ペルー共和国議会から辞任勧告を受けるカスティージョ大統領

ペドロ・カスティージョ大統領
RPP NOTICIASより

政権発足から9か月で30人の閣僚が入れ替わった

ペルーのペドロ・カスティージョ大統領の政権は終焉を迎えているようだ。4月7日の議会で大統領に辞任を勧告する動議が賛成61票、反対43票、棄権1票で可決した。この可決によってカスティージョ大統領が辞任する必要はないが、これまで過半数の議席獲得に連携して来た他政党が同大統領から離れつつあるのは事実だ。

今回の勧告で今後の政権運営にさらなる困難が伴うことは必至である。カスティージョ大統領の政権が発足してから9か月しか経過していないのに既に30人の閣僚が入れ替わっているとこと。首相は4人交代している。これは尋常の沙汰ではない。このような状態で今後も政権を運営しようとすること自体が無謀であり、国の成長の阻害になることは明白である。

共産主義者の大統領を受け入れることができないペルー

カスティージョ大統領が残り4年半の任期満了まで政権を運営して行くことはほぼ不可能だという理由の根底にあるのは、長年右派が政権を運営して来たペルーで共産主義者が大統領に成るということ自体が多くの議員や上流階級と中流階級の間で受け入れることができないのである。

カスティージョ氏が大統領に成れたのはウラジミル・セロン氏が候補者として指名したからだ。セロン氏は政党「ペルーの自由」の党首で共産主義者でレーニン崇拝者だ。キューバのラウル兄弟やベネズエラのチャベス前大統領を賞賛している人物で、彼自身が大統領に成ることを望んでいたが、彼は汚職などの前科があって立候補できなかった。

そこで彼の操り人形としてこれまで中央の政治から恩恵を受けていない下層階級のカスティージョ氏を選んだのである。カスティージョ氏は教員労働組合のリーダーで職員の給与の昇給や待遇改善を要求して長期間ストを敢行していたということでマスコミなどを通して全国的にも知名度を高めていた。そこで下層階級を選挙地盤にして支持率を高めて行ったのである。

カスティージョ氏は労働組合で活躍はしたが、政治経験はまったくない。しかも彼の背後には共産主義者のセロン氏がいるということで大統領に就任早々から野党議員は彼の政権打倒を目指してルーペで見るかのようにあら探しをしていくのである。

しかも、最初の内閣の首相にはセロン氏の要望もあって、ギド・ベリード氏を首相に就任させた。ところが、べリード氏はペルーで長年テロ組織として活動したセンデロ・ルミノソをそれまで讃えていた人物であった。そのような人物が首相になったものだから野党議員をそれを餌にカスティージョ政権の打倒により拍車がかかった。

しかも、べリード氏は国家の基幹産業の国営化を大統領の了解を得ず口にするようにもなっていた。べリード氏の首相としての行き過ぎた発言などに火がついて議会運営が困難になり、野党を宥めるべく大統領は彼を首相の任から解任した。それ以後も首相には3人が入れ替わった。

また官房長官だったブルーノ・パチェコ氏が大統領の親友の2人の息子を大佐から将軍に昇格させたことが明らかにされた。しかもパチェコ氏の官房室の浴室から2万ドルが見つかるというスキャンダルも発生。

更に、長年ボリビアと紛争中のボリビアが海への出口を要求している件でカスティーリョ大統領はそれを国民投票で決めたいと表明したことがまた野党議員を苛立たせた。そのような姿勢を大統領が表明するようになったのはボリビアのエボ・モラレス元大統領がカスティージョ氏にこれまで補佐役的な立場から手助けして来たことと関係があるように思われる。

カスティージョ大統領の政権運営に76%の住民が反対表明

行き当たりばったりのカスティージョ大統領の政権に国民の間でも不満が募るようになっている。

4月10日付「RPP」が報じているように、彼の政権運営に76%の住民が反対を表明するようになっていることだ。ひと月前は66%であった。特に首都リマでは88%の住民が反対を表明している。唯一、今も彼を支持している住民は僅か19%しかいない。

カスティージョ氏が勝利した時点から彼の政権運営に協力の手を差し伸べた政党「新しいペルー」の党首ベロニカ・メンドーザ氏は財務相に大学教授ペドロ・フランケ氏を入閣させて彼が閣僚でいる限りは基幹産業の国営化はしないという確約を企業に与えていた。

また2人目の首相に就任したミルタ・バスケス氏を首相に起用させもした。しかし、この二人は「自由のペルー」からの圧力に耐えかねて現内閣にはもういない。そして今、「新しいペルー」はカスティージョ大統領から次第に離れつつある。ということから現在も彼に支持を表明しているのは「自由のペルー」とあと2党しか存在しかくなっているのである。

即ち、カスティージョ大統領は孤立して行くことを余儀なくさせられそうな状態になりつるある。

このような状況の中では次にまたインピーチメントの動議が議会で承認されるようになると恐らくそれを乗り切ることはほぼ不可能に近いであろう。

その前に野党議員は冒頭で触れたように彼に辞任を薦めているのである。