勤め先を変えることは転職ではない

働き方改革においては、会社員の所得の源泉は多様化する。兼職が広く行われるようになれば、複数の会社に属する人だけではなく、会社員としての所得以外の収入を得る人も出てくるが、さて、そのような人は、何をもって、第一義的に自分の職業とするのか。

全所得のうち比重が最大のものをもって、自分の職業というのか。それとも、働くことに投じている全時間のうち比重が最大のものをもって、あるいは、知的活動の投入量は働く時間と関係ないから、むしろ、時間よりも知的活動量の比重のほうをもって、更には、人間にとって最も大切なことは働くことから得る感興や喜びだから、最も生きがいを感じることをもって、自分の職業とすべきであろうか。

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生きがいといってしまえば、もはや、所得の源泉は関係ない。働き方改革においては、働く時間、即ち、収入を得るために投じる時間の意味は大きく変わる。これまでは、誰においても、時間を一定にして、生産性の向上により所得の上昇を目指してきたのだが、これからは、生き方が多様化していき、所得を一定にして、生産性の向上により働く時間を短くしようとする人も出てくる。

そもそも、どの会社員も、家族の一員としての自分、地域社会の一員として活動する自分、学校の同窓会の一員としての自分、馴染みの居酒屋の常連客の一員である自分、趣味を同じくする同好会の一員としての自分、世界市民社会の一員として環境問題を考える自分など、多様な自分をもっている。

所得を得るための会社員としての活動時間を最小化して、例えば、多くの時間を自分の生きがいの登山に投じる人は、もはや、会社員というよりも、職業的な登山家なのではないか。登山家としての技能が熟練により高度化していき、山岳ガイドの域に容易に達すれば、収入を得るための活動領域を変更して、山岳ガイドになることも自然な展開である。これが本当の転職である。

会社員になることは就職ではなく、勤め先を変えることは転職ではない。真の転職は、会社員を辞めることであり、真の就職は、生きがいと所得の源泉を一致させることである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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