ウクライナの一件で色々と忙しいです。というかエネルギー危機の方かなぁ。世界同時エネルギー危機はそもそもは2015年のチャイナショックが出発点で、上流投資が細り、そのあとトランプの中国デカップリング政策から新型コロナという、世界規模ショックのリレーで、いまに至るまで投資が戻らず。そこへ化石燃料悪玉論で儲けたい投機筋の利己的な誘導で「投資してもリクープできないどころか悪者にされる」という新たなリスクが発生して誰も投資できない状態が続いておりました。
採掘というのは放っておくと年率5%で枯れていくものなので、結構巨額の投資をしないと採掘量が維持できません。年率5%が7年の複利でどのくらいの減になるか興味のある人は計算してみて下さい。ちなみに投資の縮小率は概ね半分くらいです。
ちなみに諸々の意見を調整し、政治的問題を解決して再投資が始まったとしても採掘量的な効果が出るのは5年後です。7年掛けて落としたものが単年で戻せるわけもなく、こりゃまあ向こう10年位は世界はエネルギー危機から逃れられない。わが国のガソリン価格も、思い切った減税でもしない限りは戻りませんし、電気料金も飛ぶ鳥を落とす勢いでぐんぐん上がるでしょうねぇ。
で、欧州の目論見も外れました。自分の家のゴミ、つまりCO2を隣の家の塀の向こうに放り投げて、「オレは清潔に暮らしている」戦略を取るはずだった欧州各国、ことにドイツはゴミの投げ込み先だったロシアがああ言うことをしてくれて、しかもどんどん聞こえの悪いことを積み重ねてくれて、世間体というかパブリックイメージ上「経済は政治とは別」と嘯きながらロシアから天然ガスを買い続けるわけにも行かなくなって参りました。なので、日本以上に、とんでもないエネルギー価格の高騰に見舞われているわけです。
「天然ガスだって化石燃料だろうが?」というご意見はごもっともですが、欧州では、天然ガスはセーフという謎理論を構築して、それが問題になったときにはロシアを尻尾切りするつもりだったのでしょう。
すでに、エネルギー価格は、国民経済を直撃しているので、このままだと政権が危ういのですが、ところがここしばらくの間、彼らがメディアを動員したバカなキャンペーンで「化石燃料悪玉論」を刷り込んでしまったので、国民は「再生可能エネルギーへの転換が遅いからこういうことになるのだ」と明後日の方向でデモをスタート。方便でついた嘘が、ブーメランになって返ってきてしまいました。
言うまでもないですが、そっちは本当の原因じゃないんで、出口に繋がってないんですよ。去年欧州を直撃したエネルギー危機の真の原因はすでに書いた通りですが、最終的な引き金になったのは、北欧の渇水と欧州の風不足(欧州はあまり太陽光が主力じゃないので)。雨と風がなけりゃ、いくら設備を増やしたって電気は出来ません。再生可能エネルギーってのはそういうもので、雨と風が無い場合の備えをしていないのは、リスク対策的には、3匹のこぶたの麦わらの家とか木の枝の家みたいなもんです。「そりゃそうなるわな」としか言えないのであります。
ってな話をするとバッテリーで蓄電すれば良いという話がでてきますが、そりゃ要するにバッファーを取れるというだけの話。構造的に調整代は事前準備分に限られるし、後述する揚水発電とほぼ同じで無限には増やせない。そんなに大量のバッテリー原材料がどこにあって、誰の費用でどこに設置して、劣化したら再設置コストと廃棄物処理をどうするのかみたいなことがまだ諸々未知数で、研究も開発もその先の備えの1つとしては、大いにやれば良いけれど、足下の炎上具合は、そんな未知数のものを待ってられるような状況でしたっけ? という話になるわけです。
イデオロギーの話を全部とっぱらってしまえば、ベースロード電力を原子力発電で稼ぎ、需要の調整を火力発電でする以外の方法は無いわけです。ましてや出力の安定しない再生可能エネルギーを増やせば増やすほど、調整用の火力を増強しないと無理。何たって相手の稼働はお天気次第なんですから。そういうムラに備えて、リアタイで大幅に出力調整をできる発電設備はこの世に火力しかないのです。他には建設適地が無限にあるならばという条件付きで揚水発電があるにはあります。でも上下にセットでダムを造れる適地なんてそんなにあるわけないでしょう。
ってことで、結局ある程度システム系の確実性を求めるならば「原子力をいかに安全に使うか」と「環境負荷がかからない火力発電」、それは要するに水素とかアンモニアとかe-fuelとか。若しくはCO2回収型の火力発電ということですが、それ以外に多分正解らしきものはないです。
