければ良いというものではない。100年生きる人と、60年生きる人とでは実に1.67倍も時間の長さに差が生じる。だが、必ずしも前者がよい人生になる保証はない。なぜなら、QOLを決する要素の一つに「人生の濃度」があるからである。長生きをすることで、人生が長期化すると必然的に時間濃度は薄まる。

あらゆる活動において、濃度が薄まるとQOLは減少すると筆者は考えている。たとえば子供時代の夏休み。40日間を毎日遊ぶことに費やせば、最後の方は飽きてくる。子供の底なしの体力、ビビッドな感受性を持ってしても、長すぎる余暇時間は退屈を招くのだ。

人生は永遠とも思えるような冗長なものより、小忙しくなるくらいでよりクリエイティブになる。中学生になれば3年後の高校受験を想定するだろうし、大学入学後は卒業後の就活を意識する。社会人になれば、60歳頃の定年めがけてキャリア設計を意識して動く。しかし、問題はその後だ。60歳前後の定年後、さらにそこから倍近くの余暇時間と想像するなら、胸がときめく人は多くはないだろう。大抵の場合は、資産の食いつぶしを想像して恐れおののき、恐怖心からたまらずパートに出ている人もいるのではないだろうか。人によっては、20代から老後の蓄えを始める人も出てくる。こうした要素を俯瞰した上で、長生きは本当に良いのだろうか?とてもそうは思えない。

我々は老後をどう生きるか?

我々は医療の進歩で「老後をどう生きるか?」を否応なしに考えさせられる世界のただ中にいる。

あらゆる情報が出てくる、インターネット空間にも老後の豊かな生き方を積極的に指南する人は多くない。つまりほとんどの人にとっては、自分の老後は完全に未知のフロンティアとなる。ただ食事を喉の先に通すだけならなんとかなるかもしれない。真の問題は、そのような生活に充実感を付帯させることができるかどうかにあるだろう。

筆者個人的には「制作意欲」が一つの鍵だと考えている。歴史の巨匠は晩年まで、音楽や美術、執筆など精力的に芸術作品の制作に励んだ。現代社会にも、老後も尚精力的にメディアに専門家として活躍する姿を見せる人もいる。創作活動の多くは、年をとってもできる上に過去の経験やスキルがそのまま活用できる。それを実践する者は、生きる目標を持ち学習する理由があって楽しそうに見える。唯一にして絶対的なる課題は、現役世代がこうした年代を迎えた時に、市場ニーズのある制作物を出せるかどうか?にあるだろう。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。