昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。
何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。
今回は、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告の続き。
一番大事な観測の統計がほとんど載っていないことを以前から何回か書いてきた。
もっとも有名なサンゴ礁であるグレートバリアリーフについて、筆者の知っている観測の統計では、サンゴ礁の被覆面積は増加し、2020年には観測史上最大になった(解説記事1,2,3)
この図はピーター・リッド氏によるもの。元データはオーストラリア政府の海洋科学研究所(AIMS)によるもの。
左から、北部、中部、南部のグレートバリアーリーフ(GBR)。この3つを集計したのが図1だ。
サンゴによる被覆の面積は、ハリケーンによる破壊、ヒトデの大発生による食害、それに白化によって大きく変わるが、やがて回復する。
白化というのは、動物であるサンゴが高温などのストレスを感じたときに、共生している褐虫藻を追い出して、色が白くなることだ。たいていはすぐに回復するが、ひどいときにはサンゴが死ぬこともある。
なぜこのような図がIPCC報告に載っていないのだろうか?
IPCC報告に載っていたのは、以下の図3と図4だ。図3の中段は2016、2017年に白化が起きたことを示している(説明の詳細は略)。
図4は、一見すると、観測の統計らしく、しかも、右肩上がりで赤くなっていて、60%ものサンゴ礁が激しく白化したと書いてあるので、一大事のような印象を受ける。
けれどもこの図は奇妙だ。横軸は時間ではなくて観測地点数になっている。普通は時間をとるのではないか? そうすると単調な右肩上がりではなく、もっとジグザグになりそうだ。
それに、縦軸はどうやら観測地点数のうちの何パーセントか、ということのようだ。そうでないと、2016年の60%という数字は図3中段(60%以上が白化したという赤い部分は少ない)と整合しそうにない。
だがこれでは、観測した地点が白化した地域に集中していれば、縦軸はいくらでも高い数値になってしまう。
それに、白化自体は、エルニーニョに伴ってGBR付近で無風快晴の状態が続くと、海面近くの水温が上がり、自然現象として起きることだ(ピーター・リッドによる著書。蛇足ながら、無風快晴のとき海水浴に行くと、異様にぬるいことがあるけれど、あれと同じ状態だ。サンゴにはストレスになる。)
白化によってサンゴ礁がダメージを受けて死滅するならば問題だが、それは、まずは図1と図2のような観測の統計で確認すべきことではないのか?
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1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
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・IPCC報告の論点㉛:太陽活動変化が地球の気温に影響した
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・IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
・IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか
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・IPCC報告の論点㊱:自然吸収が増えてCO2濃度は上がらない
・IPCC報告の論点㊲:これは酷い。海面の自然変動を隠蔽
・IPCC報告の論点㊳:ハリケーンと台風は逆・激甚化
・IPCC報告の論点㊴:大雨はむしろ減っているのではないか
・IPCC報告の論点㊵:温暖化した地球の風景も悪くない
・IPCC報告の論点㊶:CO2濃度は昔はもっと高かった
・IPCC報告の論点㊷:メタンによる温暖化はもう飽和状態
・IPCC報告の論点㊸:CO2ゼロは不要。半減で温暖化は止まる
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・IPCC報告の論点㊺:温暖化予測の捏造方法の解説
・IPCC報告の論点㊻:日本の大雨は増えているか検定
・IPCC報告の論点㊼:縄文時代には氷河が後退していた
・IPCC報告の論点㊽:環境影響は観測の統計を示すべきだ
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・IPCC報告の論点52:生態系のナマの観測の統計を示すべきだ
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