ゼロコロナ政策の中国にサプライズはないのか?

イアンブレマー氏が2022年のリスクの一位に中国のゼロコロナ政策を上げています。私はウクライナ戦争ほどではないにしても大きな衝撃を与えるような気がしてきました。ブレマー氏の先見性には脱帽です。(ただ、ブレマー氏でも戦争は予見しなかったようですが。)

習近平氏 Vintage China Flag

ゼロコロナ対策。中国がここまでこだわる理由は何でしょうか?今の中国となった1949年以降、中国の基本的スタンスは国民の完全コントロールでありました。つまり、誰も異論をはさませないのです。文化大革命の際には、紅衛兵が前線に立ち、徹底的な資本主義潰しを行います。あるいは1989年の天安門事件でも中国政府、共産党は一切の妥協を許しません。トランプ氏と貿易戦争に突入した際も「目には目を、歯には歯を」という政策で「やったらやり返す」を繰り返してきました。その間、中国は「中国からは何もしてない。トランプがそうしたからその報復をするまでだ」というスタンスであり、中国に干渉するな、というメッセージを繰り返し発しています。

今回のゼロコロナ対策は2020年初頭に中国発祥説が飛び交う中、厳しい防疫を実施しました。これは政府のチカラが圧倒し、民意は全く眼中になく、政府が決めたことのみ100%正しく、民はそれについていけばよいという思想であるからでしょう。当初はそのゼロコロナ対策は機能し、「発祥地かもしれない中国が一番先に回復かよ」という怨嗟の声もあったわけです。

誰も予想しなかったのはこのコロナがこれほどまでに世界にまん延し、何度も変異し、そのたびに世界各国の防疫政策は揺れに揺れ、後追い対策に悲鳴を上げたことでしょう。つい、数か月前までは「どうだ、ゼロコロナ対策の中国は世界に勝っている」と自慢げだった中国首脳の顔つきが目に浮かぶようです。

今、中国経済はひん死の重症になりかかっています。1-3月のGDPは4.8%とまずまずの数値でしたが、仮にこれが捏造だろうが、盛っていようが4-6月になれば大きく悪化するのは目に見えています。既に3月の時点で経済指数に下落の兆候があったわけですから、今後、習近平氏がどこまでゼロコロナに固執するか次第ですが、3%台の上か下かあたりをさまよう感じではないかと思います。(5-6月の政府対策次第ですが。)

一般に国家の経済成長が逞しい過程において「中進国の罠」のような足踏み状態になりやすいもので、急速な経済低迷は失速現象が起きやすくなります。もう一つは共産主義体制において、ソ連も過去の中国も北朝鮮も初期の成長度は非常に高く、時として資本主義社会を凌駕します。好例が1930年代の大不況の際、計画経済のソ連は影響度が小さく、西側経済がボロボロになる中、我が道を行く、という感じだったのです。北朝鮮と韓国の経済成長も今では信じられないと思いますが、朝鮮戦争後の初期は北朝鮮の方が上でした。

ところが一定のところまで行くと急速に伸び悩みます。理由は様々あるでしょう。多くは政治腐敗による貧富の格差を象徴的な例に挙げます。ただ、それが経済成長を止めたわけではありません。私は経済の仕組みが共産主義、資本主義の議論ではなく、自由から育まれる競争原理こそが次の高い水準への飛躍につながるのに、それが出来なかったのだ、とみています。

中国の場合、ITやEC企業などが大きく伸びたのはご承知のとおりですが、習近平氏はその芽をつぶしてしまいました。「咲いた花を枯らす政策」を正々堂々と行ったのです。これは中国が世界経済の脅威になりかかっていた中で、西側諸国にとって願ってもない政策だったともいえるのです。

中国のゼロコロナ対策とは中国の根本政策である画一のブレない社会を作り上げることに他なりません。14億の民を全て中央コンピューター制御し、行動を監視し、一定以上の自由を制するのです。人民は時々の与えられた自由空間だけを動き回ることだけで狭い世界の優越感に浸らなくてはいけません。では人々はそれに反発しないのでしょうか?1949年の建国以来、強面の政府に逆らうのはよほどの賢者かよほどの無知でしかない、と諦めの境地にいるのが関の山でしょう。

なぜ、香港や台湾は経済成長を遂げたのでしょうか?同じ、中国人です。あるいはバンクーバーで見かける中国人、それは香港も台湾も本土人も全てそうですが、自らが自らの意思で事業を行い、成功者は成功するし、失敗するものは撤退する中で社会がしっかり基盤づくりをしています。

SNSが普及した今、政府が制御を無謀に押し付けることでかつて以上に失敗しやすい社会になったといえます。中国社会は復活できるのか、ゼロコロナ政策に固執し、普段、羊のようにおとなしい民が本当に習氏の3期目を心から良いと思っているのか、もしかすると2022年のもう一つの大きなテーマにならないとは言えない気がしています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月20日の記事より転載させていただきました。