そこへ向けてのつっかい棒としてしばらくは、化石燃料も使うしかないでしょ? 原発は建設を急いでも10年掛かります。カーボンニュートラル系燃料や回収型はもっと掛かるかもしれない。だからつっかい棒がないと、その間冬には毎年凍死者が出るよという領域の話なのですよ。で、その化石燃料の採掘量が減っているならば、「採掘できるところから買い渋っている場合じゃない」ってことになるわけです。そういう選択肢が取れない様に自分たちで他の採掘地の採掘量を減らしてきちゃったわけですから、後悔先に立たずです。ロシアから買いたくなければ、先に挙げた次世代技術を急ぐしかないですが、と言ったって限度があります。数年縮めば御の字でしょう。
で、またここでややこしいのはウクライナとロシアの話。「んじゃ可哀想なウクライナを無視してロシアから天然ガスを買うのか」みたいなことになるのです。
これねぇ、難しい。リアルな話、西側諸国の常識としては、国家はもっとパブリックイメージを大事にすると思っていたので、ロシアがウクライナ全土へ侵攻作戦をやるなんてまあ思っていなかったわけで、そこは自分を尺度に想像し過ぎていたのは事実です。あいつらはいまだに紛争解決方法のそこそこ高い順位の選択肢に「武力はあり」だと、そしてそれは他国から一定の理解が得られる手段だと思っていたのです。
ただその価値感はウクライナ側も同じで、まあ今回諸々勉強してみれば、彼らもまたロシアと似たようなことをやっていたし、どうも「ボクらとは価値感と常識が違うぞ」と。本質的なことを言えば、やはりそこは兄弟国家なので、まあ立場が違えば同じ事をするタイプ。多分それはそうなのです。だから「ロシアが悪でウクライナが善なんてのは乱暴だ」というのは多分正しい。
けれども、まあ今この瞬間どっちがどっちの国境線を越えて、民間人を虐殺しているのよ。という話になれば、相手がゲリラ作戦を取ってジュネーブ条約に違反していようが、社会は印象と感情で悪者を決めるものです。国際法の下の厳密な過失相殺論ではなく「誰が悪者に見えるか」であり、言ってみればケインズが「株式を美人投票に例えたアレ」です。株価は企業実績を厳密に反映するものであるべきだなんてことを言っても始まらないのと同じ。まあ一方で「あの株価はバブルだろう」と批判するのは健全ですが、株価と業績の不一致を真剣に問題提起し始めると、それはそれで「キミ大丈夫?」という話になります。
あー、やれやれ。簡単に「ガソリンが高くなるとBEVが売れるかどうか?」とかで書いてくれとか言われるのですけど、ここまでの話を全部説明しないと、ガソリンの話のスタートラインに着けないんで困るんです。エネルギーは足りてません。今までと同じやり方なら、ガソリン価格が下がる見通しは立たないです。
そこを前提に、緊急対策を講じるとするならば、という話がようやく始められるのです。ガソリンには課税根拠の無い税が色々課せられていて、一方でBEVは車両の取得から維持、電気料金に至るまで、山盛りの優遇が載っていて、BEVが普及していけば、そんなことはいずれ続けられなくなるし、その時どういう課税システムになるかは未知数で、そこの条件がわからない以上、何とも言えないとしか言えません。
バッテリーの需給逼迫によって、BEVが自動車メーカーにもたらす利益は元々薄いのですが、いずれはCO2クレジット制度が供給過多になって、メーカーの利益も減ることなどを考えると要素が多すぎてどうにもならんのですよ。まあ向こう2〜3年であれば、BEVに急激な課税がされるリスクはほぼないだろうと思いますが、純粋な電気料金の値上がりとか、時間帯での充電制限みたいなものが、このエネルギー危機の中でどうなるかは全く不透明としか言い様がないです。
なので「ガソリンが高くなるとBEVが売れるかどうか?」という問いに関しては、もう政策次第。ガソリンの半分を占める税金が免除されたら、むしろエネルギー危機前より安くなる可能性もあるし、でもそんなことを政府がやるかねぇといえば懐疑的。それでも選挙の都合によってはわからんよねと、そういうことです。
編集部より:この記事は自動車経済評論家の池田直渡氏のnote 2022年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は池田直渡氏のnoteをご覧ください。