知床の観光船沈没事件はいくつもの不幸が重なった事件でした。ただ、不幸はたまたまそうなることと不幸を呼び込んでしまう場合の両方があります。今回の事件は後者とみています。通信機器が不調でも出航するのは船長の勘に頼る慢心以外の何物でもありません。ちなみに船長の権限は社長より重いのが船の世界では普通です。逆に言えば専門知識のない社長はお飾りで運行については実質支配権が及ばない業界の特殊性があったのではないかと睨んでいます。
では今週のつぶやきをお送りします。
市場は「悲喜こもごも」
ハイテク主要各社の決算が出そろいました。私の評価はメタ〇、マイクロソフトとアップル△、グーグルとアマゾン✕という感じかと思います。メタは期待感がなかったので想定外という意味です。ハイテク株はやはり基調としては厳しいように見えます。日経には「飽和迫る米動画配信市場、みえた『天井』」という記事もありますが、新しい技術やサービスも一瞬のうちにレッドオーシャン化します。ブルーのうちに市場制圧をするために多額の資本投入と当面の赤字を覚悟できる経営のやり方も通用しなくなってきたかもしれません。
ダウやナスダック市場は落としどころを探す展開になっています。週明けからは5/4(木曜日)に発表されるFOMCの結果を見たいとみられ、動きにくい展開です。その間、引き続き決算発表が続くわけですが、結局今までのところ、決算の勝ち組は資源関係のように見えます。特にカナダの企業に好決算見込みが続いています。日本は5/2(月)の通常営業のあとはFOMCの結果が出る市場を受ける5/6(金)だけになるので5/2の東京市場は逃げ腰マネーのろうばい売りかもしれません。
ただ、1-3月のGDPがマイナスになったということは「山より大きなイノシシは出ぬ」と同じで、今予想されている金融引き締め予想を超える強硬派は萎むでしょう。何度も言うようにアメリカの4月の消費者物価指数がどの程度に収まるのか、これが市場の警戒感の緩和につながるのか、極めて重要になります。最後に円相場ですが、日銀決定会合を受けた黒田さんの会見も頑固だと思います。ただ、日本が金融引き締めできない独自の理由の一つにコロナの政府対策で金融機関が低利貸しを実施していることもあるでしょう。市場への「思いやり」緩和なのかもしれません。
ユニクロが仕掛ける構造改革
ユニクロの学生服を埼玉の高校が採用しました。いみじくも学生服専門の会社で納品が間に合わず、社長が謝罪に追い込まれる事態になったシーンはまだ記憶に新しいかと思います。ユニクロのこの制服は組み合わせが24通りあり、価格は14000円程度と従来の1/3に抑えられるとのことです。直感ですが、今後、ユニクロ製品を採用する学校が雪崩を打ったように増えるとみています。
私は学生服とランドセルに非常に違和感を覚えているのです。まず、価格。ランドセルは5万円程度し、祖父母から孫へのギフトとして有力商品の一つです。では最近のランドセルに触れたことがある方はどれぐらいらっしゃるでしょうか?正直、高級ブランドのカバン並みの品質だと思います。小学生ですから当然、使い方は荒い、だけどそれに耐えるようなクオリティということだと思うのですが、普通に使っていれば6年間使用後もまだピカピカなのです。これを「さすが日本のランドセル」というのか、「これ、もったいなくない?」と考えるかです。ランドセルは逆立ちしても中学校では使わないのです。リュックが主流の時代にこのランドセルを強制的に持たせるのは既得権の確保ではないか、と疑いたくなります。
同様に学生服ですが、これは私服に比べて金がかからないからよいという声も多く、生徒指導の先生からすれば「規定違反」を探す手間がないという理由はあるのでしょう。校則改革も取りざたされる中、日本が進むべきは個性の助長。ユニクロならば一般的浸透は高く、24種類という適度な選択肢、更には価格が大幅に安いことは反対する理由がないように思えます。想像するに学校用品を納入する業者とはそれなりに「今年もよろしく」という関係だったのでしょう。変化という意味ではここにも大きくメスを入れる必要がありそうです。
日本人社長と外国人社長
日経に「セブン、外国人が社長になる日」とあります。セブンよ、お前もか、と思うのか、アメリカの大手コンビニ、スピードウェイを買収した時点でセブンは違う企業になったのだ、と悟るべきなのか、どちらでしょうか?記事でちょっと驚いたのはアメリカ部門のトップの報酬が27億円、井坂社長はその20分の1という現実。つまり、北米をマネージするには日本の社長の20倍の報酬を支払わねば人は来ないということなのでしょう。ですが、営業利益もアメリカの方が700億円程度上回る現実を突きつけられると「おいおい、世界に通用する日本人社長はいないのかね?」になりかねません。
医薬品の武田がグローバル企業化し、ウェバー社長の独り舞台になっています。この会社はもう日本人の会社でもないし、日本人社員が30年勤めれば執行役員になれる会社でもありません。JT日本たばこもグローバル企業の一つ。私がいつかは外国人社長になると思っているのが、ファーストリテイリング、楽天、日本電産といった創業者系企業のトップのバトンタッチ。これらの企業は単に巨大企業になっただけではなく、グローバル化を推し進めた結果、日本人でこれほどの企業を支配できる人はまず見つからないだろうとみています。
私が過去15年間、このブログで言い続けていた「日本人の国際化」を育まなかったことによるギャップです。企業は国境を超え、直接、間接投資を進め、売り上げや利益の大きな部分を海外に依存しているのに経営者はドメそのもの。2000年代初頭、MBAブームとなったもののそれらの人材は日本的企業風土になじめず国内系と外資系勤務者が明白に分離されたという事実をいまだにメディアは指摘せず、企業は見ぬふりをしてきました。このツケは相当大きなものになるでしょう。ところで海外ビジネスといえば商社ですが、商社になぜ外国人社長がいないか、考えたことがありますか?あのビジネスは海外には存在しない「ザ ジャパン」の特殊性故に代替が出来ないのです。
後記
海外で仕事をしていて思うこと。「マゾじゃないとやってられない」。バンクーバー郊外で計画している高齢者向け住宅事業の許可取得作業は2年7か月の交渉、作業、議会決議4回を経てようやく許可が出ました。日本の方にはこのプロセスは絶対に理解できないと思います。それでも今回は役所とのディールを自分でこなし、弁護士も雇わずに済みました。以前バンクーバーダウンタウンの開発許可取得は計画から7年かかりました。私の仕事は「耐えに耐える」そんな世界です。これでようやく祝杯を挙げられます。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月30日の記事より転載させていただきました。