コロナ感染状況報道における不思議な疑問点 --- 山登 一郎

一昨年からコロナ流行が何波にも渡り襲ってきた。報道では感染者数について情報を毎日提供している。その報告には、ちょっと考えると不思議な問題点が点在している。報道関係者も、アナウンサーも、その情報の大本である政府厚労省や自治体も専門家も、そしてそれを視聴する国民も、皆疑問に思わないのだろうか。そのことが不思議だ。

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どんな感染者数情報なのか。どのテレビ報道でも、きっと新規感染者数、(行政)検査数、陽性率、病床使用率、などなどを報告する。3月末頃では、例えば都で8000人の新規感染者、行政検査数16000、陽性率30%、病床使用率20%などと述べる。その他に重症者に関する情報もある。

さて、この公表新規感染者数は、先の記事のように、行政・保険適用検査での陽性確定者数だ。基本は、発熱で保健所に連絡して検査を受ける行政検査。あと発熱外来などで医師に相談して検査する保険適用検査。濃厚接触者などは保健所が管轄する。さらに無症状者中心の市中の民間自費検査陽性者は、この行政検査を再受検して陽性確定される。

どこが疑問なのか。

1.検査数に対する感染者数は50%ではないのか? 片や行政検査数、片や行政・保険適用検査陽性者数だ。だから保険適用検査がいくらかあるのだろう。是非その数も一緒に報告して欲しいのに、どうしてそのような内訳を言わないのだろうか。不思議だ。

2.陽性率は、きっと行政検査数に対する行政検査による陽性者数の割合を示すのだろうか。または行政・保険適用検査数に対する発表新規感染者数の割合なのだろうか。明確に報告して欲しい。

3.また行政検査には、民間自費検査陽性者の再受検者もいるはずだが、その内訳もずっと発表されていない。これまで民間自費検査数もその陽性者数も、つまり民間自費検査情報は収集されないできた。多くの市中無症状感染者を捕捉しているはずの民間検査を無視していいのだろうか。諸外国では“誰でもどこでも”検査で、むしろ市中の全感染者数を調べているのに。

4.さて、2.で陽性率の出所が明らかになったところで、大きな問題がある。もしこの陽性率を素直に、検査に対する陽性者の割合と受け取ると、では都民14百万人の30%の400万人感染者の存在が推定できる。そんなことはないだろうとすぐに分かるだろうに。こんな陽性率を報告していて、しらけることはないのだろうか。または恥ずかしくないのだろうか。そして視聴する国民としてはとても恐怖を抱くはずだが、むしろ無関心な雰囲気なのは、そんな陽性率には意味がないと知っているからなのだろうか。

上でまとめたように、基本的には発熱有症者を検査して、その陽性者数を公表している。何らかの発熱でコロナを疑い保健所なり医師に相談して検査したうちの陽性判明の割合だ。市中感染者の割合などでは決してない。高いのは当然だろう。

本来は、大規模モニタリング検査や民間自費検査による市中一般人の陽性割合が重要で、それから市中感染状況を推定できる。その情報があれば、国民が各自市中感染状況を知り、自身の行動を自主的に選択できる。それがコロナ対策において、行政が何をおいてもまず行うべきことだろう。

それを日本では、ずっとサボってきた。政府自治体専門家などからその説明は未だ一切ない。諸外国では“誰でもどこでも”検査で、そうした感染状況を調べ、その情報を公開している。何故日本ではそれをしようとしないのだろうか。

5.病床使用率、重症病床使用率なども報告され、さらなる疑問も湧いてくる。今回は検査と陽性者数に関する上のような問題点の提起にとどめておく。国民の皆様も、報道およびコロナ対策に対して、科学的論理的な思考を駆使しながら視聴して頂きたいと願う。

さて、これまで、日本のコロナ対策における、政府自治体専門家による検査制度不備、そんな不十分な検査データを用いてシミュレーションする御用学者然とした研究者を批判した。今回御用報道然とした報道を取りあげた。

ロシアのウクライナ侵攻では、命を賭して戦況を世界に発信している。欧米のコロナ対策では、“誰でもどこでも”検査で市中無症状者を積極的に洗い出して市中感染状況情報を収集公開している。ところが日本では、有症者中心の行政・保険適用検査データだけの公表新規感染者数を公開して国民を欺いている。欧米とは似て非なるエセ情報と言ってもいいだろう。ロシアのようなプロパガンダも言論統制も無い日本なのに、報道はそれをそのまま垂れ流している。大丈夫なのか。

これらを見ていると、日本の理性、良識、良心が崩れ果てていると心配だ。太平洋戦争当時に逆戻りしないよう、国民一同十分気をつけたいと願いたい。

山登 一郎
東京理科大学基礎工学部名誉教授。大学では微生物学を講義していたが、7年前退職。2020年クルーズ船入港時よりコロナ関連の報道に注目、検査制度の不備を指摘し続けている。