政府・日銀がインフレを放置する「もう1つの目的」

インフレが世界経済の重要なテーマになってきました。アメリカは0.5%の利上げを行い、インフレ抑制に金融政策の重点を置き始めましたが、日本は金融緩和の継続という対照的な政策になっています。なぜなのでしょうか?

インフレが顕在化することによってメリットを得るためには、インフレに強い資産を保有していること、そしてお金を借りていることが必要です。

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日本政府の債務残高は1000兆円を超えており、財政赤字の拡大が続く中、正攻法では最早返済できません。インフレによって実質的な負担を小さくすることが、残された唯一の返済方法です。つまり、政府にとっては、インフレは財政赤字対策として望ましい経済状態なのです。

また、インフレ抑制のために利上げをすることは、市場金利の上昇をもたらし、政府にも日銀にもデメリットがあります。

政府は市場金利が上昇すれば今後発行する国債の金利も上昇し、資金調達コストが高まります。満期が到来した国債は借り換えを行うことになりますから、そのコストも上昇します。1000兆円で金利が1%上昇するだけで年間10兆円の金利負担増になります。税収が年間60兆円足らずの状態で、金利の上昇はできるだけ避けたいというのが本音です。

日銀も市場金利の上昇は保有している国債の評価損につながります。バランスシートの劣化は、中央銀行の信認の低下になりますから、利上げどころか金利上昇は抑えこむ必要があるのです。

このように、政府・日銀の金融引締めに対するデメリットがあることが、日本の金融緩和政策が続いている理由の1つです。

そして、もう1つの目的が、シニア富裕層への実質課税ではないかと思います。

図表は日本経済新聞電子版からの引用ですが、消費者物価の10年間の上昇率を世帯主の年齢別に比較したものです。世帯主の年齢が70歳以上では7.3%となり、29歳以下の1.1%を大きく上回るという結果になりました。

日経新聞電子版より

若年層は幼児教育の無償化や携帯電話料金の引き下げなどの恩恵が大きいのに対し、シニア層は食品や電気代などの比率が高く、インフレの影響を大きく受ける結果になっています。

世帯主の年齢が60歳以上の世帯が保有する金融資産は、家計金融資産全体の6割を超えると言われています。シニア層に偏在する金融資産を若年層に移転されることで、経済活動を活性化させることができる。

課税のような国民の反発を招く方法ではなく、インフレという預貯金中心のシニア層への「隠れ課税」によって解決しようとしている。そう考えると、一連の政策が用意周到に計画されていることがわかります。

それに対抗する方法は、いつも申し上げている通り「国と同じポジション」を取ることです。「お金を借りる力」のある人は、その能力を活用すべきです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2022年5月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。