ぶぶ漬け戦略になってしまった吉野家幹部不適切発言

西村 健

「生娘をシャブ漬け」って・・・・物事にはたとえ方があるだろうと思ったのは私だけではないはずだ。

牛丼チェーンの「吉野家」は、ネットで話題になっていた常務取締役企画本部長の不適切発言を謝罪。早稲田大学の講座にて、女性に向けたマーケティング施策を「生娘をシャブ漬け戦略」と表現したのが理由である。

女性蔑視発言でもあることはもちろんであるが、それよりも根源にある消費者との関係を「中毒にさせる相手」と捉えていることに対して、吉野屋の肉の中毒になっている程の愛好者の筆者としてもとても悲しくなった。

kokkai/iStock

中毒になってもらいたい??

「田舎から出てきた女の子を無垢・生娘のうちに牛丼中毒にする」との発言、学外の学修者へのリカレント教育である「デジタル時代のマーケティング総合講座」での出来事であったそうだ。

性差別や誤ったジェンダー意識という点から批判を受けているのは当然だろう。385,000円という高額の授業料を払って、こんな発言を何度も聞かされるのはたまったものではない。

<参考1:講義の概要>

  • 「産業界/学術界の第一線で活躍する著名な講師陣から学びます。各領域の基本と先端トレンドを効果的に習得するとともに、マーケターとして成長するための指針を獲得します。」
  • 「デジタル時代のマーケターが身に付けるべき事項を体系的かつ包括的に学びます。オーソドックスなマーケティング理論とデジタルを利用した先端的な方法論、オフラインとオンライン、伝統と革新、理論と実践などの、それぞれを包含する総合的な学びが特徴です。

【出典】講義概要より

「第一線で活躍する著名な」講師であっても、さすがに「リカレントするべき」と思ったことだろう。人権団体に所属していた筆者も軽口をたたき他人の「地雷」を踏んでしまうことがよくあるので身につまされるが、人権意識はアップデートとしていかなければならないというのが現代のビジネスマナーだということだろう。

さて、今回の問題、筆者は消費者視点で問題を考えてみたい。なぜなら、この発言の裏に深刻な潜在意識を感じるからだ。

どういうことか。

ファンになってもらいたい、好んで食べてもらいたいというお客様への期待ならまだわかる。しかし、今回は「中毒になってもらいたい」という潜在的に思っていたであろう期待を言葉で示してしまった。中毒とは「頼る気持ちが強くなって、自分の意志ではやめられない状態に陥ってしまうこと」と定義される。

吉野家さんの理念とは全然かけ離れている!

<参考2:経営理念>

【出典】吉野家HPより

吉野屋さんの経営理念を見てみると・・・

企業は「社会のニーズを満たすため」、「人類の幸せに貢献するため」に存在しているといえます。吉野家ホールディングスグループは、国や地域を越えた世界中の人々のために企業活動を行います。世界中の人々とはお客様であり、同じ志のもとに集う従業員であり、社会のすべての方々です。「人」のためを考え、「人」を大切にし、「人」に必要とされたい。
お客様へお値打ち感のある商品をお届けしたい。
従業員とはやりがいのある充実した人生を共に歩みたい。
社会との共生を積極的に図り、地球環境を守りたい。
そんな吉野家ホールディングスグループでありたい。
『For the People』にはそのような思いが込められています。

と掲げている。愛好者としても、「納得」の言葉が並んでいる。

図にまとめると以下のようになる、

【出典】吉野家HPを参考に筆者作成

しかし、だ。「人」のためを考え、「人」を大切にし、「人」に必要とされたいという会社がお客様を「中毒」にしたいと(少しでも・無意識にでも)考えている人が幹部にいるというのはどうなのだろうか。しかも、HPでは、「お客様」への約束として「オリジナリティのある商品とサービスで、一人でも多くのお客様に満足を提供し続けます。」と明言している。

  • 「満足」を提供し続け、顧客と適度に付き合う適切な関係を継続したいのか?
  • 「満足」を提供し続け、顧客が依存する気持ちが強くなって、自分の意志ではやめられない状態になってもらいたいのか?

ではかなり違う。

今すぐ経営理念に照らして釈明を

今回、吉野家は「当該役員が講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題 の観点からも到底許容できるものではありません」「吉野家はお客様にご満足いただける商品・サービスを追求し続けております」と主張、「当社は今後一層コンプライアンス遵守の徹底に取り組むべく、コンプライアンス教育の見直しを図り、すべてのステークホルダーの皆様に対し、高い倫理観に基づく行動をお約束します。」とのお詫びを発表するに至った。

しかし、消費者を「中毒にさせる相手」とみている点を否定するなり、今すぐ釈明することが必要だろう。これまで築き上げた「ブランド」が毀損してしまう。

必要なのは「高い倫理観に基づく行動」よりも「顧客を中毒にする戦略を無意識的にせよ共有していないことの証明」であり、「幹部がそう思って発言してしまった原因分析」ではないだろうか。

今回結果的に、利用者への「ぶぶ漬け」戦略(「早くお帰りください」という意味)になってしまった。消費者との「関係再構築」を吉野家に期待したい。