北米で温泉旅館は根付くか?

星野リゾートの星野佳路代表が「グローバルのホテル市場の主戦場である北米に進出する」(日経)と述べています。なかなかの挑戦です。日本に来たことのある外国人は温泉旅館を一定評価します。但し、好きな人と苦手な人が明白に出る分野でもあります。

旅行を通じた異文化へのチャレンジは「非日常性」を期待するわけですから「大いに受ける」と思われがちですが、意外や意外、外国旅行しても異文化を全く受け入れない外国人が多いのも事実なのです。特にコンサバ派とされる人々は自分が普段口にするもの以外、一切触らないという極端な人もいて、それゆえに北米地方都市に行くとマクドナルドが一番喜ばれるレストランだと言われるゆえんです。

tructuresxx/iStock

そんな北米文化の中で日本はしょうゆや豆腐、日本酒から始まり、最近では鰹節やゆずを高級レストランのシェフが好んで使うようになるなど異文化の浸透が少しずつ進んでいるのが現状です。豆腐の普及ではお亡くなりになりましたが、私の母校の先輩がロスアンジェルスで努力に努力を重ねて普及させました。初めは市場の反応は悪かったそうです。ある時、ヒラリークリントン氏がある放送でたまたま「豆腐は健康にいい」と述べてくれて全米でブームに火が付いたとされます。当然、それまでに豆腐普及の下地を作っていたから一気に広がりを見せたわけで突然単発的にビジネスをしても難しいものだ、と改めて思った次第です。

私の友人に北米でも有数の温泉堀りの専門家がいます。福島県出身でちょっとズーズー弁の英語だけれど、彼は政府関係者、大学研究機関、そして民間事業者から様々な温泉の調査や研究について委託され、道なき山を歩きながら温泉を求め、日々カナダ、アメリカを飛び回っています。

彼とは温泉開発談義をしばしばするのですが、彼が掘り当てたバンクーバーから1時間ぐらいのところにある湖に面しているゴルフ場内の温泉に個人的には非常に興味がありました。ゴルフ場の中国人オーナーが温泉旅館を建てるというので様子を見ているのですが、彼がどうやら諦めたか規模縮小のようだと教えてくれました。温泉旅館は非常にしっかりしたコンセプトと日本の温泉旅館と北米の地向けのマーケティングが必要ではないでしょうか?

まず、温泉ですが、そもそも風呂にあまり入る習慣がなく、ましてや大浴場など存在しない世界で風呂をどう売るのか、その価値を発掘する必要があります。二番目に食事です。Prix Fixe Menu (シェフお任せのメニュー)は万人受けではありません。

私がカナダ人を日本食で接待してもそこそこ人数がいると必ずコース料理の中で抵抗を示すものがいくつか出てくるのです。寿司や天ぷらといった単品なら理解はあるのですが、懐石や珍味になるとまず説明するのが大変でしょう。(欧米人は知らない食べ物に対してはそれが何でどうやってつくられているのか詳細に説明を求めます。)

では最後のおもてなしですが、これはそもそもサービス文化が発達している北米にも丁重で品のあるもてなしはあるので必ずしも日本的なスタイルにしなくてもよいと思います。

北米のリゾートホテルには非日常を楽しめる仕組みはそれなりに存在します。基本は温泉の代わりにスパで女性のみならず、男性客が多いのは日本ではあまり見かけない光景でしょう。食事もPrix Fixeのホテルの場合、洋食が主体でフレンチよりもイタリアンやスパニッシュタパスといったカジュアルで多少の選択肢があり、気楽なものが喜ばれるように感じます。和食は使い慣れない箸を使うこともあり、堅苦しい感じと厳かすぎるきらいもあるかもしれません。

結局、この話はリゾートとは何か、を掘り下げる必要があります。私の理解は「無の中の有」。なのでディズニーは既に施設という「有」が存在するのでリゾートにはならないのです。温泉は日本的なリゾートだと思います。一方で、北米人は遊び上手ですからリゾートの楽しみ方は無限の広がりがあります。そこは「型にはめない」ことが重要なポイントで、日本の温泉のように時としてお仕着せ的なサービスは嫌がられるでしょう。

北米で温泉旅館は根付くか、と言えば星野さんのチカラでも水平展開に10-20年かかるかもしれません。もちろん、一部のセレブや日本ファンは利用するでしょうから初めは大ヒットするかもしれませんが、ただそれはごく一部のマーケットセグメントです。先ほどの豆腐の話ではないですが、そこからの広がりはなかなかタフだと思います。

ちなみに今週号の日経ビジネスの特集はなぜか「サウナ」です。気軽で頻繁に行けるサウナはリフレッシュする手段として最近ブームだとのことですが、日本旅館という重々しい感じより気楽なほうを日本人も好み始めている一つの兆候なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月1日の記事より転載させていただきました。