仏大統領選:ルペン勝利確率は一割以下だがそれでも心配

本日はフランス大統領選挙の第2回投票である。4月10日に行われた第1回投票は、12人の候補で争われた。今回の投票は、その上位二人であるエマニュエル・マクロン現大統領と次点だったマリーヌ・ルペンでの決選投票だ。

マクロン氏とルペン氏 Wikipediaより

世論調査では、55%以上がマクロンと答えており、ルペン勝利の可能性は1割もないと思う。ただし、本当にルペン候補が勝ってNATO脱退などしたら、ウクライナ紛争でのウクライナ善戦でプーチンに対してアメリカとヨーロッパが得た外交的勝利など吹っ飛んでしまう。また、これまで西欧では、アウトローとして扱われてきた極右が政治的市民権を得ると言うことでも衝撃的だ。

各候補者の公約

マクロンの高圧的な態度は、かなり極端で、反感も強まっており、ルペンは困るからマクロンという層が本当に投票所へ行ってくれるか不安もある。

前回の2017年の選挙では同じ顔ぶれでダブルスコアだったので、ルペンが大健闘だし、たとえば、40%以上の得票ならキワモノとしてマスコミも扱えなくなるのではないか。

この選挙の詳細な解説は、メルマガの『八幡和郎のFacebookでは書けない話』とか、YouTubeでは松田政策研究所ch。特番『既成政党敗北!フランス大統領選挙マクロン対ルペン、ウクライナ危機対応にも影響か!?』、でしたが、この記事ではそのまとめをしておこう。

第1回投票詳細

ここで、12人の候補者で争われた大統領選挙の第1回投票(4月10日)を振り返ると、保守・革新いずれもの伝統的大政党が惨敗したのも衝撃的だった。

最終的な結果は以下の通り。数字は順位、得票%、前回の同じ党派候補者得票率である。

マクロンの一期目の評価とルペンの「脱悪魔化」

一方、マクロン政権一期目の社会改革は自動車への負担増大に端を発した「黄色いベスト運動」も大過なく乗り切り、庶民の反発は受けつつも、それなりに進展し経済成長にも成功した。コロナ危機もワクチン事実上強制という賭けが成功して過度の行動規制を避けつつ医療崩壊を回避して高く評価された。外交はドイツや日本との良い関係、トランプやプーチンとは対立しつつも対話維持、中国や英国には毅然と対処して高く評価された。

ただ、米国系企業でもGAFAには厳しいが、金融資本との良すぎる関係は眉唾物だし、さらには、マッキンゼーなどに巨額の公費が流れ、それが自分の政治運動に流用されているとの疑惑も問題になっている。

一方、ルペンは「脱悪魔化」に反対し「日本のような厳しい移民制限を」と訴えるゼムールが極右新党を立ち上げて躍進し、共和党が女性のヴァレリー・ペクレス(日本語ができる)を立てて、一時は決選投票でマクロンに勝てるという世論調査もあってブームを引き起こしたが、ゼムールは失言が多く、ペクレスは上流階級的過ぎて庶民を引きつけられずともに失速した。

もはや政策で見る限り、ルペンの政策は、付加価値税の引き下げあたりは相変わらずポピュリスト的だが、たとえば、本当にEUを脱退してしまった英国のジョンソンを普通の保守でルペンを極右というのは、国際比較としては適切でなくなってきているのかもしれない。ただ、相変わらず、極右扱いは続いており、それが最終版でのプチ失速に繋がった。

ウクライナ情勢との関係

もともと、フランスは、ロシアと良い関係で、英米と一線を画しているのだが、マクロンは英米にやや近い路線を取った。それに対して、ルペンはかつてプーチンとの良い関係を売り物にしていたが、今回はウクライナ侵攻をまず強く批判し、しかし、エネルギーについての制裁には反対するという方針で賢明だった。

大統領選挙の討論会での両者のやりとりは以下の通り。

マクロン:ロシアが致命的な道を進んでいる。ウクライナに兵器を提供し難民を受け入れることが、フランスと欧州の役割だ。

ル・ペン:ウクライナへの兵器供与はフランスを「共戦国」にする恐れがある。ウクライナ支援と難民受け入れの政策は支持するが、エネルギー輸入は続けるべき。

マクロン:ル・ペンは2014年のクリミア併合を承認した最初の政治家の1人。ロシアの銀行から融資も受けた。

ルペン:フランスの銀行が融資をしてくれなかったから、やむなくロシアの銀行の融資を受けた。自分と自分の政党が貧乏であることを恥じない。

この点については、ルペンの言い分はもっとも。フランスやドイツの政府は極右政党を資金面から攻めて、金融や税務調査で追い詰めようとしてきたのは、あまりフェアでない。