原発再稼働は今や日本の責務、萩生田大臣の推進力に期待

岸田総理は「話はよく聞くが即答を避ける」ために「検討する」を多用しているようである。その姿勢を捉えて「剣闘士」あるいは「遣唐使」の言葉遊びか、「検討士(使)」などと揶揄されている。

しかしロシアによる侵略という国際社会にとっての“有事”が勃発してから約2ヶ月で、エネルギー政策に関する実質的な姿勢の修正を表明した。報道によれば、民放テレビ局の番組で次のように語ったとされる。

岸田文雄首相は26日夜、テレビ東京の番組で、物価高騰に対応する「緊急対策」の柱の一つであるエネルギーの安定供給について、「できるだけ可能な原子力発電所は動かしていきたい」と述べた。安全性には配慮しつつ、国民に再稼働への理解を求めていく考えだ。(朝日新聞デジタル4月27日より引用、太字は引用者)

これだけならば、いつもの「あらゆる選択肢を検討する」という趣旨の発言から特に大きな変化とは言えないが、姿勢の修正と筆者が感じたのはその続きの部分である。

番組で首相は、ウクライナ情勢による原油高などで、エネルギー供給が不安定になっていることに触れ、電力の逼迫(ひっぱく)やガス料金の高止まりへの懸念を示した。そのうえで「原子力発電所を1基動かすことができれば、世界のLNG(液化天然ガス)市場の年間100万トン、新たに供給するという効果がある」と、再稼働の効果を強調した。(同上)

岸田首相「できるだけ原発を動かしていきたい」 原油高への対応で

岸田首相「できるだけ原発を動かしていきたい」 原油高への対応で:朝日新聞デジタル
 岸田文雄首相は26日夜、テレビ東京の番組で、物価高騰に対応する「緊急対策」の柱の一つであるエネルギーの安定供給について、「できるだけ可能な原子力発電所は動かしていきたい」と述べた。安全性には配慮しつ…

これは、今や国際社会に対する日本の責務ではないだろうか。

原発から目を背ける日本のエネルギー政策は理解されるのか

日本は、世界第三位の経済規模を持つG7構成国でありながら、ロシアによる現状変更の試みへの対抗については金融制裁や人道支援にとどまっている。特殊な国内事情から「防衛のための攻撃兵器」を送ることができないからである。ミサイルや戦車など、ウクライナ側が欲する器材を送ることは今後も難しそうである。

この状況は、「世界秩序の恩恵(経済)を全身に受けながら、その秩序を守る働き(ウクライナ防衛支援)についてはNATO諸国や米国の背中に隠れている」かのようである。

冷戦終結以降の30年間、日本は貴重な“体質改善”の時間を浪費した。国内事情の改善はなされておらず、日本の行動限界は質の面では湾岸戦争の時からあまり変わっていない。また経済規模も世界第二位から第三位に後退し、量的な面でもその存在感をむしろ大きく後退させてしまった。

資源供給国ロシアは核使用の恫喝に加え、経済制裁への対抗措置としてエネルギー資源の決済に自国通貨を指定したりガスの供給停止を示唆したりするなど、エネルギー資源を「戦略兵器」として活用している。

一方“資源小国”日本には、使用可能でありながら国内事情を優先して原子力発電所を停止させている。岸田総理の言葉を借りるならば「原子力発電所を1基動かすことができれば、世界のLNG(液化天然ガス)市場の年間100万トン、新たに供給するという効果がある」というのに、である。

ここで「速やかに10基再稼働させる」前提で仮計算するならば、年換算1,000万トンのLNGを他の需要国に回すことが可能となる。仮定に基づくシナリオにすぎないがそうなれば、市場を通じて価格の安定や受給の逼迫緩和という形で国際社会の安定に貢献できるのではないだろうか。

はたしてこの「原発再稼働を促進できない国内事情」は、世界からどう見えているだろうか。報道機関の見解が即世界の見方というわけではなくただの参考にすぎないが、NY Timesのツイートを参照すると、次のようなコメントがある。

あえて和訳はしないが、これは上品に嘲笑されているのではないだろうか。もしそうだとしても、筆者には返す言葉がない。

今回も重要な鍵を握るのは萩生田大臣

報道によれば、岸田総理の発言を受けて(エネルギー政策を主幹する経産省・資源エネルギー庁を指揮する)萩生田光一経産大臣が次の通り述べたという。

萩生田光一経産相は28日の閣議後会見で、岸田文雄首相の原発再稼働に関する発言について「国が前面に立って国民に呼びかけ、理解を得るための一環」と述べた。

再稼働については、安全確保を大前提に原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合には、その判断を尊重し、地元の理解を得ながら進めるという政府方針を改めて示した。(ロイター4月28日より)

ここからわかることは、「再稼働の前提条件の一つとされる地元の理解を促進するために、国(総理)が前面に立って国民に呼びかけを行ったということだろう。
また総理だけでなく、萩生田大臣もまた国のために大忙しである。ロイターの記事は次のように続ける。

萩生田経産相は5月2―7日に訪米することを明らかにした。レモンド商務長官、タイ通商代表、グランホルムエネルギー長官ら米閣僚と会談を行う予定。半導体の供給網強靭化や輸出管理、インド太平洋地域の経済秩序の構築、エネルギー安全保障の確保などについて議論を行う。「特に半導体については、日本国内でもさまざまな取り組みを始めた。日米で協力できる分野をしっかりと確認したい」と述べた。(同上、太字は引用者)

岸田首相の原発再稼働発言、国が前面に立ち国民の理解得るため=経産相

岸田首相の原発再稼働発言、国が前面に立ち国民の理解得るため=経産相
萩生田光一経産相は28日の閣議後会見で、岸田文雄首相の原発再稼働に関する発言について「国が前面に立って国民に呼びかけ、理解を得るための一環」と述べた。

連休も仕事とのこと。感謝しかない。

また、論点が逸れるのでここでは詳述しないが、かつて「産業のコメ」とまでいわれていた半導体は、ロシアにとっても戦争に必須の各種兵器、ミサイルや航空機を維持するための基幹部品である。つまり「ロシアにとっての半導体」は程度の差はあれ(日中戦争を戦いながら更に対米開戦を意思決定した1941年の)「日本にとっての石油」となる可能性を秘めていると考える。要するに半導体の逼迫はロシアがより危険な行為(核使用や侵略対象の拡大)を決断する可能性を引き上げる重要物資だと考えられる。したがって、その供給網強靭化や輸出管理を日米で議論するという萩生田大臣の訪米には、極めて重要な意義がある。

大学入試改革中止の際、萩生田大臣(当時文科大臣)は異論を恐れずあるべき施策(中止)を断行したことで、結果として大混乱を未然に防いだ。休むまもなく今度もまた極めて重要な役割、つまり「国際社会に対する日本の責務」を担うことになった。またも日本国内では激しい異論や反論が予想される難しい舵取りであるが、その推進力(剛腕)に、筆者は大いに期待している。