巧みだったパウエル劇場

注目された本日のアメリカFOMCで2000年5月以来となる0.50%の利上げを決定しました。このブログでも何度か予想した通りの結果となりました。注目はパウエル議長の記者会見で私もライブで見ておりましたが、非常に落ち着いており、上手なやり取りだったと思います。

NHKより

市場の変わり目はパウエル議長へ0.75%の利上げ想定について質問が及んだ時です。議長は「0.75%の利上げ幅はコミッティ(FOMC)で積極的に議論された内容ではない」と明言し、かつ、6月と7月のFOMCでも0.50%の利上げについて議論をするだろう、と述べたのです。するとダウ、S&P、ナスダックとも方向感を失いかけていた中で突然、目が覚めたように明白な上昇基調を辿り始めました。結果としてダウは932ポイント、ナスダックは401ポイント、S&Pは124ポイントと概ね3%前後の上昇をわずか1時間強の間に記録したのです。

この0.75%を検討しなかった、という言葉の意味は大きく、市場が疑心暗鬼になりかけていただけにほっとしたとして過言はないでしょう。パウエル議長は特に労働市場が極めて健全で失業率が3.6%というほぼ50年ぶりの水準を維持していることに誇りを持つ一方、まだ失業者はいるとしたうえで、今後、更に労働市場が引き締まる可能性を示唆しています。失業率3.5%を下回る可能性についても言及していますのでまずは今週金曜日に発表される雇用統計が着目となります。

次にインフレですが、パウエル議長はいろいろな要因が重なっているとし、ウクライナ問題や中国のコロナによる供給制限を含め、コントロールできない事象が多い中でFRBとしてやれることをやるだけだと淡淡と述べていました。

また、QTに関して国債は市場で売却せずに満期になったものの再投資をしないとしました。これは結構ハト派的な措置だとみています。

スタグフレーションのリスクについては労働市場をもってしてもその兆候はない、と否定しています。概括すれば市場のコンセンサスに対してハト派的に映ったというのが正直なところです。これを受けて大きく動いたのが金と円相場です。

金も方向感をなくしていたのですが、0.50%の利上げに留まり、政策とポリシーが思ったほどアグレッシブではないことから金が買われやすい状態になり、1%ほど上昇しています。また、ドル円はパウエル議長の記者会見時に急落し、一時、1円25銭ほど下げるシーンもあり、その後、やや持ち直して現在は約1円の円高ドル安、129円ちょうど程度になっています。

円相場については4月26日のブログで「アメリカの金利の先行き(フォワードガイダンス)は今より積極的な利上げ見通しは消え、より緩和的ハト派的な展開の可能性が出てきます。これはドル円にとっては円高のバイアスがかかるわけです。『山高ければ谷深し』ですので為替に関しては近いうちにピーク打ちでその後わりと急な為替修正局面があるとみています」と書かせて頂きました。今日の時点ではこの通りの展開となっていますが、5月11日に発表される4月のCPIがキーになるとみています。

仮にCPIが6%台程度に下落すればよりハト派的ムードは出てくる可能性があります。

但し、ウクライナ問題が相当長期化する可能性があること、欧州向けの原油や液化天然ガスの需要が出てくることを考えれば物価上昇を2%台までに戻すには相当時間がかかる気がしています。今日の原油相場も6%程度上昇をしており、明日のOPECプラスでの原油増産についてどのような結論を出すのか、これまた物価に大きな影響を与えることになるでしょう。大方の予想は今までの流れを踏襲するにとどまるはずです。理由はOPECプラスのロシアが産油量の拡大を支持するわけがないからです。このところ、サウジアラビアもどこを向いているのかわかりにくくなっています。

その点からは先行きの見通しにおいて物価の高止まりと利上げ効果による需要の減退で業種業界によりまだら模様の経済情勢を見込んでおいた方がよさそうだというのが私の感想です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月5日の記事より転載させていただきました。