サブスクと言いたい富士通、言いたくない携帯会社

関谷 信之

metamorworks/iStock

富士通の新PCサービス「FMV Prime」が炎上しています。

国内PCメーカー初の本格的なサブスクリプションサービス「FMV Prime」提供開始 : 富士通クライアントコンピューティング

国内PCメーカー初の本格的なサブスクリプションサービス「FMV Prime」提供開始
国内PCメーカー初の本格的なサブスクリプションサービス「FMV Prime」提供開始: 富士通クライアントコンピューティング

富士通プレスリリースより

「国内PCメーカー初の本格的なサブスクリプションサービス」
「月々わずかな金額で、安心とパソコンが『手に入る』」

と銘打った新サービス。発売したのは、富士通の関連会社 富士通クライアントコンピューティング株式会社(以下 富士通クライアント社)です。

炎上したのは、コスパ・ターゲット・広告、3つの面で問題があるからです。

1つ目は、支払総額の179,280円(3年プラン)が、直販価格の89,333円(キャンペーン価格 ※1)の約2倍と、かなり割高感があること。

2つ目は、ターゲットを、パソコンのスペックや価格に疎い「PC入門レベルやシニア層」(※2)としていること。

そして、3つ目は、解約に支払総額の残金相当+手数料を支払う必要がある、つまり実態は「サブスクリプション」ではなく、分割支払い購入(割賦購入)であること。

シニア層が、サブスクリプションという言葉を勘違いし、割高な商品を買ってしまうのではないか?

そう懸念する声がSNSで散見されます。

そもそも、サブスクリプションは「所有ではなく利用」です。なのに、プレスリリースのサブキャッチコピーに「パソコンが手に入る」とある。コピー文の中でさえ矛盾が起きている。広告作りの粗さが目立ちます。

今回は、広告宣伝における、言葉の置き換えの弊害について考えたいと思います。

サブスクリプションとは「所有ではなく利用」

サブスクリプションとは、定額料金で利用するコンテンツやサービスのことです。

多くのビジネス書では「所有から利用へ」と定義づけています。

「所有から利用への大転換」
(サブスクリプション 小宮 紳一/著 創元社)

「『所有』から『利用』への変化は、ビジネスに広がる成長機会」
(サブスクリプション-製品から顧客中心のビジネスモデルへ(雨宮 寛二 KADOKAWA))

「所有から利用へ、販売から関係づくりへ」
(サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方 アン・H・ジャンザー 英治出版))

など。

富士通クライアント社自身も、

サブスクの特徴(とくちょう)は、商品自体を「買う」のではなく、商品を「利用」する権利を買うことにあります。(中略)ただし、サブスクを解約すると手元に商品は残りません。

サブスクってなに? – FMVキッズ : 富士通パソコン(FCCL)

と同様の定義をしています。

「所有ではなく利用」。この定義からすると、サブスクリプションは目新しいものではありません。広義には、賃貸住宅やレンタカーといったレンタル・リースも含まれます。

一方、このFMV Primeは、「利用ではなく“所有”」です。実際に、所有権が顧客に移転します。

第8条(PCの引き渡しおよび所有権の移転)
2.PCの所有権はPCのお客様への引き渡しが完了したときに、当社からお客様に移転するものとします。

富士通パソコン | FMV Prime サービス利用規約

これは「売買」ですね。サブスクリプションとは言えません。

一般的な定義とも異なる。自社の定義とも異なる。にもかかわらず、なぜ、サブスクリプションという言葉を使ったのか。

理由は、別の言葉に置き換えて、異なる印象を与えるためです。

「分割購入」という言葉では、新商品が埋没してしまう。けれど、サブスクリプションという言葉なら、話題性を喚起できる。気軽に購入できる印象を与えることもできる。だから、言葉の意味を歪めてでも、サブスクリプションという言葉を使いたかった。そう推察します。

サブスクリプションと言いたくない携帯会社

サブスクリプションという言葉を「使いたくなかった」業界もあります。携帯会社です。

携帯各社は、2019年後半から、利用期間終了後スマートフォンを返すことを前提に、月々の料金を割り引くプランを開始しました。ドコモの「スマホおかえしプログラム」などが該当します。

ドコモプレスリリースより

顧客は(あらかじめ下取り価格(※3)を差し引いた)料金を、利用した期間支払う。契約終了後、機器は返却する。機器の所有権は、一度顧客に移動するものの、最終的には事業者に戻る。

これは、実質的には「所有ではなく利用」、つまりサブスクリプションです。

FMV Primeが、販売ではなくサブスクリプションと称したのとは対照的です。なぜ、サブスクリプションとしなかったのか。

理由はFMV Primeと同じ。「別の言葉に置き換え、異なる印象を与える」ためです。

高額となってしまったスマートフォンでも割安感を出したい。けれど、所有感が薄れる「サブスクリプション」やレンタルという言葉は使いたくない。だから「スマホおかえしプログラム」という名称を創出した、ということではないでしょうか。

そのキーワードが分かりやすい表現か

ドコモは「おかえし」という言葉を用いた理由について以下のように述べています。

下取りではなく、”おかえし”という名称になったのには、どのような意味があるのでしょうか。
「一般のお客さまに認識されやすい、分かりやすい表現にしたかったというのがあります。」(ドコモ 営業戦略担当課長 杉崎晴彦氏)


「スマホおかえしプログラム」の誤解とは? ドコモに聞く、新料金施策の手応え

プラン発表当初、これらのプランは「これレンタルじゃないの?」といった投稿がSNSで散見されました。

「分かりやすい表現」を望むのであれば、筆者のような携帯電話黎明期からのユーザーには「レンタル」。若いユーザーには「サブスクリプション」。そう言ってもらった方が分かりやすい。私見ですがそう思います。

こういった言葉の置き換えは、本来の意味を歪め、実態を伝わりづらくします。

Amazonプライムのユーザーは、FMV Primeもいつでも無料で解約できる、と考えるかもしれません。携帯電話(ガラケー)からスマートフォンに買い替えたユーザーは、数年後に返却しなければならない、ということを理解していないかもしれません。

PCやスマートフォンなどの市場には、これらを苦手とする顧客が一定数います。話題性や注目度を高めるため、実態を捉えづらい言葉を用いる。こういった広告手法は慎んでほしいものです。

【参考 注釈】

※1 2022年4月27日 14時までのキャンペーン価格
※2 富士通「PCサブスク」値段は妥当か 「スペック低い」の疑問をぶつけた
※3 ドコモでは代物弁済として処理している