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「いま思うと、俺は特許を取っておけば良かった。億万長者になっていた」
半分本気で言ったおじさん。顔は知らなくとも、この人が発明したものは世界でよく知られている。多分、人類の近代史で一番ヒトの血を吸ってきた武器だ。
ミハエル・カラシニコフ氏（右）
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AK-47、彼の名前でも呼ばれる世界屈指の名銃を設計、作り上げた天才が、このミハエル・カラシニコフだ。
ミハイルはロシアの軍人。コサックの家庭で18人兄弟の1人として生まれた。貧困などの理由で次々に兄弟姉妹が死に、生き残ったのは8人。本人曰く、自分が何番目だったか最後まで分からなかった。
第一次五ケ年計画の混乱の中で、生き延びるために、国の印章を偽造、自衛のために持っていた拳銃の分解組み立てなどで、銃器の発明設計の才能を育んだ。
現在プーチン・ロシア軍の「残虐な狂気」が迫るウクライナ西部でにて1938年赤軍に入隊。機械整備が得意な戦車兵になった。その3年後のナチスとの戦いで、戦車長として活躍。だが砲弾により負傷、療養中に数々の実体験を聞き、ロシア軍には故障しなく良質で扱い易い短機関銃が必要だと思い立った。彼と一緒に戦場にいた戦友が、自分の銃の弾詰まりで敵に撃たれて死にそうになったのが１つの切っ掛けとも聞いた。
その時、カラシニコフは無名の軍曹。ロシア軍には他に有名な銃器設計家がいた。銃器設計家としての出発点は不利だったが、結果が全て。後に彼の妻になる技師の女性の協力もあり、数々の競技会で、彼の新型銃の素晴らしさが証明されていった。
AKは彼の名前、47年の正式採用、生産開始のためAK-47と名付けられた新型突撃銃が世に登場した。ロシア兵士の中では非常に好評だった。
それまでの突撃銃と比べて設計が簡単、火力が強く、なかなか壊れない。ソ連の自然環境に合わせて、極寒でも大丈夫だ。
筆者は現実の平場でヒトを殺している小火器の取材を、世界中でやった。パキスタン、アフリカ、欧州、ロシアなどだ。モザンビークではどのような形でAK-47系が安値で売られて、ヒトを殺しているかという衝撃の事実を知った。
掘り起こしたAK-47を試射する筆者
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訪問した南アフリカ警察が実際に見せてくれたことだが、地中に埋められて10数年経過したAK-47を掘り起こし、なにをするかと思ったら、錆付いた銃身から泥を落とし、新しい銃弾を入れて発砲した。なんの問題もなくフルオート連射ができた。
筆者も撃ってみた。フルへのセレクターも指1つで簡単。新品と全く同じ感触だった。
べトナム戦争の時の有名なエピソードがある。米軍と戦うベトコンが使う小火器の代表はやはりAK-47（と派生型）だった。民族自立が中心の戦いだったが、同時に民主主義と共産主義の代理戦争といえる側面もあった。中・ソが北ベトナムを支援、特に中国からAK多数が流れていたと思われた。
一方の米軍が使う代表格はM16（と派生型）。筆者の友人の米兵多数が「精密機械」という。筆者も、AKと共に短時間で分解して元に戻す訓練を受けたことがあるのでよく分かる。１つ１つの部品がきっちり填まるようになっている。
現在のウクライナのような泥濘地、雪解けが戦地にはある。中東は砂嵐がよくある。1979年米陸軍特殊部隊デルタフォースによるイラン大使館人質救出作戦が失敗した。その理由の1つも、ヘリを墜落させるくらいの砂だ。容赦なくローターや銃器の中に入り込み、作動不良、弾詰まりを起こす。ベトナムでは湿地帯、ジャングル、河川や沼地もある。そんな環境でM16は真剣勝負の時、弾が出なくなることがある。想像したけでも、背筋が寒くなる。
一方のAK-47は、やはり分解すると良く分かる。1つ1つの部品がぴったり嵌らない隙間が少しある。これがミソだ。砂、泥、ゴミいろいろなものが入り込んでも、その隙間のお陰でジャムしにくい。だから長期間土中に埋まって少々錆び付いても、弾が出る。
そのため、ベトナムで米兵は敵兵から奪ったAK-47を米軍正式銃M16の代わりに使ったという話が残っている。筆者の友人の元海兵隊員は、確かにその種のことが実際にあったと言った。
筆者が現在愛用している2種のハンドガン。1つはグロック、もう1つはシグサワーだ。AK-47とM16とは生産国の部分で全く違うが、基本的に分解・組み立てすると、相違点・類似点がよく分かる。グロックは隙間があり、シグはぴっしり嵌る。さすがFBIやシークレットサービスの友人から勧められただけあり、シグが弾詰まりを起こし易いとは聞かない。その一方で元CIA友人から聞いたことだが、グロックが途上国のテロリストなど、自然が厳しく劣悪環境で育っている人間に愛用されていることが理解できる。
