魅力的な美術館レストラン「ル・カモンド」

加納 雪乃

パリ旅行の目的に、美術館巡りを含める人は多いだろう。ルーヴル美術館、オルセー美術館、国立近代美術館という、国の大きな文化財産であるメジャー3美術館に加え、マルモッタン美術館、装飾芸術美術館、市立近代美術館、ピカソ美術館など、中小規模の国公私立美術館も、パリのあちらこちらに点在している。

ラグジュアリー業界の美術館参入も盛んで、1994年に完成したジャン・ヌーヴェル建築のカルティエ財団に続き、2014年にはフランク・ゲイリー建築のルイ・ヴィトン財団、そして2021年には安藤忠雄が内装を手がけたブルス・ド・コメルスといった、コンテンポラリーアートの素晴らしい美術館も続々オープン。パリはますます充実したアートシティになった。

そんなパリの美術館は、ランチやお茶を楽しめる魅力的なレストランやカフェを併設しているところも多い。特にここ数年来、美術館レストランのレベルはどんどん上がっており、メディアでも頻繁に取り上げられている。

オルセー美術館は、19世紀の豪奢な内装の高級レストランとポップな雰囲気のカフェを併設。パリの歴史に浸れるカルナヴァレ美術館やモンマルトル美術館は、夏になると緑豊かな美しいテラスカフェをオープン。ブルス・ド・コメルスにはフランスを代表する料理人ミシェル&セバスチャン・ブラス親子が手がけるレストランが入り、予約必須の大人気店だ。

魅力的な美術館併設レストランが多くある中でも、ニッシム・ド・カモンド美術館横の「ル・カモンド」は、特におすすめしたい、隠れ家的な素敵な空間。

この美術館は、19世紀末のパリを代表するブルジョワ、モイズ・ド・カモンド伯爵の邸宅だった館。審美眼優れたカモンド伯爵がコレクションした18世紀の工芸品や調度品が、伯爵が暮らした当時の雰囲気のまま展示されている。ベル・エポックを謳歌したパリの華やかさに浸れる素晴らしい美術館だ。

その横にある「ル・カモンド」は、美術館同様に歴史的建造物に指定されている風情ある建物。高い天井が美しい店内を抜けると、石畳が美しいシックなテラス席。周りには木々が生い茂り、ニッシム・ド・カモンド美術館の建物や庭が目の前に見える。

「ル・カモンド」のシェフは、巨匠料理人アラン・デュカスに薫陶を受けたファニー・エルパン。

「ル・カモンド」シェフのファニー・エルパン

食材はできる限りパリ近郊産を生産者から直接仕入れ、魚介は持続可能な種類を選ぶなど、自然環境への配慮に強くコミット。野菜の皮は捨てずに野菜ブイヨンに仕立て魚の茹で汁にするなど、食材廃棄にも高い意識を持つ。

(左)塩やハーブでマリネしたサーモン、グリーンピースのピュレ
(右)牛ハラミ肉、春が旬のアスパラガスと新じゃがいもを添えて

旬の食材を、食材そのものの風味を大切に、シンプルかつ美しく仕上げる料理は、高級住宅地であるこの界隈の住人やエリートビジエスマンたちに大人気。夏のテラス席は予約必須だ。

今や美術館は、絵画や彫刻、調度品などのアートだけでなく、ガストロノミーというアートも楽しめる場所。美術館巡りの際には、「ル・カモンド」をはじめとする美術館レストランの魅力を是非体験してほしい。

テラス席の様子

Le Camondo
61bis rue de Monceau 75008 Paris
lecamondo.fr