永遠のライバルと言われて、大分以前にAK-47 とM16の比較テストが行われたことがある。コスパ、弾詰まりのしにくさ、少ない部品数、整備のし易さはAK47だ。一方の携行性、命中性、射程距離、軽重量などはM16 と、結果は甲乙つけ難いというものだった記憶がある。
特殊セラミック板を追加した防弾チョッキ
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弾の口径が大きいこともあり、貫通力はAK-47が上だ。筆者が危ない取材で防弾チョッキを選んだ時、「もしAKでも耐えられるようにするなら、さらに胸の場所に特殊セラミック板を1枚足せ」と言われた記憶がある。
もう1つ重要なことは制止力だ。実際の戦闘の接近戦では、襲い掛かってくる敵を止める方法が重要になる。
米軍仲間と銃器の話で、筆者は「自分はハンドガンは9ミリが好きで、どんぐり頭の重い45口径はスマートでないし嫌いだ」と言った時「実際に血みどろで戦ったことないお前は、分からない、45口径もAK-47と同じ、襲い掛かる敵を止める力が凄い。実戦には必要だ」と、馬鹿にされた記憶がある。
その時、諜報界の友人から聞いたことの引用で、効果があった反論。口径が小さいM16はAKと違って敵をあまり殺さない。殺さないのが人道的に良いとか甘い話ではない。負傷者を出すことによって、それを救助する敵兵2人を計算すると、敵を殺す時と比較して勢力を削ぐことができる。
ただこの論も、「いやロシア軍（多分中国軍も）は、自軍の負傷者を米海兵隊ほど助けないかも」という反論を受けた。
今回のウクライナ攻撃と似たようなロシアの蛮行。1979年アフガン侵攻では、CIAが水面下で大きな役割を果たして、ソ連軍と戦うイスラム教徒ムジャヒデイン・ゲリラを「敵の敵は味方」で、米国が支援した。今回も前線で活躍している地対空ステインガ―ミサイルと共に提供したのは、AK-47系突撃銃だ。米国関与が明るみに出ないように、わざわざ武器商人から中古を買って与えた。M16系だと米の支援がばれるからだ。当時、実際に供与したCIA工作員から直接聞いた。このように、AK-47系は東側を代表すると共に、ゲリラの代名詞のような側面もあった。
現在のウクライナ危機。元KGBの友人から聞いた。プーチン軍が使っている小火器は相変わらずのAK-47の派生型、一方のウクライナは数年前までAK-47系がかなりあったが、現在はNATOや米軍のAR（M16）系に移行している。ロシア離れの1つの象徴といわれる。
これまでウクライナ側の防衛兵器としては、地対空ミサイルのステインガ―や、かなり効果的で生産が追い付かないとも言われる対戦車ミサイルのジャベリン、地対空ミサイルのS300やブクM1などが、メデイアの注目を浴びて来た。
しかし、ロシア軍が使う武器として、一度に大量の死傷者を出すミサイル、爆弾、りゅう弾砲など以外に、拷問したウクライナ市民を後ろ手に縛り、後頭部を撃ち抜いたり、若い女性を強姦した後、無慈悲に殺すのは、これらミハイル・カラシ二コフが基本設計をしたAK-47の派生型, AKM, AK-74などの各種の改良型突撃銃が多いといえる。派生型は数と種類が多いため、一般的にはAKとかAK-47と総称されることが多い。
カラシニコフ自身も言っていたが、設計が簡単で部品も少ない。コピー商品を作るのが簡単だ。いまなら3Dプリンター利用で誰にでも作れると言える。筆者も取材したパキスタンのダッカ周辺の武器市場などでも、沢山のコピー商品が製造され売られていた。ブルガリア、ルーマニアなど東欧の国、中国の人民解放軍なども、カラシニコフ個人の許可などは当然無視、ソ連の製造許可なども関係なく、数百万丁も違法に作ってきたと言われる。
一説によると、地球上に広まっている総数は1億丁以上といわれる。ギネスブックにも「世界で最も多く使われた軍用銃」として登録されている。
多分、人類の近代史で現実的に一番ヒトを殺している武器とも言えそうだ。
筆者は原爆の元になる「プルトニウム」を発明したシーボーグ博士の長時間インタビューをしたことがある。彼はナガサキを筆頭に核兵器の悲惨さを認めつつ、「発明したものは元に戻せない」と言った（ヒロシマはプルト二ウムではなくウラン型）。
銃犯罪が本当によく発生し社会病理と言われる米国。銃規制を推し進める人間がいる一方、「銃そのものには責任はない、憎むべきは犯罪と犯罪者だ」という人間もいる。
カラシニコフに聞きそびれて、いま頃後悔している。機関銃そのものは、AK-47以前から存在していた。発明者としての彼は、今のウクライナで起きていることをみて、なにを言うのだろうか。
